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Alexander’s Ragtime Band

「アレキサンダーズ・ラグタイム・バンド Alexander’s Ragtime Band」は、1911年にアーヴィン・バーリン(Irving Berlin)が作詞作曲したポピュラー・ソング。現在ではジャズ・スタンダードとなっている。

アーヴィン・バーリンがある朝ヒゲを剃っているときに思いついたとされている。それまでのティン・パン・アレーで発表された曲のなかでは一番のヒットとなった。またこの作品は1938年のミュージカル映画『世紀の楽団 Alexander’s Ragtime Band』にも使用された。

黒人とラグタイムについての曲

1893年にシカゴで開催された「シカゴ万国博覧会」と同じ年に、ロシアからアメリカに移住したアーヴィン・バーリン。じつはラグタイムはその年に世界に向けて披露された。こうして、ラグタイムはアメリカが世界に誇る国家音楽として権威がつけられることになる。

ただ、タイトルに「ラグタイム」とあるが、「アレキサンダーズ・ラグタイム・バンド 」は音楽的にはラグタイムではない。むしろ「ラグタイムにかんする曲」である(Jasen, 2003, p.26)。歌詞の内容は「アレキサンダーのラグタイム・バンドを聴こうよ!とってもハッピーで楽しいよ!」という感じ。この曲によってアメリカ市民のラグタイムにかんする偏見を拭い去ってしまったような、そんなポジティブな歌詞である。

バーリン自身はこの「アレキサンダーズ・ラグタイム・バンド」を「クーン・ソング coon song」と呼んでいるように("coon"という表現は黒人を指す言葉だが、端的に差別語なので注意されたい)、黒人について書かれた曲である(Furia & Lasser, 2006)。というもの、当時の黒人の間ではそういった尊大な名前をつけることが流行していて、この「アレキサンダー」もそうした流行をとられたものだからだ(「アレキサンダー」といえばイギリスの詩人アレキサンダー・ポープがおもいつくが、ポープの詩はまさに上流階級という感じがする)。同時にバーリンは黒人英語を歌詞に取り込んでいる。といっても、そういったものが、黒人そのものに対する偏見を含んでいるわけではない。

また、メロディは「バグル・コール」(バグル・コールとはマーチングなどで聴かれるトランペットなどによる短いフレーズのこと)とスティーヴン・フォスターの「スワニー・リバー」から影響を受けており(ibid)、実際に歌詞にも同じ「バグル・コール」と「スワニー・リバー」が登場する。こうした引用は、1911年、バーリンがニューヨークの「フライヤーズ・クラブ」の会員になり、会員のための社交会で披露するために考えられた(ibid.)。この前の年にテッド・スナイダー(Ted Snyder)が作曲し、それにバーリンが歌詞を書いた「アレキサンダーと馬車/アレキサンダー・アンド・ヒズ・チャリオット ”Alexander and His Chariot”」という曲を発表した。自身のアイディアをもとに、この曲を下敷きして書き上げたのが「アレキサンダーズ・ラグタイム・バンド」である。

録音

The Three Peppers (NY February 27 1937)
Walter Williams (Bass, Vocal); Bob Bell (Guitar, Vocal); Oliver "Toy" Wilson (Piano, Vocal)
ナット・キング・コール・トリオと同時期に活動したニューヨークのジャイヴ・バンド。こういったスモール・コンボは実際にスイングの時代にとても流行していた。やはり手軽に音楽をはじめられるというものが大きい。演奏も歌もめちゃくちゃかっこよくて、この曲で一番好きな録音かもしれない。それと“Alexander’s Ragtime Band”を”Alexander’s Swing-time Band”と言い換えているところもとっても素敵。

Chip Deffaa’s Irving Berlin's America (NYC 2011)
Chip Deffaa (Piano, Arrangements); Vince Giordano (Bass); Andy Stein (Violin); Tyler DuBoys (Taps); Jack Saleeby (Taps); Michael Townsend Wright (Vocals); Giuseppe Bausilio (Vocals)
批評家/舞台監督/歴史家のチップ・ダファーによるミュージカルの録音。アンディ・スタインのヴァイオリンも美しい。とても好きな録音。

The Fats Babies (Chicago September 2012)
Beau Sample (Bass); John Otto (Clarinet); Andy Schumm (Cornet); Alex Hall (Drums); Jake Sanders (Guitar); Paul Asaro (Piano)
シカゴ・スタイルのジャズを展開しているFats Babiesの録音もよきよき。若手から中堅にさしかかるミュージシャンが集まった素敵な録音!

The Chai-Chees Sisters (東京 March 2016)
紗理 (Vocal); 出口優日 (Vocal); 小林創 (Piano)
小林さんのピアノもお二人の歌もキュートで幸せな録音。

参考文献

  • Furia, Phillip & Lasser, Michael. (2006). America’s songs: The stories behind the songs of Broadway, Hollywood, and Tin Pan Alley. London: Taylor and Francis.

  • Jasen, A, David. (2003). Tin Pan Alley: An Encyclopaedia of the Golden Age of American Song. London: Routledge.

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