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「未来社会のデザインと社会的共通資本」諸富 徹教授

気候変動や生態系の喪失、経済格差や分断の広がりなど、現代の社会が直面する様々な課題を解決するにあたり、「社会的共通資本」の考えは多くの手がかりを提供してくれます。そうした社会的共通資本のコンセプトを生かしつつ、私たちが実現していくべき未来社会のデザインあるいはビジョンを、大学の研究者と様々な社会的アクターが連携して考え構想していくことが「未来社会のデザインと社会的共通資本」の趣旨です。

今回は2023年6月に「未来社会のデザインと社会的共通資本」に登壇を頂いた、京都大学大学院経済学研究科 地球環境学堂の諸富 徹教授の記事となります。

諸富徹 京都大学大学院経済学研究科 地球環境学堂教授
専門は環境経済学、財政学。著書に『思考のフロンティア 環境』『ヒューマニティーズ 経済学』(岩波書店)、『環境税の理論と実際』(有斐閣)、近著に『資本主義の新しい形』(シリーズ現代経済の展望)。

社会的共通資本の概念は、環境と経済のバランスをつくれるか

経済学者・宇沢弘文氏(1928〜2014年)が提唱した概念「社会的共通資本」は、あらゆる人が経済生活を営み、優れた文化と魅力ある社会の安定的な維持を可能にするために整えた自然環境と社会的装置を、社会共通の財産とする考え方です。

しかし宇沢氏は、絶対的な社会的共通資本の定義を実際には提唱してはおらず、ゆえに分野の垣根を超えて引き継がれる指針になりました。現代社会における課題を解決し、持続可能な福祉国家を実現するために活かしたいーー。今回お話を伺うのは、環境経済学の専門家である諸富徹さんです。


まずは環境税の研究で環境経済学に取り組まれた流れについて教えていただけますか。

少し変遷があるんですが、はじまりは大学院生の頃ですね。博士論文が環境税の研究、まさにカーボンプライシングについてでした。1998年、25年前のことです。より広く、持続可能な発展と言われるものについて考えるきっかけになった、わたしにとってはひとつの大きな転機だったと思います。

2004年から2005年はミシガン大学に在外研究として行かせてもらい、その頃から財政学と環境経済学の二足のワラジになっていきました。帰国してからは排出量取引についても取り組み始めました。2008年に洞爺湖サミットもあったので、ちょうど日本の産業界でも経団連や日本政府を含めた議論の機会などがあり、政策課題のメインイシューになり始めた頃です。そうした中でこの頃、財界の方々が環境問題についてどのように感じているのか理解できたことも、大きなきっかけになりました。

その時わかったことは、非常に対立的に考えていた、ということでした。気候変動対策にはとにかくコストが掛かる、産業の足を引っ張るものだと捉えられていたんです。そこで自分なりにいろいろ考えて、気候変動に取り組むことがむしろ産業の発展につながり、経済成長につながるということを主張しよう、と思いました。アメリカではすでにその方向で議論されていましたし、2020年に出した『資本主義の新しい形』でも、資本主義はもはや気候変動に取り組み解決する経済にならないと存続し得ない、と主張しています。

次の大きな転機は2011年の東日本大震災ですね。気候変動の議論に加えて、再生可能エネルギーについても本格的に研究するきっかけになりました。福島での原発事故は非常に衝撃的でしたから。東日本大震災からはすでに10年以上が経ちましたが、工学的に再エネを研究する人はたくさんいるものの、経済学的な視点での研究はまだ少ないと思いますので、今後も研究は続けたいと思っています。

環境税という考え方

まず宇沢先生は、私がいちばん影響を受けた経済学者であることは間違いありません。環境税が世界で初めて実現したのは、1970年のことでした。しかし初めて理論的な基礎が語られたのは1920年、『厚生経済学』という本の中でのことです。書いたのはアーサー・セシル・ピグーという経済学者ですが、この理論が出てから実際に実現するまでに50年、半世紀も掛かったことになります。

私はドイツとオランダで、水の問題として排水課徴金を調べに行ったことがありますが、国によるシステムの違いを痛感しました。ドイツでは純粋に環境経済学の観点から、排水課徴金を導入していたのですが、オランダでは経済学とは全く無関係で、下水道のシステムに下水道料金を徴収する一環として、環境税を取り入れていたんです。環境税とひとことで言っても、ドイツのような純粋なインセンティブ型もあれば、オランダのように財源調達を目的とし、負担を環境汚染への貢献度に応じて割り振る視点を取っている国も多いことがわかりました。

日本には公健法(公害健康被害補償法)といって、公害病患者になられた方々への補償として設けられた基金があります。原資となるお金は汚染物質を排出した企業に、出した量に応じて徴収したお金。つまり事実上、日本における最初の環境税だとみなすことができます。環境税は、OECDの文献でも最も成功した排出課徴金だと言われていますが、財源調達という面での必要性もあるわけです。

では結局のところ、環境税とは何か、と定義するにはどうしたらいいのか。私はこの答えこそ、宇沢先生の社会的共通資本の考え方を用いることで、うまく説明できるんじゃないかと思っています。

※記事全文は以下よりご覧いただけます。



社会的共通資本と未来寄附研究部門の取り組みをご支援いただく窓口として「人と社会の未来研究院基金」を設けています。
特定の一民間企業からの寄附で運営されることが多い通例の寄附講座とは異なり、様々なセクターから参加をいただくことを目指しております。https://sccf.ifohs.kyoto-u.ac.jp/fund/

また、社会的共通資本がなぜ今必要なのか、Beyond Capitalismとして今後どのように社会的共通資本と未来を拡張していくのか、企業に求めることやアカデミアとしてのあり方も再考する各種イベントを実施しております。
https://sccf-kyoto.peatix.com

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