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ぼんやりした考えが、ハッキリしだす。絵って『すご技』かもね。

昨年末、ある大学の先生からこんな依頼を頂きました。

「就活に向けてフワフワしだした学生たちに、キャリアについて落ち着いて考える時間を作ってあげたい。手伝ってもらえませんか?」

そこでぼくは、偉そうにも、シナリオ術を使って『自分のあり方を鮮明にする』というキャリアにつながるテーマで、90分の授業をさせてもらいました。

その時の授業で言ったこと、素になった考えをまとめてみました。

20年3月号_東京経済大学

シナリオ・センターは、1970年に優秀なシナリオライター・脚本家、プロデューサー、ディレクターの養成を目的に、新井一が創立。
ジェームス三木さん、内館牧子さん、岡田惠和さんなど600名以上の脚本家、小説家を輩出するの学校です。2020年で50周年!
URL:https://www.scenario.co.jp/

みんな、目の前のことで精一杯

就職活動を目前に控える学生さんにとって、2020年は大変な年だそうです。知ってました?

一つは、夏にオリンピック。各企業の採用時期が前倒しになりそうなのだとか。

さらに、引き続きの売り手市場が、学生さんたちに微妙なプレッシャーになるそうです。
「売り手市場なのに、決まらなかったらどうしよう……」と。

そのため、早めに動きださなきゃいけないけど、いつ、なにを始めたらいいかわからず、腰が落ち着かないのだとか。

なので、当日も学生さんたちに聞いてみました。「就職はどう考えているの?」って。すると、「とりあえず大手を受けて……」とか「早めにインターンシップに行って……」と煮え切らない反応。

キャリアを考える上での問題
自分のあり方がぼんやりしている

学生さんたちの話を聞いていると、どうもわからないのが、2、3年後にどんな顔して、何をしてるのか、という部分。

今回の授業では、学生さんたちに自分がどうありたいのか、を落ち着いて考えてもらう時間にしました。

10歳の男の子のツッコミに、応えていく

キャリアというと、なにかと背伸びをして考えがちです。

なので、まずは学生さんたちに、自分が大切にしていることを振り返ってもらいます。背伸びをせずに!
大切にしていることは、日々の生活の中で大なり小なり行動や考え方にでているものです。なので、普段の自分の言葉で考えてもらいます。
そこで登場するのが、10歳の健太君と対話をするというシナリオの作成。

「いま学んでることがこうで、将来にこう活かしたくて……とか、かっこつけなくていいから、10歳の健太君の親戚のお兄ちゃんになったつもりで、シナリオを書いてみて。
ポイントは、10歳の男の子にわかるようにってとこかな」

最近では、いろいろなところで活用しているこの手法。今回も使います。

学生さんたちは、10歳の健太君からのツッコミに対して応えていきます。
授業の中で、私から「10歳の男の子にわかるように伝えてね」と繰り返しアナウンスします。そのため学生さんたちは、わかりやすい言葉で自分の考えを伝えていきます。

10歳の男の子にわかるように、というのを強調するには訳があります。子どもにもわかるように伝えるには、自分の中ではっきりと言語化できていないといけないからです。
つまり、普段から考えていないことは、シナリオに書けないわけです。背伸びのしようがありません。

なりたい自分を「絵」にする

健太君との対話シナリオをもとに、自分の大切にしていることを抽出していきます。繰り返し出ている言葉を起点に、自分の大切にしているものを言葉にしていきます。

「健太君との会話で、何気に繰り返し出てきた言葉、線引いてみて」

ただ、ここで出てくる言葉というのは、実は抽象的です。例えば「友達を大切にする」や「~について深く学んでいく」など。

すると、学生さんたちは
「なんか、誰でも言えそうなことだな……」
「改めて、自分はつまらないやつだ感じるんですが(笑)」
と早合点してしまいます。

最悪の場合、別の言葉があるはずだ~と、たいてい意味をなさない自分探しの旅に出たりします。自分の外に、答えがあると思ってしまうわけです。

「ありきたりで、大丈夫よ。この抽象的な言葉には、みんな『ならでは』の要素は少ないかもしれない。
でも、出てきた言葉を起点にして、みんな『ならでは』は作れるから」

■絵にする技術としてのシナリオ

抽象的な言葉を、みんなで具体的にしていきます。
具体的にするには、絵にすることです。絵って、めちゃくちゃ具体的。

「たとえば、『幸せそうな恋人同士』って、抽象的。表参道にいっぱいいるよ。でも、その恋人たちがどんな風か、絵にしてみたらいろんなパターンが生まれるでしょ?
手をつないで歩いている、タピオカドリンクを交換しあっている、待ち合わせのとき、笑顔で駆け寄る、イルミネーションで並んで自撮りするとか……」

では、絵にするにはどうすればいいのか。これも簡単。シナリオにすればいいわけです。

そもそもシナリオは、絵=画になることしか書きません。形容詞や副詞など抽象的な表現は一切書かないのがセオリーです。
画になることしか書かないシナリオだからこそ、抽象的な言葉を具体的に表現していくのに適しているのです。

それは、シーンで描くからともいえます。「将来どうなりたいの?」という問いに対して、「自分は大手企業に入って、仕事で成功して、30歳で都内にマンションをかりたい!」という人がいます。目標自体はいいことですが、あまり絵が浮かびません。なぜなら、ああなって、こうなってというストーリーだからです。

ストーリーは、シーンに比べて画になる要素が少ないので、自分のあり方を考えるときには、実は不向きなのです。

シナリオの方が具体的なので、キャリアを考えるのにも向いています。シナリオは小学生から書けるし。

■絵にすることで、過不足に気づく

学生さんたちにも、健太君との対話で見つけたキーワードをもとに、その状況で自分がどんな風にしているのかを、シナリオにして、そのシーンの絵を描いてもらいます。要領としては、絵日記のような感じです。

「絵自体をうまく書く必要はないので、シナリオを書きながら思い描いたシーンを、絵にしてみて。昔やった絵日記みたいなかんじ。
大切なのは、イメージをすること。絵の再現性は問わないから大丈夫よ」

みんな、「やばい、絵心ない(笑)」とかいいながら、友達を大切にしているシーンを描いたり、勉強しているシーンを描いていきます。
やるべきことが具体的に目の前に広がります。

例えば、ある学生さんは、株の勉強をしている自分の姿を描きました。面白いのが、「むずかしいなぁ~」とブツブツいいながら、貧乏ゆすりをしている自分を描いていることです。イライラしながらも、頑張っている様子が伝わってきます。

描いた絵を、学生さん同士で見せ合います。すると、この行動をしている時間帯はいつ頃なのか、その時、どんな表情をしているのかなど、明確になっていない部分に対しての質問があります。

客観的な質問をうけることで、より自分の中のイメージがありありと浮かび上がります。ヌケモレなし!

自分の姿をイメージできているか

私たちは、『言葉』でものごとを考え、理解します。言葉にすることはとても大切なことです。

が!

実は、頭の中で抱いているイメージはぼんやりしていることが多いのです。

「ぼくなんか、朝活するぞ!っていって、かれかこ10年は経つけど、いまだに実現できないもんね。
で、わかったのが「朝活するぞ!」って意気込んでるだけで、抽象的なんだよね。
何時に、何を、どんな顔して朝活してるのか、それがイメージできてなかったから、朝起きれなかったんだって思うもの。
きっと、2020年は朝活できるはず!(笑)

自分の姿がイメージできればできるほど、どうなりたいのか、そのためにやるべきことは何か、わかってきます。

言葉から離れて『絵』にする。これが自分らしく生きるヒント、自分のありたい姿に近づくヒントになるのではないかと思います。

思えば、アルタミラ洞窟の壁画って、願いを感じるよね。

この話のイメージ、湧いた?
お互いがんばろうね!

おしまい。


2020/2/1(土)新宿区の角筈図書館で、似たようなことをやってみたりもします。


企業のあり方を一緒に考える……なんてこともできたりします。


「シナリオってどんなことできんの?」ってかいてあります。どうぞ。↓


シナリオ・センターは『日本中の人にシナリオをかいてもらいたい』と1970年にシナリオ講座を開始。子ども向けキッズシナリオも展開中。アシスト、お願いします!! https://www.scenario.co.jp/project/kids_assist/index.html