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「ACIDMAN大木と科学者たち」が高度すぎてわからなかった人のための講座

ロックバンドACIDMANのボーカルギター・大木伸夫によるサイエンストーク番組「ACIDMAN大木と科学者たち powered by 講談社ブルーバックス」

講談社ブルーバックスから書籍を刊行している科学者をスタジオに迎えて、宇宙や時間、脳科学などについて、その分野の最先端についてたっぷりお話を伺います。
第1回「素粒子物理学」のゲストは野村泰紀(カリフォルニア大学バークレー校教授)
著書に『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論』 -講談社ブルーバックスなど
我々の体を通り抜ける物質、重力と量子力学を同時に記述できる超弦理論。宇宙の秘密を解き明かすための研究結果や考え方を伺います。

……という趣旨で4/23の19時に公開された初回。一本20分でライトな内容なのかなー、と思いきやとんでもない。
番組冒頭で小学生にもわかるように、と言っていたはずが、盛り上がるにつれてどんどん話がディープになっていく。なまじ大木氏が博識であるがゆえ、「わからない」と突っ込んでくれる人間が不在……!
そこで備忘録的に、用語説明や解説をしていけたらと思って記事にしております。
非理系クラスタのみなさん、「まず素粒子物理学ってなんぞや」というところから、始めてまいりましょう。


✧素粒子物理学とは

物質の最も基本的な構成要素である素粒子と、その運動法則を研究対象とする物理学の一分野です。

✧素粒子研究がなぜ、宇宙の解明につながるのか?

この宇宙は、ビッグバンによってはじまりました。ですがそもそも、『ビッグバン』ってなんでしょう。
無限に広がっていまも膨張を続けている宇宙ですが、はじめは小さく小さく凝縮された一点だったそうです。いまの宇宙が大輪を咲かせた花だとしたら、いわば種の状態。
この種の中には、あらゆる星や生命のもとが超高密度で物凄くちっちゃくなって詰まっていました。この種が弾け飛んだ瞬間が『ビッグバン』です。
科学を発展させてきた我々人類、そこまではわかっても、果てがないほど広い宇宙のことは調べ尽くすことはできません。
だったら逆に、その種がなにでできているか、どんな性質をしているかを解明すれば、宇宙を構成しているものの正体がわかるのでは。

現在17種類の素粒子が見つかっており、クオーク、ニュートリノ、ヒッグス粒子といった名前がつけられています。
話に登場したクオークとは、この世界の『物質のもととなる素粒子』のひとつです。その性質により6種、アップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトムと名付けられています。
アップandダウンandトップandボトム。これらクオークがあるから、世界は形になっていくのです。

そのクオークが3個集まって陽子や中性子になります。陽子と中性子がくっついて集まったものが原子核、そこに電子がいくつかくっつけば原子、原子同士がくっついて分子になります。分子が集まってできたものが物質になり、その果てに躰に成っていく。あなたも私も生きている「いま」は、そんな奇跡の先の先にあります。

しかしこの素粒子。小さいのはわかるけど、実際どのくらいのスケールなのかって話です。リアルな数字はマイナス何乗、という世界になってしまうので、ミリから計算してみましょう。
クオークが1mmだとしたら、陽子や中性子は1m、原子核は10m、原子になるまで100km。分子になるにはなんと、1000km。東京から福岡の門司港までの距離になります。
それほどの隙間がある場所にボールを投げ入れても、当たりっこないですよね。クオークにとって我々の身体がスカスカ、というのは、そういう意味です。

しかしこれだけスカスカの空間で、それでも素粒子を解析したい。
そこで科学の人たちは、CERN(セルン)という実験施設を作りました。

✧CERN

大木氏が行ってみたい場所No. 1、スイスのジュネーヴ郊外でフランスとの国境地帯にまたがって位置する、世界最大規模の素粒子物理学の研究所です。
素粒子より大きな陽子がなにで構成されているかを調べるために、科学者たちは素粒子を壊してみようと考えました。
しかし素粒子は、『強い力』でくっつき合っています。重力や電磁気力よりもずっと強力です。硬いものを切断するには硬い刃を使うように、強い力でくっついているものは、強い力をもってしなければ壊すことはできません。
しかも相手はとても小さくて、刃物なんかでは歯が立ちません。そこで陽子同士をぶつけ合い、互いに壊すことにしたのです。
できる限り大きな力で衝突させるために、速さというエネルギーを使いました。
ノロノロ運転の車が電柱にぶつかってもぺっこりへこむだけですが、スピードを出している車同士が正面衝突すると大惨事になりますよね。
それと同じ理屈で、陽子を加速し、光速に限りなく近い速度で衝突させ、壊れたものを調べる。CERNで発見された最たるものが、ヒッグス粒子でした。

✧ヒッグス粒子

すべてのものに質量を与え、重さがあるものに対して抵抗としてはたらく素粒子。粒子というけれど、粒子として存在し続けるのではなく、ヒッグス粒子が充満した「ヒッグス場」を形成しています。
はい、謎オブ謎。なので噛み砕きましょう。

初期宇宙において、あらゆる物質は、なんの抵抗も受けずに過ごしていました。元気いっぱい働きざかりです。しかしこの空間を「ヒッグス場」が満たし、働きざかりだった物質にまとわりつきました。しかも相性がいいやつだけを目ざとく選ぶ周到さ。これが「重さ」を生みました。
そのうえ出会った瞬間入籍を迫って名前を「ボトムクオーク」に変え、「ヒッグス粒子」という存在は消えてしまいます。華麗に消えた不確定な粒子、それがヒッグス粒子です。
ちなみに合わなかった相手の代表格は光。光には質量がありませんが、それはヒッグス粒子とくっつかなかったからなのです。
ヒッグス粒子の性質がほんの少しでも違っていたら、世界のすべては存在すらできなくなるそうです。
カラスが消えた不可思議な日とは、そのバランスを失った日だったのかも。

✧スーパーカミオカンデ

大木氏が行ってみたい場所No. 2は、岐阜県飛騨市神岡町旧神岡鉱山内の地下1000mにあります。『水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置』という、純水で満たされた深くて大きな水槽を擁する施設です。
地上にはあらゆる電波や宇宙線が飛び交っているので、それらの影響を排するため地下にあります。
中性子が壊れるときに変なプロセスになっていたため、「何かある」として実験を繰り返した結果、素粒子ニュートリノの発見に至りました。
これがどれだけの偉業かというと、地球と太陽(約1.5億km)のあいだに漂う、産まれたての赤ちゃんのうぶ毛1本を見つけるようなものなのだとか。
ニュートリノ自体はいまこの瞬間も我々の周りに無数にありますが、物質の影響をほぼ受けず我々の身体を通り抜け、ほぼ光の速度で移動し、水中でも速度が落ちません。
水中では、光の速度より速い粒子があるとチェレンコフ光と呼ばれる光が放出されます。「光った、あれはなんだ?」を光電子増倍管と呼ばれるセンサーで観測する施設がスーパーカミオカンデです。
地球には日々、宇宙から何かしらの物質が降り注いでいます。我々が『流れ星』や『火球』と呼ぶものは、偶然大きい状態だった物質が、上空で大気にぶつかって爆ぜた光です。
原理は異なりますが、スーパーカミオカンデも、宇宙から降り注ぐ小さな小さな流星を見つけようとしているのです。

✧超弦理論

世界のすべては振動しているヒモである、らしい。we got vibration
アインシュタインが提唱した一般相対性理論は、星の動きや宇宙の発展について導いてくれる理論です。星の動きを説明する場合、重力なくして語ることはできません。
量子力学はその逆で、ミクロの世界の物理現象を考える際に用いられます。量子力学の世界では、物体の運動は決まった軌道を持たず、波のように振る舞っているというのです。
そう、まったくの正反対。単純に合わせて計算しても、噛み合う道理がありません。
そこで「物質=粒子」でなく、「物質=超ミクロの弦」とすると、量子力学と重力が一緒に計算できる場合があるらしいのです。
数学的に弦と解釈できる動きをするエネルギー体で、式はあって、計算もできて、でも腑に落ちない、というトンデモ理論。
科学者ですらそう言うのですから、わからなくてもあなたは大丈夫。我々一般市民にどうこうできるもんじゃないです。

Cのコードはクオークで、Eはニュートリノ、Amはヒッグス粒子、といったふうに、世界は音でできているかもしれません。謎い。
ほんと謎いのですけど、もしも最小のヒモがパチパチ弾けた波長で奏でられた音によって、世界が創られていたら……。
大木氏が楽しくなっちゃうのも、うなずけますよね。

✧余剰な次元

四次元、五次元……と続いて十一次元まで、現在計算上では存在すると言われています。
我々が生きているのは『三次元空間四次元時空』。一次元や二次元には干渉できますが、上の次元には干渉できません。この上の次元のことをひっくるめて、余剰次元と呼んでいます。
我々が関与できない次元ですが、超弦理論を突き詰めていくと、余剰次元がないと成り立たなくなってしまうのだそう。

✧おわりに

番組のなかで野村教授は、軽い調子で「丸が一個二個増える」と言っていました。
10が100、10が1000になるのと同じようにミクロの世界もより小ささを増して、宇宙と同じくらい広大であることがわかってきています。
見つかった素粒子は17個。しかもまだまだ増える可能性があるとのことでした。
その時がきたらACIDMANの曲も増えるといいな、と個人的にはおもいます。おおいに手を叩きたい。おもにライブで。

次回は『マルチバース理論』
日本語に訳せば多元宇宙で、『ユニバース』の対義語。この広い宇宙には、我々人類には観測できない別の宇宙が存在するのでは、という理論です。
やっぱ高度だと感じたら、またこのように解説するかもしれません。

歌詞引用元楽曲

Final Dance Scene

Star rain

金色のカペラ

Your Song


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