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Anything Goes

「エニシング・ゴーズ Anything Goes」は1934年にコール・ポーター Cole Porter が同名のミュージカルのために書いたポピュラー・ソング。トラッド・ジャズのみならずさまざまななスタイルで録音されているジャズスタンダード。

過去と現在の対比

いつの世もむかしに思いを馳せる作品は多数ある。最近だとウディ・アレンが監督した『ミッドナイト・イン・パリ Midnight in Paris』がそんな映画だろう。現在のパリの様子を嘆く主人公は古き良きパリに憧れるあまり、昔のパリにタイムスリップしてしまう。

そういった懐古趣味が大衆芸術となるのは、どこかに現在に対する救いがあるからにほかならない。『ミッドナイト・イン・パリ』でも、やはり現代に対する希望が描かれている。そして、この「エニシング・ゴーズ」もまさにそういった作品だ。

歌詞はよく言われることではあるけれど、「その年代のモラルの崩壊を反映しており[...]大恐慌におけるあらゆる物の価値の変わりやすさを表現している」 (Furia & Lasser 2006, p. 115)。たとえば「そのむかしは素敵な言葉を使っていた作家も、いまじゃ汚い言葉ばかりを使っている」やコーラスの冒頭にあるような「むかしはストッキングをチラ見しただけでドキっとしたけど、いまじゃなんでもあり」と当時のフラッパーたちの様相が歌われている(フラッパーについては、Ain't She Sweetのエントリーで少し触れた)。

ただ、この曲はそうした過去はよかったと嘆くだけではなく、現代に対する希望も歌われる。特徴的なのは「(君がなにが好きだろうと)だれも反対なんてしないよ!」という箇所だ。ここでは、時代が移り変わったのだから好きなものに対してオープンにしてよいんだ、ということを歌っているように聴こえる(あるいはもう好きにしちゃえば!と言った感じ)。そういった意味で、過去と対比した現代の状況を見つめながらその中でもなおも現代に対する希望を描いているのだと思う。

録音

Stephane Grappelli (Paris May 1975)
Stephane Grappelli (Violin); Maurice Vander (Piano); Eddy Louiss (Organ); Luigi Trussardi (Bass); Daniel Humair (Drums)
ちょっとハイがある70年代のグラッペリのパリ録音。どっからこんなメロディが湧いてくるんだろうというくらいソロが美しい。それとやはりこの録音は鍵盤楽器が2人いるところがおもしろい。ちなみにグラッペリは50年代にも録音している。そっちはちょっとオーケストラっぽいんだけど素晴らしいソロを展開している。

Tony Bennett & Lady Gaga (NYC June 22, 2013)
Tony Bennett (Vocal); Lady Gaga (Vocal); Tom Ranier (Piano); Joe Lovano (Tenor Saxophone); Lawrence Feldman (Alto Saxophone); Lou Marini (Alto Saxophone); Ron Janelli (Baritone Saxophone); George Flynn (Bass Trombone); Marshall Wood (Bass); Gray Sargent (Guitar); Harold Jones (Drums); Mike Renzi (Piano); Andy Snitzer (Tenor Saxophone ); Dave Mann (Tenor Saxophone); Keith OQuinn (Tenor Trombone); Larry Farrell (Tenor Trombone); Mike Davis (Tenor Trombone); Bud Burridge (Trumpet); John Owens (Trumpet); Bob Millikan (Trumpet); Tony Kadleck (Trumpet)
先日急逝したトニー・ベネットとレディ・ガガの録音。じつはこの録音を聴くまで「エニシング・ゴーズ」はそんなに好きじゃなかったんだけど、これをきっかけに「あれ?この録音も好き!」「これも好きだ!」と「エニシング・ゴーズ」が好きになった。レディー・ガガも大学生のときに流行ったっきり聴いてなかったんだけど、こんなにかっこいいんだって再確認できた。そういった意味で思い入れのある録音。

David Grisman & Martin Taylor (Mill Valley January 1995)
David Grisman (Guitar); Martin Taylor (Guitar)
グリスマンがヴィンテージのL5を、マーティン・テイラーがヴィンテージのSuper 400を弾いている。とんでもなく音がいい…。アコースティック・ギターの美しさを堪能できる録音。この曲が入ったアルバムは使用した楽器の詳細が載っているので、そういった音の違いを楽しむのも醍醐味。

参考文献

Furia, Phillip & Lasser, Michael. (2006). America’s songs: The stories behind the songs of Broadway, Hollywood, and Tin Pan Alley. London: Taylor and Francis.


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