Blue Room
「ブルー・ルーム Blue Room」は1926年のロレンツ・ハートLorentz Hartとリチャード・ロジャース Richard Rodgersのハート=ロジャースのコンビによって書かれたポピュラーソング。ブロードウェイ『ガール・フレンド The Girl Friend』のために書かれた。歌ものよりもインストの方が多い印象にある。またヴァースがかっこいいんだけどよく省かれる。そんなわけでわたしとしてはヴァースありの演奏や歌が好きである。
ハートの歌詞
最近読み始めた『ティンパンアレーの詩人たち The poets of Tin Pan Alley』にもあったんだけど、ハートの歌詞はロジャースのメロディにもっとも最適化されている(Furia 1990)。とくにハートの歌詞に特徴的なのは、「2つの音符に帰結するメロディ」に「硬い韻を3つ繋げた歌詞」を合わせるというもの。たとえばこの曲の歌詞だと次のように | soʊ | (ソウ)が3つ続けてライムされる。
ただし女性のシンガーが歌う場合You sewをI wearに変えることがある。たとえばエラ・フィッツジェラルドがそうだ。意味としてはI wearの方がフィッツジェラルドに合っている。
さらにタイトルの”blue room”は| u: | (ウー)という母音が2つ使われており、この音は曲中で繰り返し立ち現れる。もっとも顕著なのがヴァースの箇所。
ここではまず先ほどの「3つの韻」が使用されている。さらに最初のfutureとsuit yourも綺麗な韻を踏んでおり、さらにそれらはblue roomの| u: | という音と韻を踏んでいる。
ちなみにアメリカのホワイトハウスにレセプションや軽い会食などに使用される「ブルールーム」という部屋があり、実際にアイヴォリーのカーテンと椅子がある。飛行機のトイレのことも「ブルールーム」というらしい。ただ、これらが歌詞に関係しているわけではなさそう。
録音
The Revelers (New York, NY, June 8, 1926)
Franklyn Baur (Tenor Vocals ); Lewis James (Tenor Vocals); Wilfred Glenn (Bass Vocals); Elliott Shaw (Baritone Vocals); Ed Smalle (Piano)
バーバーショップ・コーラス・グループのレヴェラーズの録音。
Joe Venuti’s Blue Four (NYC September 27 1928)
Joe Venuti (violin); Eddie Lang (guitar); Rube Bloom (vocal); Jimmy Dorsey (clarinet); Rube Bloom (piano); Jimmy Dorsey (baritone saxophone); Paul Graselli (drums)
ラング=ヴェヌーティのコンビを堪能できる録音。ヴァースあり、歌あり。ここではラングは短い短音フレーズを披露している。そして全体的にヴェヌーティのバイオリンを楽しめる。とてもダンサンブルな録音。
Bud Freeman Trio (New York, November 30, 1938)
Bud Freeman (Tenor Saxophone); Jess Stacy (Piano); George Wettling (Drums)
ノーヴォと同じくシカゴ派のバド・フリーマンのトリオ。シカゴ・スタイル。歯切れのよいイントロからはじまる。
Freddy Johnson and His Orchestra (Paris June 28 1939)
Alix Combelle (Clarinet, ); Louis Bacon (Trumpet); Freddy Johnson (Piano); Johnny Mitchell (Guitar); Wilson Myers (Bass); Tommy Benford (Drums);
パリで活躍したフレディ・ジョンソンの録音。ジャンゴたちとも録音をしたのでそちらの方面でも少しだけ知名度があるのかもしれない。素晴らしいスイング/ストライド・ピアニスト。それとちょっと録音の状態によっては聴きにくいんだけどウィルソン・メイヤーズのベースがかっこいい。
Hank Jones (probably NYC, September-October, 1947)
Hank Jones (Piano)
日本でも大人気だったハンク・ジョーンズの録音。私は一度も見たことがないけど、私の父親が何度か見に行ったらしい。アート・テイタムみたいなフレーズも飛び出す。非常にかっこいい。
Red Norvo Trio (Chicago late 1950 or early 1951)
Red Norvo (Vibraphone); Tal Farlow (Guitar) Charles Mingus (Bass)
現在のジャズではほとんど語られない天才ミュージシャンの一人。ジャズにおいてヴィブラフォンや木琴の開拓者はかれで間違いない (スチュワート 1990)。かなり短い録音なんだけどノーヴォの演奏を堪能することができる。
The Orphan Newsboys (NYC September 1989)
Marty Grosz (Guitar); Bobby Gordon (Clarinet); Peter Ecklund (Cornet); Greg Cohen (Bass)
マーティ・グロスのバンドのオーファン・ニュースボーイズ。ヴァースから入るインスト。ボビー・ゴードンのクラリネットとピーター・エクランドのコルネットが美しく絡む。グロスのギターが全体的に響いている。ギター・ソロはカール・クレスやジョージ・ヴァン・エプスの方法論をさらに進化させていて、ピザレリとも違う重音のソロを展開している。
Warren Vaché (Astoria NY April 25 & 26, 2018)
Warren Vache (Cornet); Jacob Fischer (Guitar); Neal Miner (Bass)
コルネット奏者のウォーレン・ヴァシェの録音。ここではドラムレス。ヤコブ・フィッシャーのギターもたっぷり堪能できる。ややスモーキーな音色のコルネットが心地よい。ニール・マイナーのベースが冴え渡っている。
参考文献
Furia, Philip. (1990). The poets of Tin Pan Alley: A History of America's Great Lyricists. Oxford: Oxford University Press.
スチュワート, レックス. (1990). 『ジャズ 1930年代』東京: 草思社.