聖母告知図

瑪瑙質の海岸線をたどると、一面は海芋の園であった、
慈善修道院の窓の影には、白鳩と駁鳩の巣が吊り下がっている、
記憶の鏡には何時でも、――木と紙からなる模型飛行船の吊糸のような――、蜘蛛の経糸が一筋の罅をくきやかにも輝かしめ、
遮断された上半身を袈裟懸けに縫綴じているのであったが、
粘膜質の昼の日射は、壁掛時計の影を一層にも色濃く縁取りながらも、
その一室に、非在の主人そして賓客を、より明瞭に――空瓶の橄欖花の様に――神神、また人人の喧噪の埒外に擱き、
一幅の精密画の空瓶の底、また底の光輪の轍へと反射しているのであった、
正餐室には黒い煤の告知図が、漆喰の壁へと留まり、掠れた聖母画の咽喉から上は綺麗にも――刎ね落とされたかのように――天井の梁に覆われては、
仰ぐ者たちの視野、或は被写界より隠されているのであったが、
西壁に穿たれた小窓――十字の桟に拠って閉じらているが――よりは黄昏が差し射り、
遠く混声合唱の哀傷曲が、うち揮う指揮長の後背を髣髴と想起せしめながらも、うら悲しくも洩れ聞こえては、切切と、断続的に振れ動いているのであった、

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