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Doin’ the New Low Down

「ドゥーイン・ザ・ニュー・ロウ・ダウン Doin’ the New Low Down」は、ジミー・マクヒュー Jimmy Mchugh とドロシー・フィールズ Dorothy Fields のコンビによる曲で、1928年初演のオールブラック(出演者のすべてが黒人)のミュージカル『1928年のブラックバーズ Blackbirds of 1928』のために書かれた曲。このミュージカルからは “I Can’t Give You Anything But Love”、”Diga Diga Doo”、”Baby”などが生まれた。

この「ロウ・ダウン Low Down」とは1920年代30年代に流行した表現で、とりわけハーレムで流行していた黒人のダンスを指し示す表現。わりと流行った表現でほかにもこの表現を使用したダンス・ナンバーはいくつかある。こうして振り返ってみると、この時代において、いかにジャズとダンスが近かったのか、さらに聴衆がジャズに志向していたのか、このことを見て取れるように思う。

これぞマクヒューといったダンサンブルな楽しい曲。「もう一度あのクレイジーな演奏をさせてくれ!またあの悪そうなスウィングをしなくちゃ!」とはじまる。「俺の足はもう浮気に向かっているんだ。魂は救われない。」とダンス会場がいかにそういった情事、つまり浮気や不倫、と近かったのかが歌われる。魂に言及されるのは、おそらく出エジプト記の「汝、姦淫するなかれ」に見られるような、キリスト教社会にある性行為規範を参照しているからだろう。なぜ、魂が救われないのかといえば、キリスト教社会においては、そういった情事により死後の救済が受けられなくなると信じられているからにほかならない。そうした規範があるにもかかわらず、「ロウ・ダウン」が作るダンスのリズムは強力なのだ。実際に「あの踊りの悪魔が俺の足をトランス状態にしている。トランス状態の間、俺はダンスに没頭するんだ。」と歌われる。

録音

Don Redman And His Orchestra (New York, December 29, 1932)
Bill Robinson (Tap Dance, Vocals); Don Redman (Alto Saxophone); Edward Inge (Clarinet, Alto Saxophone ); Rupert Cole (Clarinet, Alto Saxophone); Langston Curl (Trumpet); Shirley Clay (Trumpet); Sidney De Paris (Trumpet); Horace Henderson (Piano); Talcott Reeves (Guitar); Bob Ysaguirre (Bass); Manzie Johnson (Drums)
ビル・ロビンソンをフィーチャーしたドン・レッドマン楽団の録音。ロビンソンのタップダンスはもちろんなんだけど歌声が素敵。決して歌で聴かせるとかではないんだけど、ダンサーのリズム感覚とはこんなにかっこいいのかと驚く。最高!

Don Redman And His Orchestra (New York, December 29, 1932)
Cab Calloway (Vocals); Mills Brothers (Vocals); Don Redman (Alto Saxophone); Edward Inge (Clarinet, Alto Saxophone ); Rupert Cole (Clarinet, Alto Saxophone); Langston Curl (Trumpet); Shirley Clay (Trumpet); Sidney De Paris (Trumpet); Horace Henderson (Piano); Talcott Reeves (Guitar); Bob Ysaguirre (Bass); Manzie Johnson (Drums, Vibraphone)
キャブ・キャロウェイとミルズ・ブラザーズをフィーチャーしたドン・レッドマン楽団の録音。こちらのほうがより構築的なスウィングになっている。スーパースターの歌声はまさに雄弁でミルズ・ブラザーズのコーラスとあいまって素敵な空間を作っている。

Art Hodes (Chicago, August 1940)
シカゴを代表するピアニストのアート・ホーディスのソロ・ピアノ。アート・ホーディスのこうした曲の録音はどれも素晴らしい。

Dan Sadowsky & The Ophelia Swing Band (Denver, January 1978)
Dan Sadowsky (Vocal, Guitar); Washboard Chaz (Washboard); Phil Sparks (Bass); Tim O'Brien (Mandoline); Skeezix Sparks (Wooden Spoon); Brian Brown (Percussion); The Street Corner Choirs [Marguerite Junemann, Bob Junemann, Paul Weston] (Vocals);  
デンヴァーのアコースティック・スウィング・バンドのオフィーリア・スウィング・バンド。日本語だとオフェリアと書いてある場合があるが、オフィーリアが普通。シェイクスピアの戯曲『ハムレット』に登場するオフィーリアと同じ。コーラスもスプーンも最高にかっこいい!セリフのような節回しのダン・サドウスキーがダンディーで素敵。

Peter Eklund (Elkhart, July 15-17, 1994)
Greg Cohen (Bass); Bobby Gordon (Clarinet); Hal Smith (Drums); Marty Grosz (Guitar, Vocals); Peter Ecklund (Trumpet); Mark Shane (Piano); Dan Barrett (Trombone);
ピーター・エクランドのドイツでのライブの実況録音。ここではマーティ・グロスがヴォーカルを担当している。エクランドの録音なんだけどやはりこうした曲はグロスの得意分野なのかもうグロスの録音と言ってよい存在感。終始素晴らしくダンサンブルなスウィング・ギターを聴かせてくれる。

Allan Vaché Big Four (Ocala, Florida July 18 & 19, 1999)
Allan Vaché (Clarinet); David Jones (Cornet); Bob Leary (Guitar); Phil Flanigan (Bass);
アラン・ヴァシェの録音。毎度のこと素晴らしい録音。このアルバムは本当に全曲神がかってかっこいい。とくにこの録音ではディヴィッド・ジョーンズのクラリネットとヴァシェのからみがとってもいいだけではなく、全員で曲のスウィングを作り上げている感じが本当に伝わる。全部が絡み合った録音。

Kevin Conor and Swing 3PO (NY, 2017)
Lamar Lofton (Bass and vocal); Mike Daugherty (Drum and Vocal); Kevin Connor (Guitar and Vocal); David Loomis (Trombone)
ケヴィン・コナーのバンドの録音。とても気持ちのよいダンス・ナンバーに仕上げている。シンプルなアレンジだからこそとても力強くとてもかっこいい!ラマー・ロフトンのベース・ソロが素晴らしい。それと全体的にディヴッド・ルーミスのトロンボーンが特徴的。


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