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Cocktails for Two

「二人でカクテルを/カクテルス・フォー・トゥー Cocktails for Two」は1934年にアーサー・ジョンストン Arthur Johnston とサム・コスロウ Sam Coslow が書いたポピュラー・ソング。映画『絢爛たる殺人 Murder at the Vanities』で使用された。

禁酒法とカクテル

1920年から1933年までアメリカ合衆国の全土で執行された禁酒法Prohibitionの撤廃について歌われる。たとえば以下のようになっている。

Oh what delight to
Be given the right to
Be carefree and gay once again.
No longer slinking,
Respectably drinking
Like civilized ladies and men.
おお!なんて嬉しいんだろう。
もう心配しなくていいし、好き勝手に陽気に
なれるんだ
こそこそしなくてもいい
人前でどうどう呑めるんだ
立派な淑女紳士みたいに

禁酒法は、間違いなくアメリカ合衆国の歴史の中でもっとも愚かな法律の一つだろう。自明なことであるが、政治家とギャング、警察と密輸業者などさまざまな癒着を可能にしてしまった。一例ではあるが、スピークイージー(酒を提供していた違法バー)の存在を挙げることができる。

そうしたバーで人気を博したのが「カクテル Cocktails」であった。なぜなら一瞥してジュースやお茶にしか見えない、つまり見た目ではお酒と判断がつかないからだ。たとえば「ロング・アイランド・アイスティー」はラム+ウォッカ+テキーラ+ジン+レモンジュース+コーラを混ぜて作られる。見た目はもはやアイスティーにしか見えない。こうして作られた「一見、酒には見えない飲み物」はまさに警察の目を欺くということに志向していた。

また、それまでウィスキーが主流だったカクテルがだんだんジンやウォッカになったのは、ウィスキーにくらべ生産しやすいからだろう。また甘いカクテルがたくさん考案されたが、甘い方が素早く呑めるため、万が一警察が来た場合に証拠を隠滅することができるからにほかならない。

ロングアイランド・アイスティー。おいしいけどすぐに酔っ払う。もったいないけどグイっと飲みたい。ちなみに、カクテル自体が禁酒法時代に生まれたわけではない。アルコール飲料としてのカクテルが一般的に使用されたのは1806年なので (Oxford English Dictionary)、禁酒法よりもずっと前の話だ。

ティー・フォー・トゥーとカクテルス・フォー・トゥー

さて、この曲のタイトルが「二人でお茶を/ティー・フォー・トゥー Tea for Two」に似ていることはしばしば言われる。「ティー・フォー・トゥー Tea for Two」という表現は、イギリスのティー・ルームで紅茶を自分と相手の二人分頼むときに言う表現。

重要なのは「ティー・フォー・トゥー Tea for Two」が端的で気軽な表現ということ。つまり「カクテルス・フォー・トゥー Cocktails for Two」という曲が、禁酒法が撤廃された後に書かれた曲であるならば、まさにバーで気軽に(それまでコソコソと隠れて飲んでいた)カクテルを頼めるようになったことを踏まえている。それだけではなく、パートナー同士(歌詞を踏まえれば「立派な淑女紳士みたいに」)がそういったバーに行けるようになったこと、このことを踏まえている、と言えるだろう。

録音

Art Tatum Trio (NYC, January 5, 1944)
Art Tatum (Piano); Tiny Grimes (Guitar); Slam Stewart (Bass)
アート・テイタムの録音時期で一番好きなトリオでの演奏。このスラム・スチュワートが一番かっこいい。

Aaron Weinstein and John Pizzarelli (NYC, April 23-24, 2007)
Aaron Weinstein (Violin); John Pizzarelli (Guitar)
アーロン・ワインスタインとジョン・ピザレリの録音。かつてバッキー・ピザレリとリチャード・カーのタッグがあったが、それとは違いもう少し現代的なアプローチになっている。


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