「未来社会のデザインと社会的共通資本」内田 由紀子教授 -幸福のかたちは多様であれ。ウェルビーイングと社会の関係性-
気候変動や生態系の喪失、経済格差や分断の広がりなど、現代の社会が直面する様々な課題を解決するにあたり、「社会的共通資本」の考えは多くの手がかりを提供してくれます。そうした社会的共通資本のコンセプトを生かしつつ、私たちが実現していくべき未来社会のデザインあるいはビジョンを、大学の研究者と様々な社会的アクターが連携して考え構想していくことが「未来社会のデザインと社会的共通資本」の趣旨です。
今回は2023年7月7日に「未来社会のデザインと社会的共通資本」に登壇を頂いた、人と社会の未来研究院 院長の内田由紀子教授の記事となります。
幸福のかたちは多様であれ。ウェルビーイングと社会の関係性
経済学者・宇沢弘文氏(1928〜2014年)が提唱した「社会的共通資本」の理念を継承し、わたしたちはどうしたら、豊かな経済生活を営みながらも、文化と共に、人間的で安定した生活を送ることができるのか。そのためにアカデミズムにできることは何か。これからの資本主義のかたちなど、混迷する現代における新たな課題解決を目指して議論を続けています。
今回お話を伺うのは文化心理学・社会心理学の専門家、内田由紀子さんです。文化と心の関係から「幸福」の研究を進める内田さんに、幸福感やウェルビーイングなどについてうかがいました。
2020年に書かれた『これからの幸福について―文化的幸福観のすすめ』では、幸福観に「観」という字を使っていますね。
この書籍の中では観点の「観」にしました。感じる「感」よりも、幸福に対する考え方そのものが、いかに社会的な要素によってつくり出されているのか、そして、私自身が、学生時代からいろいろな比較文化を通して得られた幸福観を示したものです。
私は長い間、国際比較に取り組んでいますが、国だけではなく、企業単位、あるいは地域単位の分析なども研究しているうちに、近年では幸福やウェルビーイングの重要性がさまざまなところで取り上げられるようにもなってきました。私は基本的には基礎研究としてウェルビーイングや幸福をテーマにしておりますが、基礎研究で得られた知見が社会的な実践活動にも繋がってくるようになってきました。
例えば、内閣府で議論された幸福度の問題、あるいは、デジタル庁のデジタル田園都市構想の中で地域指標の作成をしたり、文部科学省の中央教育審議会の中で、教育現場のウェルビーイングについて議論したりもしています。
ウェルビーイングが示すものとは
ウェルビーイングとは基本的に、物差しやコンセプトの一つとなるものです。経済だけではなくて、心の充足、生活への評価、感情、価値、健康まで含めて捉えることができる概念です。
なぜカタカナの言葉を概念にするのか、疑問視されることもあります。個人的にはウェルビーイングを「幸せ」と表現してもいいように思いますが、それは日本語の「幸せ」って、実はとても便利で、そして包括的な言葉だからなのです。しかし「幸せ」は英語に訳すと「ハッピー」、「ハピネス」であり、これは心理学的に言って感情状態のことを指します。感情状態とは、「今あなたは幸せを感じていますか?」といったような瞬間的、あるいはムードに近い感情のことで、もちろん「この一週間、幸せでしたか?」というような問い方もできますが、いずれにしても短期的なもの、そして、個人的でもあります。
対して「ウェルビーイング」は、より包括的で、そして個人だけではなく、個人を取り巻く場所や環境なども含めて考えることができる言葉です。そのため、ウェルビーイングという言葉によって、もっと広い考え方をしましょうと投げかけるような良さがあると思います。
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