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Bourbon Street Parade

「バーボン・ストリート・パレード Bourbon Street Parade」は1951年にニューオーリンズのドラマーのポール・バーバリン Paul Barbarinが作詞作曲したジャズ・ナンバー。曲が書かれた年には乱れがあり、少なくとも1951年のほかに1949年という表記がある。ここではFirehouse Fakebookの表記されていた1951年を採用しておく。言わずもがなの大スタンダード。

言語文化的混合

バーボン・ストリートはニューオーリンズのフレンチ・クォーターを横切る通りの名前でニューオーリンズの文化的中心地。バーボンとはルイジアナ州がフランス領だった頃にフランスを統治していたブルボン家から取られたもの。アルファベットで書くとBourbonなのでわかりやすい。もちろんバーボンは英語読みである。また余談ではあるがルイジアナという名前もニューオーリンズという名前もフランスに関係している。最初スペインが占領し、18世紀に「フランス政府は広域にわたる植民地をルイ14世の名にちなんでルイジアナと名づけ、この町を[フランスの都市の]オルレアンにちなんで「新オルレアン」(La Nouvelle Orleans)と名づけた」 (油井 2018, p.8)。19世紀にルイジアナがアメリカのものになると、ルイジアナはスペイン、クレオール、イギリス、アメリカなどさまざまな文化が入り混じるようになり、とくにニューオーリンズではスペイン語、フランス語、英語、クレオールと多様な言語が使用されるようになった。こうした言語文化的混合がジャズの誕生に関係していることは間違いない。

実際に「バーボン・ストリート・パレード」にこうした言語文化的混合を見て取ることができる。ここでは、ことさらにマーチング・バンドの影響を見て取ることができる。以下プレザヴェーション・ホール財団の記事の翻訳を見てみよう。

この曲においては、「スネアのロール、4拍子のバスドラムのパターン、バグル・コールなど、マーチング・バンド音楽の特徴的な要素が強調され、伝統的なマーチに忠実である。他方で、「バーボン・ストリート・パレード」(および他のニューオーリンズ・マーチ)が伝統的なマーチと異なるのは、曲にニューオーリンズ・ジャズの要素が取り入れられていることにほかならない。[具体的には]ドラムのシンコペーション(1小節おきに4拍目のアクセントを入れる)、ホーンがメロディーを自由に解釈すること、そして全体を通して即興演奏をすること[を挙げることができる]」

(Braud n.d)

「バーボン・ストリート・パレード」におけるこうしたマーチの要素は、それまでのニューオーリンズ・マーチと同様に、フランスやスペインなどの海軍の音楽隊の影響によるものであると見てよい。ジャズの歴史のなかでこうした「白人」の音楽の影響を否定しようとする批評や、ジャズの歴史を「白人と黒人の二項対立の歴史」と捉える批評がある。前者のような否定はそもそも不可能であるし、後者の歴史観は民族と言語をあまりに単純化しすぎている。ニューオーリンズの音楽がこうした言語文化的混合に基づいていることに鑑みれば、ジャズはもっと複雑でさまざまな文化が有機的に結びついた文化であることがわかる。もちろんすべてのジャズが直接的にこうした言語文化的混合に志向しているわけではないだろう。だが、ジャズという音楽を演奏するのであればそれがなんであれ、それは、こうした歴史として積み重ねられ発展された音楽であることには変わりがない。

録音

Paul Barbarin and his New Orleans Jazz Men (New Orleans January 7, 1955).
John Brunious (Trumpet); Willie Humphrey (Clarinet); Bob Thomas (Trombone); Lester Santiago (Piano); Danny Barker (Banjo); Milt Hinton (Bass); Paul Barbarin (Drums)
ポール・バーバリンのバンドの録音。くそドープでかっこいい。それとこの録音は音もいい。

The Young Tuxedo Brass Band (November 1,2, 1958. New Orleans)
Albert "Fernandez" Walters (Trumpet); Andrew Anderson (Trumpet); Andrew Morgan (Tenor Saxophone); Clement Tervalon (Trombone); Jim Robinson (Trombone); John "Pickey" Brunious (Trumpet); John Casimir (Eb Clarinet); Wilbert Tillman (Sousaphone); Paul Barbarin (Snare Drum); Emile Knox (Bass Drum)
ヤング・タキシード・ブラス・バンド。カシミアのクラリネットがドープ。そう。ニューオーリンズの音楽は楽しくドープ。こうしたブラスバンドについてはまた別稿にて書くけど、やはり歴史的な厚みのなかにこうした音楽があることがわかってよい。

Louis Nelson’s Creole Jazz Band (London 1966)
John Defferary (Clarinet); Louis Nelson (Trombone); Cuff Billett (Trumpet); Richard Simmons (Piano); Paul Sealey (Guitar); Brian Turnock (Bass); Barry Martyn (Drums)
ニューオーリンズの伝説のトロンボーン奏者ルイス・ネルソンのロンドン録音。勢いがとってもあってドライブ感がかっこいい。

Dejan’s Olympia Brass Band (London 26th July 1968)
Andrew Anderson (Trumpet); Milton Batise (Trumpet); Paul Crawford (Trombone); Emanuel Paul (Tenor Saxophone); Harold DeJan (Alto Saxophone); Jim Young (Sousaphone); Andrew Jefferson (Snare); Henry "Booker T." Glass (Bass Drum);
ロンドン録音。まじでかっこいい。全体的にアルトサックスがブローしまっくていてドープ!

New Orleans Heritage Hall Jazz Band (New Orleans 1973)
Alvin Alcorn (Trumpet); Louis Cottrell (Clarinet); Waldren "Frog" Joseph (Trombone); Walter Lewis (Piano); Placide Adams (Bass); Louis Barbarin (Drums)
ヘリティッジ・ホール・バンドの録音。ジョセフ、アルコーン。コットレルの3人が暴れまくっていて祝祭的な気持ちになりますな。

Lino Patruno & His New Orleans Jazz (Milan,June 22,1986)
Ted Fullick (Trumpet); Luciano Invernizzi (Trombone); Claudio Perelli (Clarinet); Lino Patruno (Banjo); Eugenio Pateri (Bass); Walter Ganda (Drums)
イタリアのプロモーター/ミュージシャンのリノ・パトルーノの録音。 パトルーノはいくつかこの曲を録音しているんだけどこれが一番好きかもしれない。

Preservation Hall Jazz Band (New Orleans 1988)
Willie J. Humphrey, Jr. (Clarinet, Vocal); James Edward "Sing" Miller (Piano); Frank Demond (Trombone); Percy G. Humphrey (Trumpet); Narvin Henry Kimball (Banjo); Allan Jaffe (Tuba); Frank Parker (Drums);
80年代後半のプリザヴァーション・ホール・ジャズ・バンドの録音。この時期の録音も非常にかっこい。ハンブリーのクラリネットがめっちゃ好き。

Algiers Brass Band (Algiers 1990)
Joseph "TOOT" Smith (Clarinet); Sidney J. Wyche (Saxophone); Frank Hooper (Trumpet); Ruddley Thibodeaux (Trumpet); Walter Moore (Trombone); Frank "Jo Friday" Bedell (Sousaphone); Ferdinand "Nappy" Polite (Snare); Joe Williams (Bass Drum);
アルジアーズ・ブラス・バンドの録音。このバンドもだいぶ歴史がある。これはもちろんだけど再結成後の録音。

Leroy Jones (New Orleans 1995)
Leroy Jones (Trumpet, Vocal); Lucien Barbarin (Trombone); Ed Frank (Piano); Walter Payton (Bass); Shannon Powell (Drums)
ブラスバンドの伝統とジャズの伝統を引き受けるリロイ・ジョーンズの録音。このアルバムはめっちゃ好きで、大学生のころにどこかのレコ屋でジャケ買いした思い出。名盤ですわ。

Coolbone Brass Band (New Orleans 2003)
Steven Johnson (trombone); Vincent Broussard (Saxophone); Darryl Johnson (Saxophone); Jason Hemmens (Saxophone); Thaddeus Ford (trumpet); Jeremy Cole (trumpet); Ernest Johnson (trumpet); Terrell Warren (trombone); Randall Anderson (bass drum); Derrick Francois (snare drum); Ronell “Roo” Johnson (tuba, trombone)
比較的洗練されている録音で、従来のニューオーリンズ・ブラスバンドとは違い、サックスだけがフューチャーされたソロがある。こうしたニューオーリンズ・ブラスバンドに対するモダンジャズの影響もおもしろい。90年代以降だとさらにファンクなどとも接近し、さらにヒップホップも取り込んでさらに文化的混合が進む。

James Andrews and Trombone Shorty (New Orleans 2004)
Trombone (Troy Andrews); James Andrews (Trumpet, Vocals ); Cyril Neville (Tambourine); June Yamagishi (Guitar); Dr. John (Fender Rhodes); Mark Brooks (Bass); Stanton Moore (Drums)
兄ジェイムズ・アンドリューズと弟トロンボーン・ショーティーの録音。めちゃくちゃメンバーが豪華。ニューオーリンズのジャズとファンクがいかに近いのかがわかる。ジュン山岸さんのギターがファンキー。スタントン・ムーアまじかっけえ。最高ですね。

N’awlins Gumbo Kings (The Colony, Texas 2004)
Mike Sizer (clarinet, vocals); Steve Howard (trumpet, background vocals); Brad Herring (trombone, background vocals);Brian Piper (piano, vocals); Kerby Stewart (bass); Bobby Breaux (drums)
テキサスのニューオーリンズ・バンド。というかメンバーたちは本当に凄腕。スティーヴ・ハワードはポール・マッカートニーやレイ・チャールズと録音・ツアーもしている。

Wendell Eugene’s New Orleans Jazz Band (New Orleans, 2004)
Wendell Eugene (Trombone, Vocal); Tom Fischer (Clarinet); Jamie Wight (Cornet); Lars Edegran (Piano); Richard Moten (Bass); Jason Marsalis (Drums)
ラーズ・エディグランのプロデュースもの。ウィンデル・ユージーンの録音。ユージーンはさすがに声は辛そうに出ている感じはするんだけどそこもいいし、なによりトロンボーンがキレている。

Bob French (NYC June 15–16, 2006)
Bob French (drums, vocals); Leonard Brown (trumpet); Troy Andrews (trombone); Harry Connick, Jr. (piano); Edward Huntington (banjo); Branford Marsalis (soprano saxophone); Chris Severin (bass)
ボブ・フレンチの録音。ブランフォード・マルサリスのレーベルから。Troy AndrewsはTrombone shortyのこと。これもかっこいい。ブランフォードのソロからトロンボーン・ショーティのソロになるところとかゾクゾクする。

Preservation Hall Jazz Band (NY, January 7, 2012)
Mark Braud (Trumpet, Vocals); Charlie Gabriel (Clarinet); Rickie Monie (Piano); Clint Maedgen (Saxophone); Freddie Lonzo (Trombone); Ben Jaffe (Tuba); Joe Lastie (Drums)
プリザヴァーション・ホール・ジャズ・バンドの最近のライブ録音。といっても10年以上前か。80年代とはメンバーとは異なるけどもこうしてバンドを引き継ぐのもニューオーリンズならではという感じもする。とてもかっこいい。ライブ見たいなあ。

Professor Cunningham and His Old School (New York 2013)
Adrian Cunningham (Woodwind, Vocals); Charles Caranicas (Trumpet); Jim Fryer (Trombone); Oscar Perez (Piano); John Merrill (Guitar); Daniel Foose (Bass); Rob Garcia (Drums)
都会的なニューオーリンズ・ジャズの解釈を展開しているエイドリアン・カニングハムの録音。というかカニンガムじゃないのか。アメリカにもBirminghamがあるけど読み方はバーミングハムらしい。であるならば読み方はカニングハムだろうなあ。

The Hot Sardines (New York City January 9, 2013)
Miz Elizabeth (Vocals, washboard); Dan Lipsitz (reeds); Jason Prover (Trumpet); Evan “Bibs” Palazzo (Piano); Josh Holcomb (sousaphone); Evan “Sugar” Crane (Bass); Bob Parins (Banjo); Kevin “The Professor” McDonald (Drums);
売れに売れているホット・サーディンズの録音。I’ll Fly Awayとメドレーになっている。てか2023年に来日したんだけど行けなかったことが悔やまれる。

Pepper and the Jellies (Teramo 2016)
Ilenia Appicciafuoc (Vocal, Kazoo, Washboard); Marco Galiffa (guitar); Emiliano Macrini (double bass); Andrea Galiffa (snare and woodblocks)
イタリアの素敵ジャイヴ・バンドのペッパー・アンド・ジェリーズ。イントロから最高。アラン・リュースやマーティ・グロス・マナーのギターが最高にかっこいいし、ドラムソロが非常にかっこいい。なによりボーカルの雄弁さがドープ!

Only New Jazz Band (Le Boupère December 09, 2016)
Jean-Yves Poirier (Clarinet); Jean-Christophe Renvoyer (Banjo); Franck Brousseau (Sousaphone)
フランスはル・ブペールのニューオーリンズ・ジャズバンド。4人という少ない編成なんだけどそれを最大限に活かした演奏。

Cosimo and the Hot Coals (Milano 2018)
Cosimo Pignataro (Trumpet, Voice); Stefano Della Grotta (Banjo); Mirko Boles (Bass); Michele Capasso (Drums); Martin Di Pietro (Piano);
インスタなどでバズりまくっているコシモ・アンド・ザ・ホット・コールズの録音。ストライド・ピアノが好きでよく聴いている。

参考文献


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