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If I Had You

「イフ・アイ・ハド・ユー If I Had You」は1926年にジミー・キャンベル Jimmy Campbell とレグ・コネリー Reg Connelly による「アーヴィン・キング Irving King」のコンビとテッド・シャピロが作詞作曲したポピュラーソング。ジャズのスタンダード。

ウェールズ公が愛した曲

この「イフ・アイ・ハド・ユー」は「もし君が隣にいたら僕はなんだってなれるし、なんだってできるんだ」「世界に対して、笑い方っていうはこうやるんだって教えられる」「雪山だって登れるし、厳しい海原だって航海できるし、燃えるような砂漠だって渡れる」ということが歌われる。

さて、この曲のミュージック・シートの表紙に「ウェールズ公のお気に入りの曲 The Prince of Wales’ Favorite Fox Trot」と書いてある。ウェールズ公とはイギリスの君主の男子の跡継ぎに与えられる称号で、日本でいうところの皇太子を指す。この曲の発表時期に鑑みると、ウェールズ公はイギリスの「エドワード王太子(後のエドワード8世あるいはウィンザー公)」のことを指し、彼が愛した曲ということになるだろう。エドワード王太子は、イギリス国王ジョージ5世の息子で、後のイギリスの国王であるジョージ6世の兄にあたる人物。エリザベス女王の叔父にあたる人物。コリン・ファース主演の『英国王のスピーチ』の主人公アルバート王子の兄で、デイヴィッドと呼ばれていた人物。

ファッション面でもウィンザー・ノットなどを流行らせた。私は王位スキャンダルには興味がないが、『英国王のスピーチ』でも見られるように親ナチスであったり、渡米したあとは人種主義であったりと残念極まりない。王太子時代の振る舞いがかっこよかったりするだけに本当に残念である。

このエドワードは、女性歴が派手なことでも有名だった。その中でも特に世界に注目されたのが、実際に戴冠式をする前に、アメリカ人の未亡人であるウォリス・シンプソンと結婚をするために、王位から退位したことだろう。この一連の事件を「王冠を賭けた恋」という。ではなぜエドワードは王太子時代にこの曲を愛したのだろうか?おそらく歌詞にあるのだと思う。この曲の最後のAメロのところではつぎのように歌われる。

I could be a king, dear, uncrowned
僕は王にだってなれるんだ。王冠なんかなくったって。
Humble or poor, rich or renowned
謙虚でも、貧しくても、金持ちでも、有名でも。
There is nothing I couldn't do
僕にできないことなんてないんだ
If I had you
君がいればね。

こうした歌詞が直接エドワードを退位に駆り立てたわけではないだろう。が、それでも王太子時代にこの曲を聴き、きっと当時の数多い恋慕で当時の愛人や彼女に歌っていたのだろう。

録音

Teddy Wilson & His Orchestra (LA, August 29, 1937)
Harry James (Trumpet); Archie Rosati (Clarinet); Vido Musso (Tenor Saxophone); Teddy Wilson (Piano); Allen Reuss (Guitar); John Simmons (Bass); Cozy Cole (Drums); Frances Hunt (Vocal)
テディ・ウィルソン楽団の録音。フランシス・ハントが歌っている。スローなスウィングでハリー・ジェイムスのトランペットが目立っている。アンサンブルが本当にかっこよい。

Django Reinhardt & Stéphane Grappelli (London, Febrary 1, 1938)
Django Reinhardt (Guitar); Stéphane Grappelli (Piano)
ジャンゴとグラッペリのデュオ。ここでグラッペリはピアノを弾いているのだが、ピアノも素晴らしい…。天は二物を与えるとはまさにこのこと。

Stephane Grappelli (Paris, April 10, 1956)
Stephane Grappelli (Violin); Maurice Vander (Piano); Poerre Michelot (Bass); Baptiste Reillles (Drums)
50年代のグラッペリ。速いスウィング。ちょっと硬い音なんだけどおそらく録音の状態。それでも演奏は本当にかっこよい。実は結構珍しい編成。

Joe Turner Trio (Paris, August 3, 1971)
Joe Turner (Piano); Slam Stewart (Bass); Jo Jones (Drums)
ジョー・ターナーたちのパリ録音。やはりスラム・スチュワートがかっこいい。なんでこんなにスウィングするのだろう。素敵!

Stephane Grappelli (San Francisco, July 1981)
Stephane Grappelli (Violin); Martin Taylor (Guitar); Mike Gari (Guitar); Jake Sewing (Bass)
グラッペリの録音。マーティン・テイラーのやや硬質なギターからはじまる。ヴァイオリンの音が微妙にこもった印象を受けるがおそらくこの時代の流行りのリヴァーブの掛け方に由来するものだろう。テイラーのギターのかっこよさが際立っている録音。

John Pizzarelli (NYC, Released in 1992)
John Pizzarelli (Vocal, Guitar); Ken Levinsky (Piano); Martin Pizzarelli (Bass);
ジョン・ピザレリのトリオでの録音。安心のマーティンが参加。歌声も細いとか言われる時期だけどわたしとしてはむしろそこが素敵。

Johnny Gimble (Austin, October 8, 1994)
Johnny Gimble (Fiddle); Jason Roberts (Fiddle); Maurice Anderson (Pedal Steel Guitar); Kenny Frazier (Electric Guitar); Danny Levin (Piano); Dick Gimble (Bass); David Sanger (Drums); Emily Gimble (Vocals);
エミリー・ギンブルが参加したジョニー・ギンブルの録音。ウェスタン・スウィングだが、まあペダル・スチールが入っているだけで、実際にはスウィングと言ってよいだろう。幸せな雰囲気になれる素敵な録音。

Bob Haggart’s Swing Three (Bradenton, FL, November 6–7, 1995)
Bob Haggart (Bass); Bucky Pizzarelli (Guitar); John Bunch (Piano);
ボブ・ハガートのスーパーバンド。バッキー・ピザレリとジョン・バンチが参加。シカゴ・スタイルの頂の一つというべき録音。すげえな!

The Four Freshmen (NOT GIVEN, Released in 2005)
Brian Eichenberger (Vocal, Guitar); Curtis Calderon (Vocal, Trumpet); Vince Johnson (Vocal, Guitar, Bass); Bob Ferreira (Vocal, Drums);
フォーフレッシュメンの録音。往年のオープンハーモニーはメンバーが変わっても健在でロックとジャズが融合したような、まさにアメリカン・ポップスが展開されている。

John Pizzarelli With The Clayton-Hamilton Jazz Orchestra (LA, June 30, 2005)
John Pizzarelli (Guitar, Vocals); Bijon Watson (Trumpet); Bobby Rodriguez (Trumpet); Gilbert Castellanos (Trumpet); James Ford (Trumpet); Sal Cracchiolo (Trumpet); Jeff Clayton (Alto Saxophone, Clarinet); Keith Fiddmont (Alto Saxophone, Clarinet); Charles Owens (Tenor Saxophone, Clarinet); Rickey Woodard (Tenor Saxophone, Clarinet); Ira Nepus (Trombone); Trombone – George Bohanon (Trombone); Ryan Porter (Trombone); Lee Callet (Baritone Saxophone, Bass Clarinet); Tamir Hendelman (Piano); Bucky Pizzarelli (Guitar); John Clayton (Bass, Conductor); Christoph Luty (Bass); Jeff Hamilton (Drums);
ジョン・ピザレリの録音。豪華な演奏をバックに歌っている。静かでスローなバラードとして演奏している。

Hot Club Sandwich (Olympia, WA, 2007)

Kevin Connor (Guitar and vocal); Greg Ruby (Guitar); Ray Wood (Guitar); Matt Sircely (Mandolin); Tim Wetmiller (Violin); James Schneider (Bass);
ホット・クラブ・サンドウィッチの録音。ドーグっぽさは薄めのマヌーシュ・ジャズ。バラードとして演奏している。

Dabe Bennet (Bradenton, FL; Middleton, WI; NYC; November 10, 2006-July 22, 2008)
Dave Bennett (Clarinet); Bucky Pizzarelli (Guitar); Jerry Bruno (Bass);
デイヴ・ベネットによるベニー・グッドマン・トリビュート。生誕100周年を記念した録音でここではシンプルなトリオ録音。バッキー・ピザレリとジェリー・ブルーノのスウィングが本当に気持ち良い。

Terra Hazelton (Toronto, 2009)
Terra Hazelton (Vocal); Drew Jurecka (Violin); John Sheard (Piano); Jesse Barksdale (Guitar); George Koller (Bass); Mark Mariash (Drums)
カナダで活動しているシンガーのテラ・ヘイゼルトンの録音。独特のタイム感で歌っている。ミドル・テンポのスウィング。

The Classic Jazz Trio (New Orleans, 2010)
John Rankin (Guitars and Vocals); Tommy Sancton (Clarinet); Tom Fischer (Clarinet)
ジョン・ランキンをはじめニューオリンズで活動しているミュージシャンのトリオ。トム・フィッシャーとトミー・サンクトンのクラリネット2本という編成も珍しい。かっこいい!

The Froggy Mountain Boys (Berlin, October 2011)
Aaron Jonah Lewis (Fiddle, Banjo, Vocals); Roland Satterwhite (Fiddle, Vocals); Laurin Habert (Clarinet, Vocals); Laurent Humeau (Guitar); Johannes Hagenloch (Bass, Vocals);
現在は活動を停止しているフロギー・マウンテン・ボーイズの録音。アーロン・ジョナ・ルイスのリーダーシップが遺憾なく発揮された録音で、トラッド・ジャズ、マヌーシュ・ジャズ、マウンテン・ミュージックが合わさったような録音。素敵。

Rose Room (Glasgow 2011)
Seonaid Aitken (Violin & Vocals); Conor Smith (Guitar); Tam Gallagher (Guitar); Jimmy Moon (Double Bass)
グラスゴーで活動しているマヌーシュ・ジャズ・バンドのローズ・ルームの録音。ブライトな音作りが素敵なスローなスウィング。

Hot Club of Cowtown (Dipping Springs, Texas July 6, 2012)
Elana James (Vocal, Fiddle); Whit Smith (Guitar, Vocal); Jake Erwin (Bass)
HCCTの録音。スローなスウィング。こうした曲でのジェイク・アーウィンもよい。またエラナ・ジェイムズのフィドルも非常にかっこよい。

Bucky Pizzarelli Trio (Brooklyn, Released in 2014)
Bucky Pizzarelli (Guitar); John Pizzarelli (Guitar); Ed Laub (Guitar)
ギター3人のトリオ。ピザレリ親子にエド・ローブが加わった編成。静かな録音なんだけどミックスもよくて聴きやすい。


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