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梶原教育長インタビューPart2 ~教育長のキャリアストーリーから見えてくる「弱さ」と「愛」と「信じる」こと~


<前回記事などのご紹介>

梶原教育長のインタビューPart1~「当事者」をこっそり増やす教育長~を読んでいない方は、ぜひ先にこちらをお読みください!

なお、本記事の最後で、梶原教育長にもご登壇いただく予定の、教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム2021年総会(6月13日(日))のご案内もしております。ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。



弱さを見せる教育長

〇(事務局)教育長というとやはり「長」「トップ」というイメージですので、「弱み」を見せるというマネジメントスタイルは、新鮮というか、ちょっと意外に感じました。

◍(梶原教育長)教育長として、弱音を吐く、助けてくださいと言って、一緒にやってもらう、そうして、企画の段階からちゃんと「参加」ではなく「参画」してもらうと、当事者意識を持って、むしろそれぞれが自分たちで考えて、自分たちで動いてくれるようになるのです。こんなありがたいことはありません。笑

○(事務局)本当かなという思いを拭いきれない中、急で申し訳ありませんが、衛藤参事の受け止めを聞いてみたいと思います。

■(衛藤参事)なんとなく来ると思っていました。笑
 私が思うのは、教育長がおっしゃった「弱みを見せる」というのは、弱い振りをするのではなく、本当に「弱み」を見せているというのを隣にいて感じる、ということです。だからこそ、教育長のために一肌脱ごうという気持ちに繋がったり、当事者意識を生んでいくことにつながっていると思っています。
 教育長は演技をしている訳ではなく、本当に困っているのです…!ここは大切なところかと思います。

 私自身過去にも一度、教育長が玖珠中学校の校長時代に、お仕えしたことがあるのですが…当時、コミュニティ・スクールを進めるとき、多くの教職員が反発していました。そのとき、教育長は、理念や目的から「なぜ」これを進める必要があるのか、コミュニティ・スクールを推し進めないと学校がどう困るのか、そしてそうしたことを推し進めるに当たって校長としてどう困っているのかを説明してくださるのです。

 そうすると、これからやろうとしていることが個々人の腑に落ちて、自分事化につながるんだなぁと思っています。

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 ちなみに…最近読んだ本に「自律していない組織はできない理由を並べて、上に指示を求める、例えば学校で言えば教育長に、教育長で言えば文科省に指示を求める」と書いてありました。
 でも、梶原教育長は全くその逆を行ってるんです!私が責任をとる、だから、思い切ってやりなさいと言ってくださる。それは、校長が学校経営をするうえで、1番大きな味方が背中を後押ししてくれている、ということだと思っています。

〇(事務局)弱みを見せる「振り」ではなく、本当の弱さを見せるんですね!

◍(梶原教育長)そうです!本当に弱いから、頼るんです!

〇(事務局)確かに、嘘はみんな見抜きますもんね…!それにしてもすごいです!


こうしたお考えを形作ったキャリアストーリー

○(事務局)お聞きしていると、そういう梶原教育長ってどうやって「できあがった」のか気になります。ここに至るまでの梶原教育長ご自身のご経歴やその時々で感じたことなどを、教育長ご自身のお言葉で語っていただけませんか。

◍(梶原教育長)私は、事務職員として採用されました。ちょっと問題を起こしちゃったりして…笑。1年間で3回転勤したり、仕事をさせてもらえなかったり、色々ありました。
 そこで、仕事を任せてもらえない時期に、子どもたちにサッカーを教えたり野球を教えたりして過ごしていました。そこで、サッカーで独自のルールを作っている子どもたちと過ごして、今後、教育に携わる以上、子どもの視点で考えることを決して忘れてはいけないなぁと思いました。

 次の異動先では、教職員はストライキに参加するのが普通の状態のなかで、でも、教職員以外の農家のひととかはストライキせずに一生懸命働いているのにストライキに参加したら申し訳ないなぁと思って参加しなかったところ、組合除名になるなど色々ありまして…笑
 そうこうしているうちに、上司から県の教育委員会の採用試験を受けないかと言われて、平成元年から大分県の教育委員会でお世話になりました。

◍(梶原教育長)平成10年には、文科省に出向して、定数の仕事をしていました。
 そこで、国は現場の声を聴くように!とよく言われているけれど、逆もまたしかりで地方も、国の潮流を把握して先読みして動くということが重要だと思いました。

<主なご略歴>
平成元年 大分県教育委員会事務局勤務
平成10年 文部省初等中等教育局財務課出向
平成20年 大分県教育庁総務課総務管理監
平成21年 大分県教育庁教育人事課人事管理監
平成23年 大分県玖珠町立玖珠中学校校長
平成25年 大分県教育センター所長
      文部科学省初等中等教育局コミュニティ・スクール推進委員・CSマイスター(現職)
平成27年 全国教育センター所長協議会副会長
平成28年 大分大学COC+推進機構統括コーディネーター
令和2年  玖珠町教育委員会教育長(現職)


人を信頼して、任せる

◍(梶原教育長)それから、大分県教育委員会では、県教育長の秘書を6年していました。ここで、この人のためなら頑張ろうと思える人にお仕えしたこと、その時の上司の姿勢や考え方は、私にとても大きな影響を与えていると思います。

 その時の上司は、自分のことを「信頼している」と明確に言ってくれました。そして、意見を言う機会やどう考えているかを述べる場を与えてくれました。
 自分がこの人のためなら頑張ろうと思える人が、自分を信頼して仕事を任せてくれる、それなら頑張ろうと思うし、その信頼に応えるためにその職を全うしたい、と感じていました。

 一方、気持ちが納得しない仕事は、良くないなぁということも感じました。自分がその立場になったらきちんと、やってくれる人が納得するような仕事の任せ方をしたいと思いました。
 そういうところで、人を「信頼して」「任せる」とはどういうことだろうということを、体で学んだのかもしれません。

〇(事務局)信頼して、任せるですか。

◍(梶原教育長)「信頼関係」を構築するためにも、担当者への気遣いなど、人の苦労が分かること、相手の視点で物事を見られることはとても大切なことだと思います。人それぞれ考え方が違う、自分の物差しで考えて動いてはだめで、相手には相手の物差しや立場があるからこそ、それをしっかり意識しながらやらないといけないなぁと思っています。
 そしてその「信頼関係」があるからこそ、私は弱音を吐けるし、「皆さん助けてください」と教育長Give up宣言ができるのです。

 そうして、「教育長を助けてやろう!」「必要とされている!」「自分たちは頼りにされている!」と感じてくださり、それぞれの物差し、それぞれの立場で、それぞれの視点で一緒に考えてくださる人が増えていくのだと思っています。人間と人間の付き合いをして、本音で話し合う、本気で付き合う、「愛」ですね

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■(衛藤参事)教育長は人と人とをつなぐスペシャリストでもあります!
 私自身も、教育長の部下として、頼られたら嬉しいですし、一肌脱ぎたいと思います。それはいま聞くと、こういうキャリアストーリーに裏打ちされた、教育長のお考えなんだなぁと感じました。

◍(梶原教育長)そのあと、機構改革などの仕事もしました。「組織」の在り方を考えた時に、それぞれの人の「いいところ」を引き出すのが組織だと思います。教育センターに勤務したときも、それぞれの人の「いいところ」にフォーカスすることが、組織としても効果的だなぁと思いました。
 教育センターに勤務していたときは、いろんな人を講師として呼んだりもしました。それぞれ、人生の生き方に対するメッセージや哲学を持ったひとたちなので、そうした人たちとの対話から、自分を俯瞰したりしながら、人生一生勉強しなきゃいかん!と思ってやってきています


鳥の目・虫の目・魚の目

○(事務局)今の教育長を形作っているものが、少しずつ見えてきたように感じています。僭越ですが、人として、社会人の先輩として見習いたいと心から思いました。
 教育長のお考えに触れたとき、ここまでいくつか登場してきた「視点」の持ち方も印象的ですね。

●(梶原教育長)私は、「鳥の目・虫の目・魚の目」の「3つの目」を大切にしています。この3つの大切さは、玖珠中学校の校長時代に感じました。

 例えば、コミュニティ・スクール導入するときに、学校の立場で説明しても、一方通行な伝達で終わってしまいます。実際私自身も、自分たちの物差し、自分たちの目線でトライして、失敗してしまいました。
 そうではなく、相手が何を考えているか、地域が何を考えているか、を踏まえた、双方向の意見交換が必要です。それを通じてみんなが「当事者」になるからです。
 では、どうやったら双方向の意見交換ができるかを考えたとき、大切なのは「鳥の目」だと思います。いろんな目を持っていろんな視点で見ることが大切です。
 子供たちは学校の中にいるだけではなく、いずれ社会の中で生きるひとになる、だからこそ、その子供たちのためにも「鳥の目」を身に付けることが必要だと考えています。

○(事務局)なるほど、俯瞰した多角的な視点が「鳥」なのですね。

◍(梶原教育長)それと同時に、「虫の目」も持たないといけません。
 例えば、地域の人に漠然とした必要性を述べても、なんでその実践をするのかを納得いただくことはできません。人に納得してもらうためには、アンケートや数字などのエビデンスとともに、説明することが必要です。あわせて、数字は表面的だからこそ、数字の裏に何があるかを把握するリサーチ、PDCAの前段階の「R」をしっかり分析することも大事だと思っています。
 虫は触覚で甘いところを把握している、自分たちもきちんと情報を集めて、把握するために、触角を立てないといけないですね。

○(事務局)マクロな「鳥」に対して、ミクロの「虫」ということですね。

●(梶原教育長)そうです。最後の「魚の目」、これは、時代の流れ、潮流です。
 例えば、ICT教育も、いままでは川がゆっくりだったかもしれないけれど、昨年から激流になりました。どういう手段を打たないと川を登っていけないか、鯉が上流に上っていくように、どういう流れが来ているのかを五感を通じて把握することが大切です。
 そういう意味では、ICT機器も良いけれど、におい、風、温度を感じないICT機器に頼り切るのではなく、実体験、五感を通じた体感、体験が必要だとも思っています。

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※集合写真をパチリ


現場の教職員へのメッセージ

〇(事務局)それでは、そろそろ予定された時間も終わりに近づいてきましたので、ぜひ最後に、これから、将来を担う、現場の教職員に何かメッセージをいただけますでしょうか。

◍(梶原教育長)きちんと「教育をする」という本務をしっかりやる、それが1番です!
 教師は、本来、弁護士・医師と並んだ国家資格で、人の一生を左右する大事な仕事です。教師をもう一度元気にしたい、誇りある職業、やりがいが伝わる職業にしていきましょう。教師復興です!
 校長は、教師がやりがいを持てるように全力でサポート、マネジメントすることが必要です。そして、どんな時も、当事者として、子どもの視点で考えること、です。

〇(事務局)教育長は事務職員採用としてキャリアをスタートさせておられますが、現役の事務職員の方へのエールはありますか。

◍(梶原教育長)事務職員は、学校経営の役割、会社でいうと総務部長の役割を担う職です。いわゆる普通の「事務」ではなく、教育の視点を持つ事務だからこそ「学校事務」と呼んでいるのです。

 だからこそ、学校経営に企画段階からどんどん参画していってほしいです。
 例えば、イギリスにはフェデレーション(※)という仕組みがありますが、日本にも、いくつかの学校が連携し、小規模校でできないことを補うためのセンター的機能を持つ事務職員がいます。
(※注)フェデレーションとは、イギリスの制度で、複数の学校がフェデレーション(Federation、連合)し、 教育課程の編成や教員の配置などを連携して行う仕組みです。

 コミュニティ・スクールの運営についても、地域との関係性の構築やコーディネートにおいて重要な役割を果たすことができるのが事務職員です。地域との接点が一番多い事務職員こそ、一番地域に出ていく、そして、総務部長的な視点で、積極的に学校経営に参画し校長に提案していってほしいと思います。


すべては「愛」!

〇(事務局)ここまでお話をお聴きしていると、玖珠町のGIGAスクール構想がここまで一気に進んだのは、教育長の経営センス・総務センスがあったからじゃないかと思います(※詳細は前回記事参照)。教育長のこれまでの全てのご経験がつながっていまを形作っていると感じます。

◍(梶原教育長)これからICT全盛期の時代が来ます。その意味で玖珠町のGIGAスクールの船出が順調であったことはうれしいことです。
 でも、一番大事なのは、ICTそのものではなく、日本の素晴らしい自然、歴史など、五感で感じられるものだとも思っています。
 ICTでできることはどんどん増えるかもしれないけれど、自分の目で見ること、自分の耳で聞くこと、自分の手で触ること…そういうことこそが「学び」に繋がるし、私たちの考えやキャリアを形作るのに重要だと感じています。
 そして、そうした体験としての「人間と人間とのつながり」が何よりも大切です。私自身、人と人とのつながりがあったからこそいまがあり、いまの自分がいますすべては「愛」です!

〇(事務局)すべては「愛」ですか!確かに、教育長には、関係者すべての人への、そして、地域やその地域の背景にある歴史などすべてのものへの「愛」があると感じます。
 最後に、僭越ながら…教育長・校長プラットフォームにメッセージやエールをいただけますでしょうか。

◍(梶原教育長)先が読めない激動の世の中だからこそ、こういう場に参画して意見交換をすると、日頃悩んでいる教育長・校長もひとりじゃない、と感じることができるし、自分たちの地域に応じた実践のヒントを得られると思うので、とても良い取組だと思いました。
 いろんな人の意見を聴きながら、自分を磨くチャンスだとも思うので、6月13日の総会を楽しみにしています!
 事務局の皆さん、ぜひいつか玖珠町に来てくださいね…!とても、いいところです!

<編集後記>
 2回の連載をお読みいただいた皆様、ありがとうございました!
 梶原教育長にインタビューさせていただき印象的だったことは、画面越しにも衛藤参事や(画面には映っていないですが)zoomインタビューをサポートくださっている職員との良い関係性が、自然と伝わってくることでした。「教育長のリーダーシップ」というと、どうしても強力な指導力やカリスマ性というものをイメージしがちですが、「弱み」を見せることで組織全体の当事者性を育み、結果として組織力を強化する、こんなリーダーシップの在り方もあるんだと大いに勉強になりました。

 梶原教育長にもっとお話を聞いてみたい!という方、ぜひ2021年6月13日(日)に行われる、教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム2021年総会に参加しませんか。梶原教育長も、田んぼの水路の草刈りを午前中に早めに終えて、ご参加くださいます!
 そして、2021年総会本番までの間、梶原教育長への質問こちらから受け付けます。総会当日は、本記事の内容の説明は極力省き、お読みいただいた前提で対話を行う「反転学習」型に本プラットフォームとして初めて挑戦しますのでご期待ください!
※2021年総会の詳細やお申込み方法はこちらから


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