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Moonglow

「ムーングロウ Moonglow」は1933年にエディ・デ・ランジEddie De Langeが作詞し、ウィル・ハドソンWill Hudson とアーヴィン・ミルズ Irving Mills が作曲したポピュラーソング。ジャズにおいてはしばしばスローテンポのフォックス・トロットで演奏されるが、速い録音もある。

夜空からおぼろげに広がる月の光

月の光はしばしばジャズだけではなくさまざまなジャンルの音楽に登場する。他方で「月の光」を意味する単語はいくつかある。「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス」ではまさにmoonbeamsという単語が使用されているし、「ムーンライト・イン・ヴァーモント」ではmoonlightという語が使われている。他方でこの曲は「ムーングロウ」という単語が使われている。

Moonglow、moonlight、moonbeamそれぞれ日本語にしてしまえば「月明かり」とか「月光」といった意味だけど、それぞれの単語が指し示す光は、それぞれがちょっと違っている。

moonlight

おそらく「月明かり」「月光」といった意味でもっとも一般的な単語。「月明かりが綺麗だね!」とかそう言った一般的な記述に使われる。だから月がぼやっと光っている様子や月から光が差している様子など、さまざまな月の光を記述するのに使用することができる。

頑張って描いた!ムーンライトはこんなイメージ。

moonglow

他方でmoonglowは日本語で言うところの「朧月おぼろづき」に似ている。月の光が柔らかく拡散し、あたりの空がぼやけ、月と空、雲の境界がわからなくなるようなそんな月。だから月そのものよりも光り方に焦点を当てている。詩的に響く。「今日は朧月だね」と言ったらちょっとロマンチックに聞こえるだろう。そんな感じ。

これも頑張った!AIとか使ってないよ!

moonbeam

さてmoonbeamも「月光」なんだけど、月よりも「月の光」そのものを差している。しかもその光は月から直接伸びるようなそんな光。スポットライトのようにも輝くし、水面にも反射する。ポルカドッツの光は前者を思い起こす。

ポルカドッツでイメージするのは左。複数だからこれに線がたくさんでている感じ。右はわたしが好きなムーンビーム。月から水面に伸びる月明かり。

おぼろげな月と儚い時間

さて、そんな「朧月おぼろづき」は儚い気分を想起させる。ちょうど歌詞の中でも恋の儚さが歌われている。わたしが特に好きなのはBメロのところ。

We seemed to float right through the air
私たちはまるで空に浮かんでいるみたい
Heavenly songs seemed to
天使の歌声が
come from everywhere
あちこちから聴こえてくるみたい

ここで歌われているのは、恋に落ちてウキウキしているけれども少し物悲しい気持ち。そういった気持ちを空に浮かぶ朧月にたとえ歌っている。だからムーングロウははっきり歌うよりもメロウに歌ってくれた方が私としてはグッとくる。ちなみにBメロはほとんどI Ain’t Got Nobodyのメロディーに聴こえる。

録音

Joe Venuti and his Orchestra (New York, December 28, 1934)
Louis Prima(Trumpet); Jerry Colonna (Trombone); 2 unknown (Clarinet, Alto Saxophone); Larry Binyon (Tenor Saxophone); Joe Venuti (Violin); Fulton McGrath (Piano); Frank Victor (Guitar); unknown (Bass); Neil Marshall (Drums)
ムーングロウの初録音。ヴェヌーティのヴァイオリン以外にはソロがないのだけど、一応ルイ・プリマも参加している。

Stéphane Grappelli and his Hot Four (Paris, October 21 1935)
Stéphane Grappelli (Violin); Django Reinhardt (Guitar); Joseph Reinhardt (Guitar); Pierre “Baro” Ferret (Guitar); Tony Rovira (Bass)
QHCFと同じ編成だけど、おそらく版権の関係だと思うが、名義がグラッペリのバンドになっている。こういった曲のジャンゴは本当にかっこいい。テーマからブルージー。

Art Tatum Trio (NYC. January 5, 1944)
Art Tatum (Piano); Tiny Grimes (Guitar); Slam Stewart (Bass)
アート・テイタム・トリオの録音。アート・テイタムの録音時期のなかで一番好き。ほかの録音と違いテンポが速い。

Slam Stewart (Hérouville, Auvers-sur-Oise,  April 26, 1971)
Slam Stewart (Bass); Jo Jones (Drums); Milt Buckner (Piano)
全編スラム・スチュワートのアルコを楽しめる名演。ジョー・ジョーンズのドラムも極めて美しい。

Earl Hines (New Orleans January 30th and 31st, 1975)
Wallace Davenport (Trumpet); Orange Kellin (Clarinet); Tom Ebert (Trombone); Earl Hines (Piano); Emanuel Sayles (Guitar); Lloyd Lambert (Bass); Louis Barbarin (Drums);
アール・ハインズのニューオーリンズ録音。レイドバックした演奏がとても素敵。どのソロも好きなんだけど、私としてはアール・ハインズ本人の太いピアノの音色が好き。

George Van Eps & Howard Alden (Hollywood, CA, June 11-12, 1991)
George Van Eps (Guitar); Howard Alden (Guitar)
伝説のスウィング・7弦ギタリストのジョージ・ヴァン・エプスとその下の世代のハワード・オルデンのデュオ。

Kenny Davern Trio (Toronto, Ontario, March 19, 2006)
Kenny Davern (Clarinet); David Boeddinghaus (Piano); Trevor Richards (Drums)
ケニー・ダヴァーンの儚いクラリネットが聴ける録音。ちょっとドラムの存在感がありすぎるし前に進もうとしすぎているように聴こえる。

Ian Cooper (NOT GIVEN, Released in 2009)
lan Cooper (Violin & Viola); Jim Pennell (Guitar); Steve Brien (Guitar); Paul Cutlan (Clarinet); Phil Stack (Bass)
イアン・クーパーの録音。イントロが素晴らしい!

Chikuwabu (NOT GIVEN, Released in 2010)
Emma (Vocal, Kazoo); 野崎理人(Guitar)
ちくわぶの録音。Emmaさんの歌声がノーティで素敵!野崎さんとのデュオでのびのびと牧歌的。

Myriam Phiro (NYC, Released in 2015)
Myriam Phiro (Vocal); Vinny Raniolo (Guitar); John Di Martino (Piano); Nicki Parrott (Bass, Vocal); Rob Garcia (Drums)
フランス系カナダ人のミリアム・フィロによる録音。ベースとボーカルでニッキ・パロットが参加。透明感のある録音で素敵。

Jonathan Stout (NOT GIVEN, Released in 2018)
Jonathan Stout (Guitar)
ジョナサン・スタウトのソロ・ギター。まさにおぼろげで美しいバラードとして録音されている。かれの父親に捧げた渾身の名演。

Tcha Limberger Trio with Mozes Rosenberg (Cardigan, April 21, 2018)
Tcha Limberger (Violin,  Vocals); Mozes Rosenberg (Guitar); Dave Kelbie (Rhythm Guitar); Sebastien Girardot (Bass)
ハンガリーのロマ系バイオリニスト、チャー・リンバーガーのリーダーバンドのライブから。この録音のリンバーガーは、スタッフ・スミス的な歪んだ音とハイポジションでの演奏が特徴的で非常にかっこよい。

Guillaume Nouaux & The Clarinet Kings (Paris, 2019)
Engelbert Wrobel (Clarinet); Alain Barrabés (Piano); Guillaume Nouaux(Drums)
ギヨーム・ヌオーの録音。クラリネットでエンゲルバート・ロベルがフィーチャーされている。

Golden Compass Trio (New Orleans, July 2022)
Bryce Eastwood (Soprano Saxophone, Tenor Saxophone, Vocal); Mike Clement (Guitar); Ben Fox (Bass, Vocal)
ニューオーリンズの若き天才たちが集まった録音。ベン・フォックスのベースがふんだんに聴けるところもよい。ヴォーカルはブライス・イーストウッドでここで熱いソプラノサックスを吹いている。

The Hot Toddies Jazz Band (NYC, May 6-8, 2024)
Queen Esther (Vocal); Alphonso Horne (Trumpet); Linus Wyrsch (Saxophones); Jake Handelman (Trombone); Justin Poindexter (Guitars); Ian Hutchison (Bass); Patrick Soluri (Drums)
ニューヨークで活動するトラッドジャズ・ミュージシャンたちが集まった録音。この録音からゲイブ・テラッチャーノGabe Terraccianoが参加していないのだけど抜けてしまったのか?それでもハーモニーが素敵なアンサンブルが展開されている。素晴らしい!


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