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Echoes of Spring/Echo of Spring

「エコーズ・オブ・スプリング Echoes of Spring」あるいは「エコー・オブ・スプリング Echo of Spring」は1935年にウィリー・ザ・ライオン・スミス Willie "The Lion" Smith が作曲したジャズ・ナンバー。

資料によってはクラレンス・ウィアムズClarence Williamsとトーシャ・ハモンド TaushaHammed も作曲者に加えられることがあるが、これはコピーライトの申請をしたときに連名になったためであって、二人が作曲やアレンジに直接的に貢献したわけではない (Jasen and Jones, 2002)。ちなみにトーシャ・ハモンドはヴォードヴィルのシガーボックス・ヴァイオリン奏者。

ハーレムと印象派

ジェイセンとジョーンズはこの曲について次のように解説している。

この曲は、ある朝6時半ごろ、[ニューヨークのハーレムに位置する]セント・ニコラス・アヴェニューの自宅近くにある[...]公園のベンチに座っているときに思いついたとスミスは言う。和声的な驚きに満ちているが、それは驚きであって衝撃ではない。「エコー」はじっくりと時間をかけ、その珍しいハーモニーは聴く者に忍び寄るが、決して飛び出すことはない。スミスは画家が色彩の飛沫を使うように和音を使い、「エコーズ・オブ・スプリング」は、もしモネがハーレムの一角の平和な情景を描いたとしたら何が見えるかを示唆している。

Jasen and Jones, 2002, pp.92–93

そういった印象派の影響はスミスのピアノにしばしば聴かれる。実際にスミスは印象派の曲を好んでおり、しばしばラヴェルやドビュッシーといった作曲家の曲を演奏していた (Waller & Calabrese, 2017)。そんなわけで、この曲はニューヨークっぽい響きとクラシカルな響きの両方を備えている。

1930年代のセント・ニコラス・アヴェニュー。

録音

Willie the Lion Smith and His Cubs (New York City, 22 May 1935)
Willie the Lion Smith (Piano); Ed Allen (Cornet); Cecil Scott (Clarinet); Willie Williams (Drums)
ウィリー・ザ・ライオン・スミスの録音。バンド形式。こうしたバンド形式も非常に素敵。2つテイクがあってどちらも素晴らしい。

Willie the Lion Smith (NYC, January 10, 1939)
Willie the Lion Smith (Piano)
ウィリー・ザ・ライオン・スミスの録音。とても力強くかつ繊細なスウィング。一番好きな録音の一つ。

Willie the Lion Smith (NYC, December 1, 1949)
Willie the Lion Smith (Piano); Wallace Bishop (Drums)
ウィリー・ザ・ライオン・スミスの録音。ドラムとのデュオ。わりと軽めのドラムが入ることでよりスウィングが際立って聴こえる。

Willie the Lion Smith (NYC, December 1950)
Willie the Lion Smith (Piano)
50年代のライオン・スミス。とても力強い。30年代の録音に近い。が、よりクラシカルに聴こえる。

Ralph Sutton Trio (Aspen, CO, February 11 & 13, 1969)
Ralph Sutton (Piano); Al Hall (Bass); Cliff Leeman (Drums)
ラルフ・サットンのトリオでの録音。室内楽のようなクラシカルな雰囲気のスウィング。素晴らしい。

Ralph Sutton (New Orleans, October 24, 1975)
Ralph Sutton (Piano)
ラルフ・サットンの録音。優しいタッチが美しい。

Ralph Sutton and Michael Silva (Amilly, France, November 27, 1988)
Ralph Sutton (Piano); Michael Silva (Drums)
ラルフ・サットンとマイケル・シルヴァのデュオ。ピアノとドラムのデュオではもっとも好きかもしれない。

Bob Wilber (West Palm Beach, FL, March 27, 1995 - March 28, 1995)
Bob Wilber (Soprano Saxophone); Ralph Sutton (Piano)
ボブ・ウィルバーの録音。ソプラノサックスとサットンの優しいタッチの絡みが美しい。

Tom McDermott (New Orleans, 2001)
Tom McDermott (Piano)
ニューオーリンズ・ピアノの雄トム・マクダーモットの録音。

Branden Lewis (New Orleans, 2018[?])
Branden Lewis (Trumpet); Unknown (Tenor Saxophone); Unknown (Piano); Unknown (Bass); Unknown (Drums)
プリザヴェーション・ホールのバンドで活躍しているブランデン・ルイスの録音。サブスクにしかなくてCDも探せないが、非常に美しいアンサンブルの録音。

Three Blind Mice (Paris 2019)
Felix Hunot (Guitar); Malo Mazurié (Trumpet); Sebastien Girardot (Bass)
パリで活躍するスィング・トリオの録音。3人であることを最大限に活かしたようなアレンジで萌える。

参考文献

  • Jasen, David A & Jones, Gene. (2002). Black bottom stomp: Eight masters of ragtime and early jazz. London: Routledge.

  • Waller, Maurice & Calabrese, Anthony. (2017). Fats Waller. Minneapolis: University of Minnesota Press.


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