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ミドルネーム

以前、皮膚科に行った時、担当医と名前について話したことがあります。

私の担当医は女性で旧姓をミドルネームとして名前に残しています。彼女がPC画面を見ながら私のカルテに何か入力する傍ら「あなたは旧姓を残さなかったの?」と聞くので、「日本ではミドルネームって基本的にないんです。だからピンとこなくて。何よりもドイツの方は日本の名前を聞き取りにくいから、何かあるたびに綴りを説明しなければなりません。それが面倒なので、何かと手間がかかる日本の名前はファーストネームだけに留めておこうと思って」と答えると、担当医は「なるほど、そうね、そうかもしれないわね」と頷いていました。

私のファーストネームは「まゆみ」で、実はこれだけでもドイツではけっこう面倒なことが起こる可能性があります。なぜなら英語の「Y」音はドイツ語の「J」音に当たるからです。すなわち「まゆみ」と聞こえた私の名前を、ドイツの人は「Majumi」と綴る可能性があるのです。そこで、毎回「『ゆ』音は『J(ヨット)』ではなく『Y(イプシロン)』です」と念を押さなければなりません。これを怠け、例えばお役所書類などに誤って「Majumi」と綴られてしまうと、後々本人同定の際かなり面倒なことになります。こんな面倒はファーストネーム一つで充分です。ですから、私はミドルネームとして日本の旧姓を残すこと、ましてや結婚後もドイツ姓ではなく日本姓のみ使用することなど一瞬たりとも考えたことがありませんでした。理由は上述のとおり、後にも先にも「面倒くさいから」の一言に限ります。

先日、とあるPodcastを聴いていたら、欧州に住む女性が、結婚後旧姓使用せず、日本姓も残さず、新姓のみ使用する理由は「現地で就職する時に有利だから」と言っているのを聞き、「ああ、そういうこともあるんだ」と思いました。「人種や出身国による差別はしません」と言っても、当該国出身者と結婚して一緒に暮らしているのなら(外国人が当該国の姓を持つということは、一般的に考えてまずそういう状況を想定すると思います)、当該国の常識や慣習は少しは知っているはず。採用の際、それは何某かの信用とか保障になると見做される可能性があることは、容易に察しがつきました。

かなり年をとってからドイツへ移住した私は、この地で就職することなど全く考えていなかったので(実際、既に充分日本で馬車馬のように働いてきたし)そんなことには全く思い至りませんでしたが、言われてみれば確かにそうかもしれません。この世の中、きれいごとだけでは済まないからです。

私は実用面ばかり考えて使用する姓を決定してしまいましたが、そう考えると移住者にとって結婚後の姓の選択って、場合によっては大きな影響を及ぼすのかもしれません。