見出し画像

インターセクショナリティ〜カテゴリー化からの決別〜

[キーワード] #インターセクショナリティ #フェミニズム #差別  

最近のVOGUEはファッション誌の既存の枠を超えて、フェミニズム・人権について積極的に発信していていつもその記事を楽しみにしています。

先日、ちょうど取り上げたいと思っていた「インターセクショナリティ」について分かりやすい記事がありましたので、ご紹介したいと思います。

「インターセクショナリティ」という言葉は2010年代から始まる第四波フェミニズムで盛んに使われるようになり、フェミニズムだけでなく差別について考える上で非常に重要な用語として一般にも広がっています。しかしとりわけブラック・フェミニズムにとっては、この概念自体が目新しいものというわけではありません。

このように、インターセクショナリティはフェミニズムの運動の中で提唱されました。フェミニズムは女性の平等だけに注目するものではありませんが、当時のジェンダーギャップの大きさから、女性の権利実現を目指す中で生まれた議論です。

「フェミニズム」と一口に言っても、それぞれの背景や体験は全く異なります。いわゆる白人女性が「女性の権利実現」という時、そこでは例えばさらにマイノリティの黒人女性が受けていた差別は反映されるとは限りません。

女性であり、かつ、黒人であることに原因とする差別を解消するためには、「女性であること」から生じる差別と「黒人であること」から生じる差別が両方あわさった「黒人女性であること」による差別に目を向ける必要があります。

このインターセクショナリティという視点を、大学院のフェミニズムの授業で初めて聞いた時、胸にすっと落ちてきて納得できたことを覚えています。「○○差別」と問題をシンプルに切り取ることの違和感を説明してくれる言葉だったからだと思います。

今では、インターセクショナリティはフェミニズムに限らず、様々な差別問題を考える際に必要な考え方であり、例えば、BLMでもそれは同じです。

同様に、人種主義に反対をしていても、黒人男性の経験と黒人女性の経験は異なります。人種主義に反対するときには黒人男性が、性差別に反対するときには白人女性が中心になって差別を論じ運動を展開してしまうと、黒人女性が抱える問題は人種差別からも性差別からも取り残されて見えなくなります。そもそも人種主義と性差別が互いに深く関わって機能している社会において、その一方を放置したまま他方だけに反対することはできないはずだ、とブラック・フェミニストたちは考えたのです。

ある差別問題を解消しようとする時、その「差別」だけを見ていては、差別の根源にたどり着けないことがほとんどです。

例えば、「障害者差別」。障害者でも、女性、男性、あるいはセクシャルマイノリティは全く別の経験をしています。女性である障害者は、「女性であること」と「障害者であること」の両方の要素から、「障害者女性」として特有の差別に直面します。さらに、受けてきた教育、経済状況などによって、その差別の構造はより一層複雑化します。

ですので、「○○差別」を解消するだけでは、社会での状況はなかなか改善しません。一人ひとりの置かれている状況を紐解くと、そこに社会構造の歪み、不平等の原因が見えてきます。

私たちを構成するアイデンティティーはそんな単純なものではないですよね。

人権課題に取り組む際の難しさは、このようなインターセクショナリティをどのように克服するかにあり、これは企業にとっても同様です。「女性活躍」「障害者雇用」「ダイバーシティ&インクルージョン」「LGBTI」「セクハラ・パワハラ対策」など、それぞれの課題にバラバラにアプローチするだけでは、なかなかインパクトは生まれません。

人権リスクをリスト化して対応していく方法は取り組みやすい一方、そういったチェックリストは、人権をカテゴリー化し、単純化し過ぎてしまい、複数の人権リスクが重なる場面であるインターセクショナリティを見過ごしてしまい、表面的な対応に終わってしまう危険が大きいと言えます。

とりわけ同質性が高いとされがちな日本社会で、インターセクショナリティを意識することは非常に重要です。

人種、民族、宗教、文化、セクシュアリティなどにおいてマイノリティの立場にある人たちがマジョリティである人たちとはちがう経験をしていることを心にとめることは、差別の働きを理解して差別をなくす第一歩であると同時に、たとえば女性としての生き方や存在を考える上で、より豊かで多様な可能性を開いてくれることでもあります。

私自身も、日本社会では、マジョリティとしてのアイデンティティが占める割合が強いことを意識するようになりました。私が「女性」として経験したことは、すべての「女性」に当てはまるものではなく、だから、他の社会的要因が加わった経験をしている「女性」の声も聞き、差別をなくすための道を探っていきたいと思っています。

最後に、VOGUE記事中でも紹介されているアメリカの法学博士であるキンバリー・クレンショーのTEDをご紹介します。ぜひこれをきっかけに、身近な例に引き付けて自分自身や周りのインターセクショナリティについて考えてみませんか?

Social Connection for Human Rights/佐藤暁子







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?