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Hear Me Talkin’ to You [Ma Rainey]

「ヒア・ミー・トーキン・トゥ・ユー Hear Me Talkin’ to You」は1928年にマ・レイニー Ma Rainey が書いたジャズ/ブルース・ナンバー。表記の揺れとしてHear Me Talkin’ to Yaがある。が、いずれにしてもルイ・アームストロングの「ヒア・ミー・トーキン・トゥ・ヤ Hear Me Talkin’ to Ya」とは別の曲。

老若男女を魅了するフィメール・ブルース

この曲は基本的に女性が男性に向けて歌うフィメール・ブルースで、老若男女を誘惑する内容が歌われている。AA’B形式の12小節のブルース進行。A’Bメロは常に以下のフレーズが歌われる。

You hear me talkin' to ya
私があんたに言ってることをしっかり聞きな
I don't bite my tongue
言いたいことは我慢しないよ
You wanna be my man?
私の男になりたいか?
You gotta fetch it with you when you come
そうなったときに魅了してあげる

bite my tongueは「(言いたいことを)我慢する」という意味

1番から4番まであり、1番から「放浪者 a ramble man」、「アダムとイヴ Eve and Adam」、「老いも若いも old or young」「適当に電話をかけた相手」が歌われる。

4番では性別さえも超越している。だけ少し述べておこう。まず、「もしもし交換手、609に繋いでください。 Hello, central, give me 609.」と述べられる。ついで「誰に繋がったんだ? What takes gettin’ in these」と言うことから、歌い手は609番の電話口の人物のことを知らないことがわかる。さらに「彼のか?私のか? his or mine」と投げかけられ、この発言は、609の受け手に対する「お前は誰かの連れ合いなのか」という質問として聞ける。女性であるマ・レイニーが歌っていることに鑑みて、ここで「彼女のか私のか?」と言われれば、609番の受け手が一義的に男だと言うことがわかる。だが、ここで「彼のか?」と聞いていることから、受け手が女性であっても関係なしに歌い手であるマ・レイニーは魅了することができること、このことを語っていることがわかる。さらにこれについては、マ・レイニーが若き日のベッシー・スミスと関係を持っていたり、女性を囲っていたことに鑑みると、こう歌われるのも不自然ではない。

録音

Ma Rainey and Her Tub Jug Washboard Band (Chicago, June 1928)
Ma Rainey (Vocal); Martell Pettiford (Banjo); Herman Brown (Kazoo); Carl Reid (Jug); Georgia Tom Dorsey (Piano); Johnny Parth (Tub Drums)
記念すべき初録音。マ・レイニーの録音。ほかの録音にはない迫力を覚える。また、ここではジャグ・バンドを従えており、ヴォードヴィルでやっていたことを録音にて実践しているようにも見える。

Ella Fitzgerald (NYC, October 28 and 29, 1963)
Ella Fitzgerald (Vocal); Roy Eldridge (Trumpet); Wild Bill Davis (Organ); Herb Ellis (Guitar); Ray Brown (Bass); Gus Johnson (Drums)
エラ・フィッツジェラルドの録音。マ・レイニーの録音を元にしており、ここではオルガンが入ったブルージーな録音になっている。

Norbert Susemil (New Orleans, May 2–7, 2012)
Norbert Susemihl (Trumpet, Vocal); Erika Lewis (Vocal); Gregory Agid (Clarinet, Sax); Shaye Cohn (Piano); Kerry Lewis (Bass); Jason Marsalis (Drums)
ノーバート・スセミルの録音。天才シェイン・コーンはピアノを弾いている。歌っているのはエリカ・ルイス。

The Dixielab (Sevilla, Spain, January 16-18, 2018)
Paula Padilla (Voice & Ukulele); Pablo Cabra (Drums & Washboard); Matías Comino (Guitars & Banjo); Nacho Botonero (Cornet, Clarinet And Sax); Daniel González (Bass).
スペインで活動しているディキシーラボの録音。その名の通り、ニューオリンズに志向した演奏。オリジナルの歌詞も加え、また演奏もかっこよい。


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