短歌連作,「白花黄変」

縁戚の便りが届く――、蔓花の蔓縺れつつ憎々し日本

画家は絵へみづからを画き終夜近づきて来し火砲の音は

隣国の火災の噂――、さし迫る復興へ並べる倉庫

製粉所からつづく精肉室と醸造槽へかかる等高線

知恵の輪のほぐれゆく夜ならむ――、近隣の町へたてつづけの革命

大砲ののどかなひびき葡萄麺麭広告紙につつみつつ夏至 

戦争画ばかり掲げてある寝室の牀上の種無蜜柑

家あらばふとも偲ばゆ藁婚のをとこ軍へ憬るる 後知らず

ユダの花袈裟ごろもへと散りぼふと曰福音記者聖路加が辞に

後ろ手に手枷繋がりはじめて輝けるイエス ひとの仔ならむ

  

終戦と開戦までのつつがなき平和に響く鼓笛楽団

軍楽隊切れ切れと漏れ聴こゆ寝室録音盤始まりて畢ぬ

蓄音機廻れよまはれ針もどす手指に欠けし拇の節

属国とくちにせずなりき叔父の蒐集の家ひるがへる海兵隊旗

フィジー産珊瑚を玉と磨きをるくちびるさむし島国の民謡

火薬庫に迫る寺院の影直射日光に炙られゐて終戦忌

火の色の鷲の剥製――、鉄砲百合あおむきながらかかへて兵士

自衛隊全滅すべし暗緑の底翳のひとみ零りぬ沖津へ

太平洋不沈空母の泛びゐむ点々と領有に染まりて

隣人を愛さば 白昼の影ゆ冷たき水道管の曲りゐし町

  

青春の挫折のわかものの緋の下半身夢殿を出でいづこの闇へ

国家とは何なる 藤蔓しがらみの搦め取るまで呪はしき芥

鉄錆の泛ぶ鞦韆赤く塗る公園に浮かさる夏の旱は

いくさ始らば夏草いきれ噎せかへるまで占領地楯と殉ずに

潮騒に国営放送局みちて征かば水漬く勲等ならべ日章

煮え滾る薬缶かなしき兵廠の進みゆく建築工程の図面室 

鉄道に運ばれてゆく兵士、乾麺麭、土嚢、アメリカほどの蝶の夢

前線地のいづれもむかしならず黍悉くは黒変の黴を点しき

薔薇色の膝剥き出しに皇太子殿下幼少写真に零る火のごとく雹

内親王航海記に玉藻のかづら沖津へゆらめくいくさ場跡に

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