見出し画像

A Fine Romance (A Sarcastic Love Song)

「ア・ファイン・ロマンス A Fine Romance」は1936年にジェローム・カーン Jerome Kern が作曲し、ドロシー・フィールズ Dorothy Fields が作詞したポピュラー・ソング。映画『有頂天時代 Swing Time』にてフレッド・アステア Fred Astaireとジンジャー・ロジャース Ginger Rogersによって紹介された。初期からジャズ・シンガーによって歌われさまざまなスタイルで演奏されるジャズ・スタンダード。

皮肉なラブソング

もともとはデュエット用に書かれた楽曲。一見ラブソングのように聴こえるんだけど、よくよく読むと能天気な曲というわけではない。冷静な恋とかそういったことじゃなくて、男女の距離感を明確に示している。実際にこの曲の副題が「皮肉なラブソング」というように男女の恋愛に対する揺さぶり(swing)を確認することができる。こうした皮肉にかんしてフーリアは「デュエットの女性側の半分は特に巧みで、女性の冷たさに対する伝統的な男性の不満を逆手に取っている」と分析している (Furia, 1990, p. 220)。

A fine romance, my friend, this is.
素敵なロマンス。みんな。これが。
we should be like a couple of hot tomatoes,
熱々のトマトのようなカップルであるべきだ
but you're as cold as yesterday's mashed potatoes
あなたは昨晩作ったマッシュポテトみたいに冷たい

男性のパートは現実について理想論を語っているが、女性のパートは現実を記述的に語っている。つまり男のパートは「〜であるべきだ should」という理想的なことを述べているのだが、普通こうした規範的なことを述べるのは、そうした規範に対する逸脱がある場合だ。さらにこの曲が「皮肉なラブソング」であるならば「素敵なロマンス。みんな。これが。A fine romance, my friend, this is. 」という箇所はまったく逆のことを意味している——つまりロマンスでもなんでもない。

こうしたように「ア・ファイン・ロマンス」にはこうした対比の仕掛けがたくさん描かれている。そんなわけで歌物の場合は割と投げやりのように歌った録音も多い。

録音

Billie Holiday And Her Orchestra (NYC, September 29, 1936)
Billie Holiday (Vocals); Bunny Berigan (Trumpet); Irving Fazola (Clarinet); Clyde Hart (Piano); Dick McDonough (Guitar);
Artie Bernstein (Bass); Cozy Cole (Drums);
30年代のビリー・ホリデー。ブルージーな歌声もとんでもなくスウィングしている。バンドも最高にかっこいい。

Wingy Manone And His Orchestra (NYC, October 1, 1936)
Wingy Manone (Trumpet, Vocals); Mike Viggiano (Clarinet); Joe Marsala (Clarinet, Alto Saxophone); James Lamare (Clarinet, Tenor Saxophone); Conrad Lanoue (Piano); Jack LeMaire (Guitar); Artie Shapiro (Bass); George Wettling (Drums)
ウィンギー・マノウンの録音。ルイ・プリマに受け継がれるスウィング感覚が素晴らしい。バンドのアレンジもマノウンのトランペットもボーカルもかっこいい!

Billie Holliday (Los Angeles, August 23-25, 1955)
Billie Holiday (Vocals); Harry Edison (Trumpet); Benny Carter (Saxophone); Jimmy Rowles (Piano); Barney Kessel (Guitar); John Simmons (Bass); Larry Bunker (Drums);
50年代のビリー・ホリデー。新時代のミュージシャンとの演奏。わりとバーニー・ケッセルのギターが全編に聴こえる。

Fred Astaire (NOT GIVEN, RELEASED in 1957)
Fred Astaire (Vocals); Charlie Shavers (Trumpet); Flip Phillips (Tenor Saxophone); Oscar Peterson (Piano); Barney Kessel (Guitar); Ray Brown (Bass); Alvin Stoller (Drums);
フレッド・アステアの50年代の録音。オスカー・ピーターソンのバンドをバックに朗々と歌い上げているんだけど、わりと静かなバラードとなっている。素敵なロマンスなのに物悲しいという皮肉を感じることができる。

Barbara Lea And The Ed Polcer All-Stars (Atlanta, April 24-26, 1992)
Barbara Lea (Vocals); Ed Polcer (Cornet); Allan Vaché (Clarinet); Bob Havens (Trombone); Johnny Varro (Piano); Marty Grosz (Guitar); Bob Haggart (Bass); Brooks Tegler (Drums)
バーバラ・リーのライブ実況録音。おそらく1990年代に集められる最高のメンバーたちが集まった録音。素晴らしいスウィング感覚でかつバーバラ・リーの歌声もブルージー。

Rebecca Kilgore With Dan Barrett's Celestial Six (New York, NY, April 13 & 14, 1994)
Rebecca Kilgore (Vocals); Dan Barrett (Trombone); Chuck Wilson (Alto Saxophone); Scott Robinson (Tenor Saxophone, Bass Saxophone, Clarinet); Bucky Pizzarelli (Guitar); Dave Frishberg (Piano); Michael Moore (Bass)
レベッカ・キルゴアとダン・バレットがタッグを組んだ一枚。これも素晴らしい。ドラムレスで基本的にはピアノで全体の雰囲気を作っている。

Paul Bacon with Keith Ingham's Manhattan Swingtet (NOT GIVEN, January 17 & 24, 1998)
Paul Bacon (Vocals); Jon-Erik Kellso (Trumpet); Peter Ecklund (Trumpet); Scott Robinson (Clarinet, Saxophone); Keith Ingham (Piano); James Chirillo (Guitar); Vince Giordano (Bass); Bill Reynolds (Drums)
デザイナーで画家のポール・ベーコンの録音。必ずしもレンジも広くないんだけどスウィング感覚が抜群にかっこいい。アレンジも素敵で90年代のシカゴ・スタイル系だと間違いなく傑作の一つ。

Stacey Kent (Ardingly, England 26-27 July, 1999)
Stacey Kent (Vocals); Jim Tomlinson (Tenor Saxophone, Alto Saxophone, Clarinet); David Newton (Piano); Colin Oxley (Guitar); Simon Thorpe (Bass); Steve Brown (Drums)

Rebecca Kilgore (Costa Mesa, California, May 26, 27 and 28, 2009)
Rebecca Kilgore (Vocals); Anita Thomas (Tenor Saxophone); Chris Dawson (Piano); Richard Simon (Bass); Hal Smith (Drums);
レベッカ・キルゴアの録音。かなりチルな録音で落ち着いた雰囲気。演奏には参加していないがディヴィッド・エヴァンスがアレンジを担当している。

Caity Gyorgy (Calgary, AB August 8, 2022)
Caity Gyorgy (vocals); Mark Limacher (piano)
ボーカルとピアノというシンプルなデュオ。ケイティ・ジエルジーのボーカルがとても素敵。透明感があってレンジも広く明るく楽しい。

参考文献

Furia, Philip. (1990). The poets of Tin Pan Alley: A History of America's Great Lyricists. Oxford: Oxford University Press.


投げ銭箱。頂いたサポートは活動費に使用させていただきます。