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Button Up Your Overcoat

「ボタン・アップ・ユア・オーヴァー・コート Button Up Your Overcoat」は1928年にバディ・デシルヴァBuddy DeSylvaとルー・ブラウンLew Brownが作詞し、レイ・ヘンダーソンRay Hendersonが作曲したポピュラーソング。かわいらしい曲で、1929年のブロードウェイ・ミュージカル『フォロー・スルー Follow Thru』で使用され大絶賛された。ちなみに「フォロー・スルー」とはゴルフや野球などでボールを打ったあと、最後まで振り切ることを指す。

元々はデュエットで歌われていた。一番は女性が、二番は男性が歌う (Furia 1990)。「コートのボタンを上まで閉めて」というタイトルもそうだが、手(恋人)に対して相手を思ったアドバイスが歌われる。が、こうしたアドバイスは必ずしも成功しておらず (Furia & Lasser 2006)、むしろちょっとおせっかいな感じに聞こえる。このおせっかいっぷりがおもしろい曲だ。

一番(女性が男性に向けて歌う)では、「3時までに寝なさい」「密造酒には近づかないで!」など、母性的な配慮のアドバイスが歌われる。二番(男性が女性に向けて歌う)では、もっと直接的に「木に登るときはフランネルの下着を身につけろ!」と歌われる。要するにどちらも相手の浮気を心配している。

録音

Annette Hanshaw (NYC March 14 1929)
クレジットが見つからなかったんだけどアネット・ハンショウの録音。わりとノヴェルティっぽさはあるものの子供に向けて歌うような歌い方が印象的。こうした歌の中の演技力はジャネット・クラインやタチアナ・エヴァ=マリーに受け継がれていく。

Ruth Etting (NYC May 11 1929)
Ruth Etting (Vocal); Jimmy Dorsey (Clarinet); Tommy Dorsey (Trumpet); Charlie Butterfield (Trombone); Frank Signorelli (Piano); Eddie Lang (Guitar); Joe Tarto (Double Bass);
歌姫ルース・エティングの録音。スモール・グループでの録音で歌。ヴァースからはじまる。伸びやかで素敵な録音。

Bob Howard And His Boys (NYC December 10 1947)
Bob Howard (Vocal, Piano); Everett Barksdale (Guitar); John Simmons (Bass); Cozy Cole (Drums)
ファッツ・ウォーラーのフォロワーのボブ・ハワードの録音。スモール・グループの録音でヴァースはカットされている。ストライド・ピアノはハワード本人。またバークスデイルのギターもカントリーっぽいアプローチでおもしろい。

Miss Rose & Her Rhythm Percolators (Seattle 2008[?])
Sunge Rose (Vocal, Ukulele); Dayton Allemann (Piano); Mark Bentz (Cornet); Ericka Kendall (Bass)
シアトルで活動していたスイング・バンド。ヴァースから歌っている。ピアノとウクレレとベースのアンサンブルがとってもかっこいい。また全体的にコルネットが酔いを印象付けている。

Gordon Webster Meets Hetty Kate (NYC 2013)
Hetty Kate (Vocal); Gordon Webster (Piano); Adam Brisbin (Guitar); Rob Adkins (Double Bass); Kevin Congleton (Drums)
ニューヨークで活動しているストライド・ピアノの雄、ゴードン・ウェブスターの録音。とてもダンサンブルでまた選び抜かれたピアノのフレーズもかっこいい。歌はオーストラリアのスイート・ハート、ヘティ・ケイト。伸びやかな声で素敵。アルバム全体としても素晴らしい。

Tongue in Cheek Jazz Band (Baltimore 2019)
Zach Serleth (Banjo); Bridget Cimino (Vocals); Matt Andrews (Violin); Ed Golstein (Tuba); Unknown (Tenor Guitar)
ボルティモアのトラッド・ジャズ・バンドのタング・イン・チークの録音。わりとニューオーリンズよりの音なんだけどブルーグラスからも影響を受けているようでそうしたアメリカーナなアンサンブルも聴ける。

Jonathan Stout and his Campus Five (Highland Park, CA 2021)
Jonathan Stout (Guitar); Hilary Alexander (Vocals); Albert Alva (Tenor sax); Jim Ziegler (Trumpet, Vocals); Christopher Dawson (Piano); Samuel Wolfe Rocha (Bass); Josh Collazo (Drums)
いまや西海岸だけではなく現代スイングを代表するギタリストのジョナサン・スタウトのバンドの録音。ここではデュエットで歌われている。なんだかんだ歌は女性ボーカル一人のことが多いので、結構貴重な録音かもしれない。

Terry Waldo & Tatiana Eva-Marie (NYC 2023)
Tatiana Eva-Marie (Vocal); Terry Waldo (Piano); Ricky Alexander (Clarinet); Mike Davis (Trumpet); Jim Fryer (Trombone); Nick Russo (Guitar); Jay Leply (Drums)
ラグタイム/ストライドの名手テリー・ウォルドゥとタチアナ・エヴァ=マリーのタッグ。これがまた素晴らしい。どのミュージシャンもニューヨークの凄腕。アレンジもとても楽しく、またエヴァ=マリーの歌も美しい。

参考文献

  • Furia, Philip. (1990). The Poets of Tin Pan Alley: A History of America's Great Lyricists. Oxford: Oxford University Press.

  • Furia, Phillip & Lasser, Michael. (2006). America’s songs: The stories behind the songs of Broadway, Hollywood, and Tin Pan Alley. London: Taylor and Francis.


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