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12th Street Rag/Twelfth Street Rag[12番街ラグ]

「12番街ラグ12th Street Rag」は、 1898年にユーディ・L・ボウマン(Euday L. Bowman)が作曲し、1914 年に出版したラグタイム曲。1919年にジェイムズ・S・サムナーが歌詞とフォックス・トロット・アレンジをつけくわえた。また12番街ラグは「SP盤の時代にもっとも録音されたラグタイムの曲」である(Jasen 2007, p. 264)。

ドリッグスとハディックスによれば「ラグタイムとジャズの伝統の架け橋」になった曲と称される (Driggs and Haddix, 2005, p. 33)。現在でもトラッド・ジャズ/ニューオーリンズ・ジャズ/スイングではスタンダードとなっていて、さらにはブルーグラスやウェスタン・スイングのフォーマットでも録音されている。

またこの曲の最大の特徴といえばAメロのパターンだろう。こうしたパターンのことを「セカンダリー・ラグ」や「スリー・オーバー・フォー」という。つまり、「4拍の小節の中に3つの異なる音符が配置され、フレーズが繰り返されるたびに新しい音符がアクセントとなるもの」を指す(Jasen 2007, p. 264)。

3つの音符と質屋

ボウマンが友人と歩いていた際に、友人が「質屋で一発当ててやる!」と言い放ち、それに対しボウマンが「じゃあおれは3つの音符で曲を書いてみせる」と言ったことからはじまった曲らしい。ここで言われている「3つの音符」とは、まさに「スリー・オーバー・フォー」のパターンのことを指している。

さて、こうしたエピソードが語られるけど、なんでそもそも「3つの音符」か、あるいは「3つの音符と質屋にはどんな関係か?」と言えば、まさに質屋のシンボルが「3つの金の球体」だからにほかならない。なんで3つの金の球体が質屋のシンボルなのかというと、質屋の守護聖人である聖ニコライに由来しているとか、3つの石の袋を使って巨人を倒したメディチ家に由来しているなど、いくつかの説がある。

質屋は英語で"pawnshop"と言う。この絵にもやはり3つの金の球体がある。

カンザスの街

この曲が書かれた当時ではないけど、1920年代から1930年代にかけて、カンザス・シティには全米からミュージシャンが集まっており、ダンスホールやナイトクラブが点在しており、気楽な雰囲気がただよい、また豊富な仕事に人々が引き寄せられた。1929年にこの地に到着したピアニストのメアリー・ルー・ウィリアムズによれば、カンザスシティはミュージシャンにとって「天国」のような場所であった。とくに「街の黒人地区には至るところに音楽があり、12番街と18番街には50軒以上のキャバレーがあった」らしい (Driggs and Haddix, 2005, p. 6)。まさに、そんな雰囲気が込められているのではないかな、と思う。

1920年代の12番街。大都会ですな。

録音

Willie “the Lion” Smith (Paris, France, December 1, 1949)
Willie “the Lion” Smith  (Piano)
ストライドの名手ウィリー・ザ・ライオン・スミスが唸りながらガシガシとピアノを弾く名演。テンションあがりますな。

Kid Ory's Creole Jazz Band "Jubilee Broadcast" (Los Angeles, California., August 1949)
Ed Garland (Bass); Joe Darensbourg (Clarinet); Minor Hall (Drums); Buster Wilson (Piano); Kid Ory (Trombone); Andrew Blakeney (Trumpet)
大好きなキッド・オーリーのコロンビア・セッションの録音。このほかにもいくつかリーダーとして同曲を録音していて、どれもかっこいい。Storyvilleから出した”Sound of New Orleans Vol. 9”にて収録された同曲もコロンビア・セッションに負けじと素晴らしいライブ録音。勢いがすごくて大好き!1960年にDance with Kid Ory or Just Listenというアルバムでも同曲を録音していて、それもかっこいい。

高木大丈夫とNo Problems (Tokyo, 2019)
高木大丈夫(歌、ベース、ギター); 木村美保(歌、ダルシマー、笛など); 丸山朝光(歌、バンジョー); 山下Topo洋平(ケーナ、チャランゴ、ギター、コーラス); 田中涼(ドラム); 青木マサヒロ(アコーディオン); 西村健司(トロンボーン); 山田拓斗(フィドル、マンドリン)
カウントからはじまっていっきに楽しい演奏が繰り広げられてヘブン状態になる。たくさんの楽器の音が楽しめるところも最高。洗足オールスター。

Gordon Au (Asheville, December 28, 2019)
Gordon Au (trumpet); Keenan McKenzie (soprano sax); Jacob Zimmerman (clarinet); Lucian Cobb (trombone); Jonathan Stout (guitar); Chris Dawson (piano); Jen Hodge (bass); Josh Collazo (drums)
現在はニューヨークで活躍しているゴードン・ウーの録音。アッシュヴィルでのライブの録音で、やはりメンバーはスイング/トラッド・ジャズの第一線で活躍しているミュージシャンが集まっている。ゴードンの演奏はまさにサッチモ・スタイルでブルージーな高音がとても美しい。またジョナサン・スタウトのギターはバンドにリズムと彩りを与えていて素晴らしい。ジェン・ホッジはカナダで活躍していたベーシストで現在は西海岸で活躍してる。かの女のリーダー・アルバムも素晴らしい。

Hot Shooters (Argentina 2019)
Lucho Pellegrini (washboard); Julián Cerdeira (tenor guitar); Pedro Alvide (clarinet); Iván Viaggio (bass); Leonel De Francisco (Cornet [ゲスト])
アルゼンチンのウォッシュボード・バンドの録音。楽しい録音でこれも大好き!インスタの動画とか本当に仲が良さそうでそこもよき。

Katrina Nicolayeff (Meridian[?] 2016[?])
ブルーグラスだとカトリーナ・ニコラエフの録音がすごい。CDを買おうとしても探せなくてさしあたりサブスクにしかない。全米のフィドルのグランドマスター・チャンピオンシップのチャンピオンの録音(マーク・オコナーも優勝経験がある)。オープン・ディヴィジョンのチャンピオンなんだけど、プロレス・ファンとしては無差別級フィドル・チャンピオンと言いたいところ。なんと左利きで左利きのフィドルを使用。めっちゃかっこいい。

ほかにもボブ・ウィルズやコノー・スミスが率いるWest Coast Hot Clubのウェスタン・スイングの録音もよく聴く。
アコーディオンのチャールズ・マグナンテの録音もとてもいい。歌ものでは、ファッツ・ウォーラーの録音がある。日本語だと上の助空五郎さんの録音がとっても好き。

参考文献

  • Driggs, Frank &  Haddix, Chuck. (2005). Kansas City Jazz: From Ragtime to Bebop—A History. Oxford: Oxford University Press. 

  • Jasen, A. David. (2007). Ragtime: An Encyclopedia, Discography, and Sheetography. London: Taylor and Francis. 

*2024.2.8 文献追加、加筆修正

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