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Are you in the mood?

「アー・ユー・イン・ザ・ムード Are You in the Mood?」は1936年にジャンゴ・ラインハルト (Django Reinhardt)とステファン・グラッペリ (Stephane Grappelli) が書いたジャズ・ナンバー。わたしが持っている資料では、この曲にかんする情報はほとんどなかった。16小節のテーマから構成されている。しっかりメロディがあるので歌を歌っている人もいると思ったのだけれど、歌の録音を私は知らない。たぶんあるはず…。さしあたりタイトルは日本語だと「気分はどうだい?」とか「そんな気分かい?」といった意味になる。

この曲は、ジャンゴとグラッペリのバンドであるQHCFの録音だとスイングのバラードになっている。これに関連して、グラッペリの録音は一貫してスイングをしている。とくにグラッペリは「ニューオーリンズ・ジャズに遡る伝統のなかで観客を楽しませていた」(Balmer, 2008 p. 10)。このニューオーリンズ・ジャズをどう解釈するかにも依存するのだが、少なくともかれは「ハッピーに演奏する」ことを常に目指していたし(ibid.)、ニューオーリンズ・ジャズはまさに演奏者と観客の距離が近く、インタラクティヴで、人々を楽しませるジャズと言える。であるならば、もしかするとグラッペリはそうしたエンターテインメント性に志向してこの曲をスイングさせてたのかもしれない。

録音

Quintette du Hot Club de France (Paris May 4 1936)
Stéphane Grappelli (Violin); Django Reinhardt (Guitar); Joseph Reinhardt (Guitar); Pierre “Baro” Ferret (Guitar); Lucien Simoens (Bass)
最初の録音。グラッペリの短いヴァースから入り、そのままテーマに。このときのグラッペリの音色がすさまじく美しい。そのあとのジャンゴのするどいギターが特徴的。フレディ・テイラーとのセッションで、テイラーは不参加。ジャンゴは別格ということを再認識させられる録音。スイングのバラード。

Stephane Grappelli (Stuttgart, West Germany January 20 1979)
Stephane Grappelli (Violin); Niels-Henning Ørsted Pedersen (Bass); Larry Coryell (Guitar); Philip Catherine (Guitar)
マヌーシュ・ジャズ復興の一助になったとされている録音。ジャンゴたちの録音よりもテンポも遅く、スイングのバラードかというとそうでもない。ギターはフォーキーでソロが難解なのだが、グラッペリのバイオリンの演奏はスイングしていて音色もすべてが美しい。この対比が面白い。最初のトリルなのかビブラートなのか判別のつかない連続音にドキっとする。2回目のソロは入りからカデンツァの最後の音までずっと独壇場。

Stephane Grappelli (London[?] 1984[?])
Stephane Grappelli (Violin); Martin Taylor (Guitar); Mark Fosset(Guitar); Patrice Caratini (Bass)
バラードのスイング。マーク・フォセットのギターからはじまって、グラッペリがテーマを弾く。ここでのグラッペリは特徴的なトリルとフラジオを加えて、緩急ある演奏を展開している。レコードの裏面を見ても具体的な録音時期と場所がわからなかった。が、少なくともマスタリングはアビーロード・スタジオで行われている。またこの次の年に、グラッペリ、フォセット、ジャック・シーウィングのトリオでヨーロッパ・ツアーに出ている。そこでの演奏も素晴らしい。

Les Violons de Bruxelles (Liège 2012)
Tcha Limberger (Violin); Renaud Crols (Violin); Alexandre Tripodi (Violin); Renaud Dardenne (guitar); Sam Gerstmans (double bass)
ハンガリーを代表するジャズ・バイオリニストのチャー・リンバーガーが率いるマヌーシュ・ジャズの弦楽団。バイオリンが3人いるという珍しい構成でインプロもアンサンブルも楽しい。またリバーブをかなり抑えていて、艶やかさを抑えたバイオリンの音色なのでグラッペリのものとは違った楽しみがある。

The Tangiers Combo (New Orleans December 2016)
Carl Keith (guitar); Eric Rodriguez (violin); Jason Danti (clarinet); Nathan Lambertson (bass)
ニューオーリンズで活動しているマヌーシュ・ジャズとニューオーリンズ・ジャズを掛け合わせたようなジャズを展開しているTangiers Comboも「アー・ユー・イン・ザ・ムード」を録音している。ニューオーリンズ系のクラリネットがかっこよくて、さらにバイオリンはほとんどピッチカートで演奏をしている。野心的だしアンサンブルもかっこいいスイング。

参考文献

Balmer, Paul. (2008). Stephane Grappelli: A Life in Jazz. London: Bobcat Books.


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