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Fascinating Rhythm

「ファシネイティング・リズム/魅惑のリズム Fascinating Rhythm」は1924年アイラ・ガーシュウィンIra Gershwin が作詞し、ジョージ・ガーシュウィン George Gershwin が作曲したポピュラー・ソング。ブロードウェイ・ミュージカル『レディ・ビー・グッド Lady, Be Good』で紹介され、1941年の映画版でも使用された。とくに舞台版ではフレッド・アステアとアデレ・アステアの姉妹によるタップダンスで盛り上がった曲で大ヒットを記録した(もちろん私は見たことがない)。トラッド・ジャズの大スタンダードの一つ。

ブリコラージュあるいはキュビズムに志向した楽曲

この曲は、「ジョージ・ガーシュウィンがニューヨークのダイナミックなエネルギーにインスパイアされて書いた「シンコペイティッド・シティ Syncopated City」という曲の一部」だった (Furia & Lasser, 2006, p. 42)。一度ボツになったのだが、その後ミュージカル用に別の曲を組み合わせいまのタイトルの曲となった。

こうした組み合わせ方について、かつてアメリカ大衆音楽の研究者であったジェイムズ・モリソンは次のように表現する。「この曲の過去からの逸脱は非常に顕著であり[...]断片が複雑に積み重なり、断片が縫い合わされている」。まさにこれまでの曲とは違い、「ファシネイティング・リズム」は、さまざまなメロディの断片を繋ぎ合わせ作り上げたブリコラージュ*のような作品であった。実際に当時ジョージ・ガーシュウィンはモダンアートに凝っており、そういった芸術感覚を大衆音楽に投影することを目指していた (Furia, 1990, p. 128)。

*ブリコラージュとは、その場で入手可能な部品を別の部品と繋げ合わせることで、新しいものを作り上げることを意味する。

また、ここで使われている韻のテクニックは頭韻と押韻が複雑に絡み合っている。ヴァースでは/d/の頭韻と/en/の押韻が繰り返し使われている。

So darn persistent,
あまりにしつこい

the day isn't distant,
そう遠くないのかもしれない
when it'll drive me insane.
狂いそうになるのは。

それだけではなく、口語と古風な表現を対比させることで、この曲の新しさを際立たせ、さらに詩の形式を反復させることで、曲全体をよりドープにさせている。これにかんしてはAメロの最後に配置されているつぎの2つを見てみたい。

I'm all a-quiver
私は震えている

Why I'm always shaking just like a flivver
なんで私はいつも震えているの?車みたいに。

ここでは意味的には大差のないことを言っている。が、前者はquiverという古い表現を使っているのに対し、後者はflivverという当時は最新であった車を使用している。こうしてさまざまな時代の表現を散りばめることで、冒頭に記したようなブリコラージュ的価値を曲に与えている。

またしばしばいわれるが、このテーマはイングランドのハードロックバンドの第三期ディープ・パープルの名曲Burnでリフにまんま使いされている。

録音

Stéphane Grappelli (Paris, February 6, 14, or April 10, 1956)
Stéphane Grappelli (Violin); Maurice Vander (Piano); Pierre Michelot (Bass); Baptist "Mac Kac" Reiles (Drums)
50年代にパリに帰国したあとの録音。このころから左手ピッチカートも細かいトリルもすでに達人の域。ピアノが入った録音では一番好きかもしれない。

Stéphane Grappelli (London, September 5, 1973)
Stephane Grappelli (Violin); Roland Hanna (Electric Piano); George Mraz (Bass); Mel Lewis (Drums)
グラッペリのロンドン録音。ベースによるテーマからはじまる。珍しくエレキ・ピアノでの録音。

Yehudi Menuhin & Stéphane Grappelli (London, 21-23 May, 1975)
Stéphane Grappelli (Violin); Yehudi Menuhin (Violin);  Denny Wright (Guitar); Ike Isaacs (Guitar); Lennie Bush (Bass)
メニューインとグラッペリによる極めて美しい録音。クラシックとジャズの最高の巨匠同士がタッグを組んだ録音。美しい!

Joe Venuti & Earl Hines (NYC, 22 October 1975)
Joe Venuti (Violin); Earl Hines (Piano)
ジョー・ヴェヌーティとアール・ハインズのデュオ。ヴェヌーティの高音が非常に特徴的なんだけど、それだけじゃなくておそらくヴェヌーティのフットストンプがめっちゃリアル。アール・ハインズのソロは縦横無尽って感じ。かっこいい!

Stephane Grappelli (San Francisco, July 4, 1982)
Stéphane Grappelli (Violin); Martin Taylor (Electric Guitar); Diz Disley (Acoustic Guitar); Jack Sewing (Bass)
サンフランシスコでのライブ実況録音。ちょっと中域が強調されていて必ずしも素晴らしい録音状態ではないんだけど、とんでもない熱演!

Stéphane Grappelli (Warsaw, October 27th, 1991)
Stéphane Grappelli (Violin); Marc Fosset (Guitar); Jean-Philippe Viret (Bass)
晩期のグラッペリのライブ。どっしりした演奏で音色もフレーズも非常に美しい。

Stéphane Grappelli (Rimouski, Quebec, 1994)
Stéphane Grappelli (Violin); Bucky Pizzarelli (Guitar); Jon Burr (Bass)
最初のタメがかっこいいグラッペリの再晩期の録音。ギターはピザレリでベースはジョン・バーという布陣。このメンバーのなにがすごいかっていうと誰のソロでもまったくスウィングが損なわれないこと。

The Howard Alden-Dan Barrett Quintet (Ft. Lauderdale, Florida, January 12, 1995)
Howard Alden (Guitar); Dan Barrett (Trombone); Chuck Wilson (Alto saxophone & clarinet); Frank Tate (Bass); Jackie Williams (Drums)
シカゴ・スタイルの名手たちのライブ実況録音。ハワード・アルデンとダン・バレットのタッグ。バレットのトロンボーンが枯れまくっていて素晴らしい!

Fapy Lafertin Quintet & Tim Kliphuis (The Hague, the Netherlands, NOT GIVEN)
Tim Kliphuis (Violin); Fapy Lafertin (Guitar); Jan Brouwer (Guitar); Reinier Voet (Guitar); Simon Planting (Bass);
ティムをフィーチャーしたファピー・ラファーティンのバンドの録音。もしグラッペリが80年代にマヌーシュ・ジャズのスタイルで録音したらこんな感じになるのかなあと想像する。ソロのAメロの最後のところとかめちゃくちゃ美しい。

Mark O'Connor's Hot Swing Trio (NYC, August 26–30, 2002)
Mark O'Connor (Violin); Frank Vignola (Guitar); Jon Burr (Bass); Jane Monheit (Vocal)
マーク・オコナーのトリオの録音。初期と再晩期を合わせたような美しさと勢いを合わせたような録音。歌もの。

Dick Hyman and Tom Pletcher (Bradenton, FL, January 2, 2003 - March 27, 2003)
Dick Hyman (Piano); Tom Pletcher (Cornet); Dan Levinson (Clarinet, Saxophone [C-Melody]); David Sager (Trombone); Vince Giordano (Bass Saxophone); Bob Leary (Guitar, Banjo); Ed Metz Jr. (Drums);
もしビックスがガーシュウィンを録音したらというコンセプトの録音。まさにビックスが現代に蘇ったような録音。

Florin Niculescu (Paris, 2020)
Florin Niculescu (Violin); Hugo Lippi (Guitar); Philippe Aerts (Bass); Bruno Ziarelli (Drums);
マヌーシュ・ジャズのヴァイオリンの名手フローリン・ニクレスクの録音。わりとモダンな音色のカルテット。

参考文献

  • Furia, Philip. (1990). The poets of Tin Pan Alley: A History of America's Great Lyricists. Oxford: Oxford University Press.

  • Furia, Phillip & Lasser, Michael. (2006). America’s songs: The stories behind the songs of Broadway, Hollywood, and Tin Pan Alley. London: Taylor and Francis.


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