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Blue Skies

「ブルー・スカイズ Blue Skies」は1926年にアーヴィング・バーリン Irving Berlin が書いたポピュラーソング。ブロードウェイ『ベッツィー Betsy』のために書き下ろされた。歌ものでもインストでも非常に録音が多い、大スタンダード。

友人にどうしてもと頼まれて

この曲にかんしてはさまざまな記述があるんだけどさしあたりもっともまとまっていて記述自体もおもしろフューリアとラッサーのものを踏まえて書いてみる。

俳優・歌手のベル・ベイカーは、ブロードウェイ『ベッツィー Betsy』に大抜擢される。とても喜んだのだが、このミュージカルのためにジミー・ロジャースとロレンツ・ハートが書いた曲には満足していなかった。どうしようかと焦っていると、アーヴィング・バーリンの顔が思い浮かんだ。1926年12月の夜、ベル・ベイカーは慌ててバーリンに電話をする。「アーヴィング!明日の夜にショーに出演するんだけど曲がないの!」と彼女は言った。バーリンは曲の断片はあったが、完成された曲はなかった。ベイカーは、それでもバーリンに「私がいまある曲よりもマシよ」と言い、バーリンに曲を持ってくるように頼んだ。

ベイカーの家に着いたとき、バーリンは8小節のAメロのメロディしかなく、Bメロはまだ完成されていなかった。このBメロを仕上げるのに一晩中考えあぐねいていた。試行錯誤の結果、次の日の朝6時に曲がやっと完成する。こうしてできたBメロは、バーリンが作った中でも「もっとも輝かしいもの」になった(Furia & Lasser 2006, p. 53)。

ベイカーはさっそく「ブルー・スカイズ」を舞台のプロデューサーに持ち込んだ。『ベッツィー』は先述の通りロジャース=ハートがスコアを担当していた。が、プロデューサーはこの曲を気に入り、ロジャースとハートには内緒で、この曲を『ベッツィー』で使用する許可を出した。当然、ロジャースとハートはこの不意打ちに激怒した。しかも、「ブルースカイズ」は大変評判になった一方で、その分ロジャースとハートが『ベッツィー』のために書いた曲はほとんど話題にならなかった。

録音

John Kirby And His Orchestra (NYC August 10 1939)
Russell Procope (Alto Saxophone); Charlie Shavers (Trumpet); Buster Bailey (Clarinet); Billy Kyle (Piano); John Kirby (Bass); O'Neil Spencer
Anatol Schenker (Drums)
ジョン・カービー楽団の録音。最初のBメロでリード楽器だけになるんだけどそこが気持ちいい。そのオニール・スペンサーとジョン・カービーのビートが美しい。またビリー・カイルのピアノがアクセントになっていて最初のテーマから引き込まれる。アレンジとソロの両方がすごくかっこいい。

Royal Rhythm Boys (New York, October 23, 1939)
Slam Stewart (Bass, Vocals); Billy Moore (Guitar, Vocal); Jimmy Prince (Piano)
デッカの録音のために急遽作られたスモール・グループ。スラム・スチュワートは、ここでもアルコ+スキャットを堪能することができる。どうしてもビリー・ムーアをスリム・ゲイラードと比べてしまう。

Cats and the Fiddle (Chicago, October 10 1941)
Austin Powell (Vocal, Guitar); Tiny Grimes (Tenor Guitar, Vocal); Ernest Price (Tiple, Vocal); George Steinbeck (Bass, Vocal)
ジャイヴ・バンドのキャッツ・アンド・ザ・フィドルの録音。タイニー・グライムスが参加していた時期で彼のテナー・ギターもたっぷり堪能できる。このときなんとギター歴3年。とんでもないセンスの持ち主である。

Itzhak Perlman and Oscar Peterson (Astoria April 11-13 1994)
Itzhak Perlman (Violin); Oscar Peterson (Piano); Herb Ellis (Guitar); Ray Brown (Bass); Grady Tate (Drums)
クラシックのバイオリンではパールマンが一番好きで、大学生の時に初めて買ったジャズ・バイオリンのアルバム。やっぱりパールマンは偉大だ。まじでなんでもできる。最初のバイオリンのソロはロマ音楽風のフレーズも炸裂する。スライドで音程を合わせる瞬間があるんだけど聴くたびにゾクゾクする。また2回目のソロはベースとのユニゾン。ピッチカートで行われ途中でマイナースイングが挿入される。曲の後半に短い重音のソロがあるんだけどそこがもっともかっこいい。

Rocky Gresset (Paris April 15 or 16, 2009)
Rocky Gresset (Guitar); Costel Nitescu (Violin); Mathieu Chatelain (Rhythm Guitar); Diego Imbert (Bass)
フランスで活動しているマヌーシュジャズ・ギタリストのロッキー・グレセの録音。ジャンゴのアレンジをもとにした録音。バイオリンのコステル・ニテスクはロマの凄腕。

San Lyon (Los Angeles, 2022)
Paige Herschell (Vocals); Katie Cavera (Bass); Jenna Colombet (Violin); Dani Vargas (Guitar)
西海岸のマヌーシュジャズ・バンドのサン・リヨン。音も演奏も歌も全部かっこいい!時折聴こえるさりげない超絶ギターも素敵。

参考文献

Furia, Phillip & Lasser, Michael. (2006). America’s songs: The stories behind the songs of Broadway, Hollywood, and Tin Pan Alley. London: Taylor and Francis.


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