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山手線ゲームプロジェクトの記録

 本稿はRFC(Railway Fan Club)の節目にあたり、メモとして執筆していたものを編集、追記したものである。

1.創世記

1.1.それまでの状況

 2017年の外部出展では線路や電気系統の単純な施エミスが列車運行に大きく影響を与えてしまう結果となった。不具合にはいくつかの要因が考えられ、ハード的な対策は2018年に対象路線を変更したことから老朽化からの改善も見られた。ただし、こういったハード的な対処に大きなリソースを割いている現状があり、特に重要制御系である既製品DCCでは自由度が低いため、カスタマイズが難しいこと、また、電気関係も正常運転を実施することが精一杯であり、DCCに起因する動作不良についてはお手上げということも少なくないという状態であった。なんとか線路給電から脱却したり、オリジナルの制御機器を通じて、せめてステータスを把握したり、それによるモーションをカスタマイズしたり、改善することができるようになるべきではないかと考え始めていた。

1.2.きっかけ その1(エンターテイメントの側面)

 これまでダイヤ運転はあくまでRFC会員が実演を行い、お客様には観覧いただくというスタイルを継続してきた。これまでもダイヤ運転に興味を示してくださるお客様に対して、イベント時に多少の体験をしていただくことはあったものの、再現路線の詳細やRFCオリジナルのオペレーションを十分に理解した上で自律的な運転が可能なため、会員が横について運転操作を変わりに行うという程度のもので自立的に体験いただくにはハードもソフトもルールも対応していなかった。
 ダイヤ運転の楽しさを気軽に体験いただくためにもユーザインターフェースをできるだけ簡単にし、少しのレクチャで自立的かつ、リアリティのある体験設備を作れないものかということを考えていた。

1.3.きっかけ その2(技術的側面)

 ダイヤ運転では時計をPSPやパソコンのモニタに頼っていた。ダイヤ運転は24時間を24分で再現するという独自のレギュレーションはあるものの、Arduinoやラズベリーパイ(ラズパイ)などの小型コンピュータを使いクロック周波数を変更できる変速時計を作成し、駅にある時計を模したダイヤ運転用の時計を作りたいと思ったところから少人数でラズパイの学習をスタートした。
 調べていくとラズパイで鉄道模型の自動運転などを行っている例があり、エッジ処理の端末としては小型で自由度が高いと理解した。
 もうひとつのツールとしてRFIDが挙げられる。RFIDについては世の中で活用が一般的になりつつある状況で、入手性や活用アイディアも多く見られるようになっていた。しかし、Nゲージに搭載できるRFIDはなかなか発見できず、Nゲージの速度でアンテナが検知できるのかも不明であった。

1.4.開発方針

 安定性を確保しながら、お客様に楽しい空間を提供するために開発方針を話し合った。
・DCCに起因するような動作不良はシステムを単純化し、不具合をできるだけ低減する。できるだけメーカ推奨の環境となるように配慮する。
・軌道や電力供給などのハード的な対策はNゲージが小型であるというところに起因する接触不良等の不具合が大きく占めていると推定し、HOゲージという選択肢も含めて検討する。
・ユーザエクスペリエンスを付加するために、ラズパイ等のツールを使ってエッジ型の駅部システムや信号系統に新たな取り組みができないか検討する。
・3Dプリントはこれまでも車両部品等に採用してきたが、量産可能という観点から沿線設備に適用できないか検討する。(停止位置目標や信号機など)
・RFIDについては車両に個別のIDを振ることで車号や列車判別のような使い方ができるようになるため検討を行う。

初期のメモ01
初期のメモ02

1.5.要素検証

 RFIDと車上タグの読み取りについては通過速度耐性と検知性能が実現の肝となることから実証実験を行った。


検証の様子


検証の様子02(RFIDタグリーダ)

1.6.考えをまとめていく

 検討の結果、開発のコンセプトとキーセンテンスは下記のとおりである。
 ①体験型ダイヤ運転の実現
 ②小型コンピュータによるエッジ処理とRFIDによる列車位置検知
 ③HOゲージによる安定度
 ①を実現することが最終的な目標となったが、インスピレーションは倍速時計や3Dプリントを使った停止位置目標、信号機のフレーム程度の再現であった。信号機は実用性を取ると小型化が難しく、テストプリントしたものが偶然HO向けのようなサイズとなったが、これらのセンテンスが融合していくなかで、サイズはHOでわかりやすい看板や信号類を実現し、②や③を組み合わせることで、なんとなく体験運転が成立しそうな気がしてきたところであった。
 表示機類は設置しても トリガを人に頼るなど、雰囲気重視のものが多かった。列車の位置などの情報から自動的にシステムが動作し、タスクに人が介在して、運行を進めていくマンマシンを製作すれば、例え路線が単純であっても十分に楽しめるのではないかと考えた。
 以上のように、ダイヤ運転においては路線選定が最も大きなファクタであると考えられるが、体験運転を考えていくなかではアプローチ方法は異なるものとして取り組んだ。

2.山手線ゲーム1st

2.1.路線の選定

 前章の最後で記した通りのコンセプトと可能性をマッチングさせる。
・路線が単純 (追い越しがない)
・運用効率が高い (キャパシティを確保できる)
・認知度が高い
・HO車両を比較的安価、容易に手に入れられる
 これらの条件から「山手線」に至った。山手線は日本の代表路線であり、HO車両はTOMIXのE231系がプラ製品で出ていたことからオークション等で入手することができた。また、首都圏JRの最新の設備が入る路線であり、技術的な目標も高く設定できる。さらに周回路線ということもあり、体験効率を上げられると考えた。

2.2.メンバの選出

 開発期間は1年後のJAMとして、プロジェクトを推進するためにメンバ選出を行った。選定の主な軸は下記のとおり。
・プロジェクトに建設的な意見をし、最適解を見つけられる
・コードを書くことができるなどの専門スキルを持つ
・知識のほか必要な経験値が相当に高い
・若年だが自律的でやる気がある
 中盤からはオペレーションに関する検討ができる人、デザイン、装飾ができる人を招きいれた。これらの条件から最終的に14名でプロジェクトを進めた。なお、メンバ間のやり取りは当時、RFCのコミュニケーションツールとしてデファクトスタンダードになりつつあったワークスペースを活用した。また後段ではGitHubなどのツールも利用している。

2.3.DCCシステム

 構想段階では、車両制御をオリジナルのラジコン化していくことがシステムの尤度をもたせられることから、タスクとして存在していたが、安定度について、2019年の国際鉄道模型コンベンション(以下:JAM)時点ではブラッシュアップの余地を残していたため、まずはDCCシステムを利用することとした。
 システム構成は既存のものであり、特筆することはないが、在線編成数、良好な集電環境などから、コマンドステーションがエラーを示すことはなく、HOゲージの環境のよさを実感した。スロットルは無線を基本としたが、有線接続用のスロットルの口を予備として配置した。

2.4.車両の調達

 TOMIXのプラ製HOゲージ E231系500番代を利用した。DCC化にあたり、集電配線系統とモータへの配線を分け、その間にモレックスの4ピンプラグを挿入する構成はNゲージ同様である。最初に1編成を試験施行し、良好であることから、他の編成に展開した。なお、動力用コンデンサの撤去、ヘッドライト、テールライトはファンクションデコーダを挿入した。
 編成番号は製品に含まれるインレタの番号をそれぞれに割り振り、デコーダ番号も4桁化した。しかし、実際には2桁で十分管理できたため、下2桁を用いて管理した。
 JAM会期となる2019年8月時点で実物の山手線は半数以上がE235系に置き換わっていたため、E231系500番代の中間車から1本を簡易的にE235系に改造した。種車はサハE231-4600を2両、先頭車化し、前面FRPと乗務員扉部分、第1編成で注目を浴びたモニタリング装置を3Dプリンタのアクリル出力サービスで再現し、特注のインレタと塗装により再現した。これにより、E231系で統一されてきた路線イメージにアクセントを加えることが出来た。


E235系製作過程その1 2019年7月
E235系製作過程その2 2019年8月

 また、旧来形式をラインナップすることも検討し、アクラス製の205系プラキットを日光台車、エンドウのパワトラで製作した。動力車をクモハとして、ウソ電の様相を醸し出し、サハ205はボディこそ205系だが、塗装はE235系カラーにするなど、遊び心を取り入れて、ゲーム性に花を添えていた。

山手線ゲーム車両ラインナップ
サハ205

 編成数は計画時点で1周の駅数4に対して、デットロックしない3編成を基準とし、内外周予備の1本を含めた7編成を目標にしたが、前述の205系、E235系に加えてE231系も多く集まり、線路容量をオーバするほどの予備車に恵まれた。

2.5.車上RFID

 RFIDは円形で直径が30mm程度あるため、車両限界を超える可能性があり、1枚をテスト的に解体し、構造を理解した上で、ライトで透かしてコイルの位置を確認しつつ、車両幅に収まるようカットした。また、床下機器と同じジャーマングレーで塗装している(205系は黒)その後、クハE230-500(品川駅基準で新宿寄り)に両面テープで貼り付けている。 

RFIDタグの解体確認の様子

2.6.再現機器

 ダイヤ運転を行うに当たっては線路、車両、DCC機器、時計があれば最低限成立するが、それだけではお客様が淡々と運転をこなすだけになってしまう。そこで、通常のダイヤ運転でも実施している「イベント(アクシデント)」を設定した。また、お客様にイベント発生を楽しんでいただくためには、ある程度の仕掛けが必要であると考えた。
 列車を走らせることはそこまで難しくないことから、運転士の操作だけではなく、駅での取扱いとして車掌の操作を実施してもらうことでリアリティを感じてもらいつつ、時間軸のなかでダイヤどおりに走らせる体験をしてもらうこととした。
 駅に接近するとRFIDタグを読み、接近放送が流れる。駅モニタは閉じたドア(側開戸)が映し出され、駅に到着した体験者(お客様)がドアの開動作、スタフと時計で時間照合、レピータによる進路開通、発車ベル、戸ジメ操作を行う。
 なお、上級では扉を閉める際にランダムでイベントが発生するようになっており、ドアに物が挟まれたなどのコメントが表示されたあと、再閉扉するという流れでダイヤ通りの運行を阻害する仕組みである。遅延を回復するには個々の作業を確実かつ速やかに実施する必要があり、このフルメニューをこなすのは上級、イベントをなくしたメニューを中級、時間の概念をなくしたものを初級として設定した。
 これがゲームと名付けた所以になっている。
 実際にやってみてわかったことだが、親子や2名の兄弟が運転士と車掌に分かれて操作するという体験シーンもあった。 

2.7.駅やぐらと駅スイッチボード

 各駅の内外回りとホームをまたぐ形で設置された自立する木製のフレームにし、出発時期表示機、レピータ、非常停止ボタンを配置し、駅やぐらと名付けた。
 駅スイッチボードは発車ベルとドアスイッチを配置した。ドアスイッチは開ボタンのみを配置した(閉めるのは発車ベルOFFと連動していた)。ボードにL金具をつけてシャコマンで机に固定した。

2.8.駅制御ボード

 駅の制御に必要となるラズパイや各種電源等について配置を簡略化、設置速度を向上させるため、金網に機器をタイラップで固定した。これを机の内周にぶら下げる形とした。 

駅設備の構成
中央が駅やぐら、上方が駅制御ボード、下方が駅スイッチボード
本番の敷設状況
駅やぐらの後方に駅モニタを配置

2.9.駅モニタ

 駅モニタは時計と内外回りのドア1枚分を半分ずつ表示しており、それぞれの操作に合わせてパワーポイントで作成した開閉アニメーションを表示した。 

2.10.やぐら

 ブース中央にはやぐらを設置し、無線機器類のアンテナと照明、山手線オリジナルデザインの看板、放送機器、情報用モニタを設置した。情報用モニタには車内のドア上部のモニタをイメージしたカバーを取付、山手線ゲームの概要の他、次回整理券配布の時間や注意事項等を表示していた。 

やぐらと看板
情報用モニタ

2.11.線路の調達

 所有していたKATOユニトラックHO線路で十分再現可能な大きさで検討した。そのため、車止めや脱線復旧用の踏切線路などを少量購入する程度で済んだ。JAM2019では軌道回路は実装しなかったが、将来的に軌道を区切るための絶縁ジョイナーを組み込んでいった場合を想定して、フィーダ線路を増備した。 

2.12.RFID線路

 RFIDのタグリーダを線路下に格納するために、フィーダ線路の道床部分を一部を切り欠いて、線路下部にリーダを取り付けた。サイズの都合、直角にはみ出す形となった。複線DCCでは内外回りの給電極性を合わせる必要があるが、リーダのコネクタが大きくはみ出すため、内回り用と外回り用をそれぞれ準備する必要があった。 

フィーダ+RFIDタグ線路表
フィーダ+RFIDタグ線路裏

2.13.ブース設計

ブース設計には3D-CADを利用し、予め成立性をミリ単位で確認している。

ブース設計最終版(2019年6月)

2.14.機器接続図

 機器接続が複雑化したため、メンバー内の情報共有と頭の整理として、機器接続図を作成した。

機器結線図(集中機器と1駅分)

3.山手線ゲーム1st出展フェーズ

3.1.JAM(国際鉄道模型コンベンション)

 どんなによいアプローチやシステムを作り上げても稼働しなければ意味がない。多数のお客様が体験いただける場として2014年まで出展していた国際鉄道模型コンベンションへの出展再開を考えた。鉄道にある程度精通したお客様の参加を見込み、最適であると判断した。 

3.2.事務局対応

 コストミニマムかつ、最大のパフォーマンスを目的に、JAM事務局(Models IMON)ヘコンセプトの説明を行うなどのアプローチを行った。幸いご理解を頂き、スムーズに話し合いをすることができた。また、会場配置においても丁寧な調整をいただくことができた。

3.3.広報活動

 システムの完成度については不安もあったため、大々的なアピールは控えるようにした。
 広告としては実施内容が固まった段階でRFC広報を通じてアナウンスしてもらう計画とした。実際には1か月前のプレ運転会において開示し、Twitter(現:X)を通じて告知した。また、JAMの ホームページでもアナウンスがされていた。 

3.4.費用の分担

 総費用が どの程度なるか想定できなかったため、メンバで分担しながら資材、部品の購買をおこなった。車両を先行 して入手したことは、プロジェクトを完遂させるための「覚悟」となり、よい効果となった。
 最終的には会場費を含めて相当の費用がかかっている。すべて会員の努力で成立した点はコンセプトとそれに共感を呼んだ結束力の高さを示していると考えている。 

3.5.プレフラ会とプレ運転会

 毎月最終金曜日にラズパイ利用のコーディングができるようにPythonの勉強会を始めた。プレミアムフライデーという言葉はすでに形骸化しつつあったが、本プロジェクトではプレフラに会合を持ち、進捗管理と課題の共有を行った。学生参加やメンバの集まりやすさなどを鑑みて、会場を決めていった。時には23時頃まで行うこともあったが、定例的に集まるということがプロジェクトを進捗した。

プレ運転会の様子1(2019年5月)
プレ運転会の様子2(2019年5月)

 2018年12月に線路と車両を走らせたのを皮切りに5月にプレ1、7月にプレ2、プレ3を開催した。
 マイルストーンとしては5月の時点でハードの完成、6月中にソフトの完成、7月にゲストを呼んでプレ体験会を実施する見込みであったが、ハードもソフトも7月に1駅分も完成していない状況であり、体験会も実施こそしたが、のちの初級にあたるような簡単なものであった。なお、被験者は10代、30代、50代であった。 

プレ運転会の様子3(2019年7月)
プレ運転会の様子4(2019年7月)

3.6.山手線ゲームとしての統一したデザイン

 山手線ゲームはこれまでにはない体験という新規性を全面にアピールしたいということから、はっきりとしたコンセプトを装飾類のデザインに織り込みたいと考えていた。E235系で山手線車両としてのデザインを大きく打ち出してきたのにインスピレーションを得て、やぐらを設置するにあたり、通例であればRFCロゴの看板を設置するが、山手線ゲームを大きく描き、ロゴは小さく入れるというトーンとした。また、ブースの入り口や案内表記類、線路の際にもデザインを入れた。

駅名看板(東京)
駅名看板(大崎)
やぐら看板デザイン

3.7.オペレーションの検討

3.7.1.体験時間
 1名あたりの体験時間は7月のプレのチェックで1周あたり、4~5分であることがわかった。このときはイベントによる遅延を含めた検証ができなかったが、発生するアクシデントの拘束時間を10秒~30秒とすることで大幅な時間増にはならないと予測した。そのため、5分の説明時間と10分の体験時間でインターバルは15分ということとした。なお、説明は一括して実施し、体験は一定間隔をおいて出発するというロジックとした。

3.7.2.操作説明と伴走
 体験集合時間になると体験者6名に対して冊子を配り、説明者が説明を行う。その後、個々にスタフと配り、出発駅である大崎か池袋へ移動する。そこに駅担当者であるRFC会員が待っており、操作を説明しながら、出発していくという流れである。次の駅にも駅担当者が立っている。 

運転マニュアル(初級)
スタフの例

3.7.3.体験レベル
 来場者の体験可能レベルが異なる可能性が高く、ゲーム性を出していくためにも階段設定をすることとした。3段階とし、初級、中級、上級でステップアップのために中級は初級を、上級は中級を体験していないとエントリできない仕組みとした。また、体験したかどうかは整理券裏の受付印を体験出発時に押し、整理券配布時にそれを確認する仕組みとした。 

3.7.4.待機列か、整理券か
 体験いただくお客様が相当数いらっしゃることを鑑みて、待機列か整理券かを検討した。
 本体験が人気を博し、大量の体験数をさばこうとした際には待機列とし、大崎駅で順繰り交代していくことも考えたが、体験者数が少なくなった際、余剰編成の回しなど考えた場合が複雑となるため、整理券制として体験人数を把握する仕組みとした。
 待機列エリアを作ることは会場の通路幅の都合、難しいことのバイアスとしてあった。結果として、整理券を求めるため、列は形成されてしまっていた。
 本ブースエリアを明確にするため、パーテーションポールとプラチェーン(緑)を手配した。また、出入り口を形成し、入れ替え制のメリーゴーランド方式とし、体験いただくお客様の導線を決めた上でブース配置に織り込んだ。
 国際鉄道模型コンベンションの来場者のゾーンとして、30歳代以上の男性、子連れの家族が多い。しかしながら、ダイヤ運転は大きな偏りは感じられず、来場者の若い世代についても惹きつけていると考えられる。体験の内容から想定するに、親子来場者の子供世代がやってみたいと感じる内容を想定し、体験を単独で実施可能な年齢として、小学4年生(10歳以上)とした。それ以下は説明および説明書の読解能力、ゲームの遂行上、保護者がついて実施しないと難しいであろうと判断した。
 実施結果からすると、想定年齢はほぼ当たっており、親子による体験が圧倒的に多かった。また、年齢が低くても1度体験すれば2回目からは単独で遂行可能な場合が多かった。
 初級の設定回数が多かったが、それでも何度も初級を体験する方も多かった。

整理券のデザイン

 整理券にしたことにより、整理券配布前の列は20名程度まで長くなり、ブースの2面に渡って、およそ30分程度お待ちいただく結果となった。また、2日目以降は待機している方の数と、配布数がつりあった時点で配布することで、配布待ちの待機時間を極力解消し、他のブースをご覧いただく時間に当ててもらうのと同時に、待機列で隠れてしまっていたRFCブースの外周をできるだけ多くの方にご覧いただけるように開放できるよう努めた。
 整理券の待機列は子供も入り乱れる状態である、整理券ではなく待機を選択していた場合には長時間の待合となることも考えられたことから、整理券制を採用し、現場の混乱を最小限に止め、周辺ブースへの影響を抑えられることができ正解であった。
 また、できるだけ多くの方に体験をいただくということを念頭に置いていたため、連続して体験を希望される方やグループでの体験についてはお声をかけ、特にグループの方については2周の体験を2名でシェアいただくなどの配慮をお願いした。

人員配置と待機列の検討図
当日の体験時間案内の例

3.7.5.DCCスロットルの操作
 運転にあたりDCCスロットルを使用した。できるだけ簡単に操作できるようUT4DJを利用いただくことで操作説明を最低限にしたかったが、6運用に対して5台のUT4DJしか所有しておらず、体験中に2台が不具合に陥るなどの状況となったため、DT402DJやDT500を投入した。体験いただいた年少者の中にはスロットルを力いっぱい操作する方もおり、スピードつまみの止めねじがダメになってしまうことも発生した。スロットルの予備確保や扱いに関する説明は繰り返しする必要があったという反省点である。
 特にDT400系で操作した場合にはツマミに終わりがないため、画面を見ない操作では自分の車両の状態を把握しにくい(ex:ひねっているのに止まらない→ひねりが足りない)や、操作の必要のないボタンを不意にさわってしまう、過走した場合の停止位置修正時にボタンがわかりにくいなどのアクシデントがあった。
 列車同時の衝突はほぼなかったが、スピード出しすぎによる停止不良、DT400系の操作不良によるアクシデントは何件が見られた。係員が付いているため、無理な操作をしようとする方は少なかったが、一部例外もあった。
 最初の1区間を走って勘所がわかると、あとはスムーズに走らせられる方が多いという印象であった。ただし、駅間を飛ばしすぎるのも、遅すぎるもの問題となった。特に遅すぎると、次列車へ遅延が影響し、時間内に終了できないということもあり、速度の概念を入れて、目標速度までは出してもらうことが必要であると理解した。
 前列車に近づくと原則して少し前で待つということについては、ラッシュ時の運転に近く、アナログ線では実現できないDCC特有のものであり、体験者が「駅の前で止まらないギリギリの速度を保つ、この運転操作が楽しい、リアルである」と感じてもらえたことは新たな発見であった。 

3.8.コスト関係

 パンチカーペットの色を選ぶ都合、RFC側で調達することとし、結果的にコストダウンにつながった。
 やぐらのライト用アームは切り出しステンレス配管を購入する予定であったが、物干し竿を使うことで半減させることができた。
 ポジティブなコストアップとして、説明用の冊子は上質厚紙を使うことで耐久性を採り、使い捨てではなく、繰り返しの利用が可能となった。 

3.9.JAM2019の実施結果

 JAMの直前では会員宅のリビングで1週間、泊り込みの最終調整を行い、準備日前日にハードが完成、ソフトは上級が完成したのは、上級モードを午後に設定した2日目の午前中であった。
 設定した整理券の消化率は100%であり、300名を超えるお客様に体験いただいた。お客様によっては体験したいのに諦めてもらわなくてはならない状態であった。
 世の中にないものを出せたという達成感に浸る一方、RFCでは通例的に行われてきたJAMの会期2日目に翌年のJAMテーマ路線アイディア出しをしていた(現在は全体会議で採決)ように、次回はどうするかを考え始めていた。会期最終日にはすでに3rdにつながる内容のメモが残されており、課題に対するアジャイルな動きがこの山手線ゲームを強くしてきたと考えている。

4.山手線ゲーム2nd

4.1.次期システムの開発

 JAM2019を終えて次のステップを開始した。山手線は1st、2ndと開発コードで呼ばれるようになった。
 メンバはコア技術を支えるソフトウェア系のメンバを養成しながらアサインしていく形で加わり、開発の練度が高まった。当初計画にあったが、1stでは達し得なかったことと、新たにやりたいことを加味していくなかで、コロナ禍に突入した。身動きが取りにくい時間が経過するなかでも定期的にオンライン、ときにはオンサイトで意見を交わしたり、作業を行ったりした。
方向性として、いくつかの案が挙がったが、下記の2つの案が有力であった。
①山手線ゲーム2ndとして、1stのブラッシュアップ版を実施する
②車両を収集し易いプラレールに変えて、中央快速線等の別路線を実施する

 ②を実現するにあたり、プラレールのボディとHOの台車を融合したシャーシを3Dプリンタで試作し、テストをおこなった。また、後述の専用デコーダ、スマホ充電用バッテリの搭載により、ラジコン化を達成している。
 JAMが2022年より再開することが決まり出展に対する本格的な検討を開始した。2021年7月の時点では①を2022年の2月にホビーセンターカトー東京店で、②を2022年8月に国際鉄道模型コンベンションへ出展するように計画していたが、ソフトとして折返しや追い越しの機能実装や、ハードとして駅やぐらの改造、車両調達と改造などの課題を解決できるペースでは進められず、2022年のJAMへの出展内容を最終的に決めるに当たっては、①の山手線ゲーム2ndとして決定した。
 開発の主眼として下記をレギュレーションに加えて進めることとした。
新システムによる車両操作
規模拡大4駅→6駅化による体験人数増(体験周回2周を1周化)
渋谷工事を再現した折返し機能の実装(中央線につながる先行開発) 

4.2具体的なステップ(フェーズ2019〜2020)

・ラズパイZeroのHO車両搭載
 スマホWi-Fiによる車両速度制御とGUI
・速度概念の基礎検討
STEP01
A:ハード
 ラズパイZero+モータドライブ+モータ+バッテリとスマホ上で動作するスライドゲージコントローラ(GUIまで)
・数セット製作し動作安定性の確認 干渉有無(複数列車をエンドレスでパターンに沿って発着を繰り返す)
・バッテリとラズパイZeroの電力消費、バッテリを走行用と制御用で共用可能か?バッテリの残量を計測し、スマホヘのフィードバックできるかを確認する。
 モータ回転方向の選択
 モータの電流量や回転数を検知して、モータが編成内に複数台ある場合の同調について検討する。
・ラズパイの放熱対策と効果の検証
B:ソフト
 ビットの使い方、パケットの内容精査、拡張性の検討を行う。

STEP02
・スマホコントローラの作りこみ。
 モータ電圧リミッタ(最高速度制限)
 蛇行時は走行抵抗によってわずかに減速する(スライドゲージモードの場合はOFF)
 加減速パラメータ機能と設定値検証(ノッチ、ブレーキの段数も変更できるように)
・前照灯口尾灯ファンクションのハード製作(無線ユニットと電源(電池?))と検証

STEP03
・地上連動
 列車番号による自動進路構成
 列車番号とスマホスタフとの連動
・カメラ検証
・自動運転列車の設定(ダミー列車)

STEP04
・運転支援(保安)の検証(ATS— B→ATS— P→ATC風)
・ダイヤシステムとスマホスタフの連動
・ダイヤ変更など指令員のが直感的に扱えるアプリの製作
・RFIDアンテナの車上搭載

4.3.メンバ

 メンバとしては開発初期のようにアーキテクトと技術を考える布陣に絞り込み、議論を開始した。また、2022年1月のRFC内の人事として、総合技術本部内にプロジェクト機関を設けるとともに、YGPT(山手線プロジェクト)を公式行事化すべく、スケジュールに載せていくこととした。 

4.4.業界へのプレゼン

 ダイヤ(時間という概念がある)列車運転を複数名で実施するという「ダイヤ運転会」の入門コンテンツとして多方面へ提供し、ゆくゆくはダイヤ運転コンテストのような新たなジャンルを確立していきたいという意気込みで各方面へプレゼンをおこなった。
 ダイヤ運転は演劇や吹奏楽のように一人ではできず、協業して成し遂げるものであり、分業と協業が必要なコンテンツであることから、いわゆる部活のような育成やコミュニケーションが自ずと発生するもので人材育成にも効果のあるコンテンツであることを伝えたが、残念ながら開催までこぎつけることはできなかった。 

4.5.デコーダ

 2019年9月の会議にて、さまざまな制約を産んでいたDCCからの脱却検討を最優先とすることとした。
 ラズパイや無線LAN chipなどの制御機器、モータードライバ回路、バッテリを車載する
 PCから無線LANを通じて何段階かのスピード制御することを最初の目標に設定(無通電の線路で走らせたい、床の上でラジコンのように走らせたい)最初の目標のターゲットは2019年12月とした。
 2020年に入りラジコン化されたシステムが車両に搭載され、線路ではない区間も自由に走る映像をTwitterに掲載しアピールすることができた。 

デコーダとデコーダ製作の様子

4.6.スマホスロットル

 スロットルはブラウザで操作するものとした。
 UI(ユーザインタフェース)は運転台をイメージしたデザインとし経路選択(内外周り)車両選択やダイヤは開始時間に合わせて自動生成される仕組みとなった。また運転画面は時刻と速度、列車番号等が表示されている。速度制御は縦スライド式としたが、リロードと認識されてしまうことがあり、改良すべきポイントとなった。
 運転終了後はスタフの時間と実際の比較を行い、定時運行率を表示する評価システムとして実装した。
 スマホスロットルに運転に必要なスタフや時計等も実装されたが、看板としてやぐらは設置し、モニタも従前のコンテンツや動画を流すパネルとして活用した。
 コロナ禍明けということもあり、個人のスマホで参加できるという点は衛生観念の安心感に寄与することができた。現場にも消毒液等の配備を行った。一方、RFC Wi-FiへのログインやQRを使った画面遷移などの手間が発生したため、受付現場では混乱を招くことになった。最悪の場合、RFCの端末を貸し出す形で対処した。

4.7.車両

 Arduinoなどの端末の搭載とスマホでの操作を実現し、鉄道模型のラジコン化に着手した。運転士はスマホに表示された運転台UIからWi-Fiを通じて、車載されたデコーダに対して指示を与えるシステムである。車両の制御、モータ電源として5Vのモバイルバッテリを車載する。車載にあたり、デコーダはDCCで利用していたプラグに対応し、バッテリ配線のためクハE230-500へテープケーブルを使って給電ケーブルを構成とした。
 車両はE231系500番代を1本増備した。 

初期デコーダ搭載状況(2020年1月)

4.8.電池について

 車両内に収まる小型のモバイルバッテリを選定した。
 課題となったのは電池(モバイルバッテリ)の持ちであったが、8時間走行くらいでは問題ないことをテストによって確認した。
 ただし、既製品の電池であるため、保護機能やスリープ機能が実装されており、これによって、車両の電源が失われることがあった。そのため、常に一定の電流が消費されるようにケーブルに抵抗を搭載した。 

4.9.線路関係

 本線については首都圏の路線ということもあり、KATOのPC枕木タイプへ順次置き換えを行った。またカーブ区間はカントレールを採用した。大崎や池袋などは複雑な配置となること、RFID線路を入れていく必要があることから、KATOの標準ラインナップにはない線路を作成し、柔軟に対応できるようにバリエーションを増やした。
 JAM出展のブランクはあったが、机サイズが一般のもの(1800✕450mm)と異なること(JAMは1750✕750mm)を失念しており、準備日時点でサイズが合わず、変形させたため、新宿~渋谷、東京~上野の距離が短くなってしまうというアクシデントが発生した。 

RFID線路Ver2(写真は3rd開発時)

4.10.駅やぐらのデジタル化とドア閉スイッチの追加

 駅やぐらについて、中央線用に作成し直そうとすると、大規模な改修や機器の増備が必要であると予想されたため、ハード構成でなくていいものについては、デジタル化しモニタで表示するように変更した。
 また、よりリアリティを追求するためにドア閉スイッチをハードスイッチで実装した。走行中ランプについてはあまり実用性を感じられなかったため、オミットしている。駅ボードの背面に駅を司るラズパイを配置し、スリム化を図ることができた。 

駅やぐらデジタル化後のモニタ例(池袋)

4.11.RFIDと在線検知装置による絶対停止機能

 RFIDによる在線位置検出は不安定であったため、DCCの在線検知装置による位置情報を並行して設置した。これにより、1閉塞先に列車がいる場合にはその先には進めないように制御した。ただし、駅数が増えて駅間が縮まったこと、車両の速度リミットを設けなかったことから、車両が早すぎると過走してしまい、追突してしまうことがあった。 

4.12.RFID線路の改良と送信機設置の工夫

 複線でも極性を考えずにRFID線路を配置できるようにRFIDタグ線路(S246F)を改良した。長さをS123とすることで配置の自由度を向上させるとともに、送信機を左右のどちらにでも建てられるようにコンバージョン基盤を挟んでコネクタ出しするようにした。

4.13.ZEUS(ZEntai Unkokanri Shisutemu)の登場

 全知全能の神と名付けたシステムは、すべてのイベントの操作、不具合からの回復、列車の位置、車両の救援などが1つの画面から操作できるもので、神モードとして、オペレーション部隊が操作することで、偶発的なイベント発生なども操作できるようになった。 

Zeus画面の一例
下段のメニューから設定できる

4.14.トレインマップ

RFIDでの車両位置を正確に取ることができるようになったことから、鉄道会社の列車位置を示すトレインマップを模したダッシュボードを作成し、やぐら上のモニタに表示した。

トレインマップの例

4.15.渋谷駅線路切換に伴う運休と大崎・池袋での入換

 渋谷駅の改良工事に伴い、山手線の大崎~池袋間が運休になる週末が発生した。これを体験に加えるべく、地上信号として入換信号機を実装し、折返し運転が実施できるようにした。しかし、オペレーションとしては複雑で上級のさらに上を行く特級並となったため、懇意にしているメンバに体験してもらった。

5.山手線ゲーム2nd出展フェーズ

5.1.JAM2022

5.1.1.ブース配置
 駅数を6駅とし、周回数を1としたことで、体験人数はほぼ倍に数に引き上げることができた。また、休憩時間をしっかり確保することや、メンテナンスの余裕を生み出すことに主眼をおいたオペレーションとした。

ブースレイアウト

5.1.2.オペレーション

 整理券制を踏襲するとともに、初級、中級、上級を設定した。
 体験前の説明は動画化し、整理券をもらってから体験前に確認してもらえる仕組みとした。
 対象年齢はスマホを使用することから、単独では中学生以上、それ未満は保護者同伴を条件とした。 
 受付を済ませる段階でガイダンス動画をご覧になったかを確認し、RFC-Wi-Fiに接続をしてもらい、大崎か池袋にご案内してスタートとなる。1stでは各駅に担当者を配置していたが、スタッフ側の人数が多く集まったため、2ndからは伴走者が付く形に変更し、よりきめ細かで体験者のエンゲージメントを向上させられるように変更した。

山手線ゲームガイダンス動画

5.1.3.駅名標

駅配置が変更になったことから、新たなデザインで駅名標を配置した。また開発コードである2ndもロゴ化して各所へ挿入している。

山手線ゲーム2nd駅名標(渋谷)

5.2.広告

 RFCの公式Twitterやホームページ、ダイヤ運転フェスタの場を通じて山手線ゲームの開催告知を行った。

山手線ゲーム2nd告知ポスター

5.3.JAM2022の実施結果

 整理券はすべて配布し、ほぼすべて参加いただいた。参加いただいた年齢層についても1stの際と同様であった。
 独自の車両制御システムの稼働については大きな課題はなかった。しかしながら、不具合もゼロではなかった。Wi-Fiの環境がコンシューマ向けでは届かないエリアがあることなど、新たな課題としてわかった。

6.山手線ゲーム3rd

6.1.JAM2023に向けて

 JAM2023への出展にあたっては、中央線を本格化させるかの検討に入ったが、2nd始動時に検討した内容を消化しておらず、山手線ゲームのさらなるブラッシュアップも視野に入れて、安定動作にむけた開発を続けていくこととした。 

6.2.鉄道博物館への出展

 2023年に入り鉄道博物館に出展させて頂く機会を得ることができた。RFCのビジョンと本コンテンツの教育としての意義が合致したもので11月実施で調整を開始した。
 また、鉄道博物館での出展は安定度合いを極限まで引き上げる必要があるとの見解から、中央線ではなく、山手線ゲーム3rdとしてブラッシュアップ版を実施すること方針に進めた。

6.3.JAM2023

 鉄道博物館での出展が決まり、JAM2023については技術展示に絞ることで山手線の開発リソースに影響を最小限に留めるものとした。無線アンテナやスマホスロットルなど一部の機器は鉄道博物館出展向けの機器を持ち込み、テストを兼ねて展示を行った。 

JAM2023出展の様子

6.4.鉄博ブースレイアウト

 てっぱくホールを有効に活用するため、滞留のおこらないように山手線ゲームを最奥に配置することとした。実際には会場広さに余裕があったため、混乱が起きることはなかった。
 線路配置は複線オーバルを踏襲し、大崎駅や池袋駅の複雑な配線を極力シンプル化し、両駅に車両ストック用の留置線を配した。

ブースレイアウト

6.5.線路等の改良

 線路についてはシンプルな楕円形、本線上はできるだけPC枕木タイプに統一した。また、RFIDアンテナの情報伝送の阻害となっていた可能性のある金属線路をアクリルの線路に置き換えて、プレ運転会時に良好であったことから、DCCによる在線検知をやめ、RFIDに統一した。これにより、線路設備はよりシンプルな構成にすることができた。線路へ給電することがなくなり、車両の灯火はなくなってしまったが、接触不良による不具合は皆無であり、設営もシンプルになった。線路を敷き終わると架線柱が並ぶ施工スピードをみて、このシステムならではと感じた(線路給電であれば線路を磨く必要があるため)。
 線路配置図については線路の種類が多く、見分けが難しいものもあるため、詳細化し誰でも組み立てられるように記載した。
 ホームも新設とし、今回はノッチブレーキ式のスロットル操作となることから、ホームドアを撤廃し、過走余裕を含んだホーム長に変更した。今回から島式タイプを登場させている。


RFID線路Ver3(アクリルレール化)
島式ホームの製作状況

6.6.ラズパイクラスタ

 可搬、設営の簡便さと機器の冗長化のため、ラズパイをスタックしてRFCで採用している標準コンテナに組み込んだ。実は2ndではラズパイ1台にWebサーバー、DB、MQTTサーバー、DNSを担っていたが使用している電源が悪いのも相まって、電源不足でシャットダウン、またはハングアップしてしまい体験運転が中断してしまうトラブルが発生していた。
 3rdではkubernetesクラスタ化しラズパイ3Bからラズパイ4の8GBを4台搭載したものにスペックアップし、マシン電源もPoE給電に切り替え高性能化した。docker-composeで動かしていたものもkubernetesマニフェストに置き換わり、趣味の範囲では十分な冗長化を果たした。(詳細は別途記事)

ラズパイクラスタ

6.7.Zeusの進化

 神はさらなる進化を遂げ、もはや我々の手には負えない・・・のではなく非常に使いやすくなった。ステータスもわかりやすく、不具合箇所が直感的にわかるようになった。
 山手線ゲーム2ndから導入したZeusは、添乗員がスマートフォンで操作することも考慮し、山手線ゲーム3rdからスマートフォン用ページを用意した。直感的に使用できるように設計したことにより、各添乗員が容易にイベントを発生させることが可能となった。
デザインはE231のTIMSを参考にした。

進化したZeus
神の扱いマニュアル
スマートフォン用Zeus コンソール

6.8.Wi-Fi機器の超強力化

 山手線ゲーム2ndではWi-Fi環境の不良と思われるセッションダウンなどが発生していた。会場では多くの電波が飛んでいることから、まずはDCCが使っているチャンネルの割り出しを行った。また、機器をコンシューマ向けからエンタープライズ向けに変更し、強化した。その結果、80台近くが無線接続をしていたがWi-Fiは安定稼働した。

Wi-Fi機器

6.9.鉄道博物館での開催

 8月と10月に開催場所、搬入出、リリース等についての打ち合わせを行った。体験者の募集はてっぱくアプリに組み込んでいただく形とし、集客を見込める状態となった。10月には鉄道博物館と連名でプレスリリースを出し、関係先へ送付した。

プレスリリース(抜粋)
てっぱく抽選アプリへの掲載

 また、ダイヤ運転のコンテンツも鉄道教育の一環として必要という見解から、鉄道博物館の目の前を通過する高崎線を再現したダイヤ運転を同一会場内にて実施することとした。
 場所はてっぱくホールを選定し、4駅をゆったりと運転できる配置とした。お客様の導線については1st、2ndからのノウハウを取り入れ、ガイダンスと出発駅は大崎、池袋とし、伴走者が付いて1周するというスタイルを踏襲している。

駅名標(東京)
ガイダンス用運転マニュアル

 受付を1名とし、常時アプリの予約状況とチェックシート(紙)を用意し、チェックを行った。両日ともに昼ころまでに予約が埋まっていた。ガイダンスは2名で解説シートを用いた説明とWi-Fiへの接続、ダミースイッチを用いた操作の説明を実施し、伴走者に引き継ぐ流れである。空いている伴走者にはめていく仕組みであるため、ご案内はスムーズであった。
 運転終了後は評価画面ののち、アンケート回答を促し、アンケート回答率はこれまでのイベントの中で最大数であった。また、体験いただいた方の中心年齢は、鉄道博物館からの事前情報の通り、9歳以下のお子様を連れた家族が圧倒的であり、ブースの周回通路を拡幅した設計が功を奏した。

ガイダンスの様子
体験の様子(伴走者と体験者)

6.10.オペレーション

 今回は鉄道博物館側から、お子様にスポットを当てた年齢ゾーンを考えておくべきとの助言を頂いていたことから、初級に相当する体験をデフォルトで提供した。一部のお客様については伴走者の判断でZeusを発動し、イベントを適宜発生させるオペレーションとした。
 車両の操作を力行ノッチ2段、ブレーキ3段+非常とすることで、操作は難しさを増した。しかしながら、操作が難しいということを伝えることも大事な教育の一環であるとして、手を抜かず、できるだけリアルに再現することを心がけた。オペレーションでは、過走した場合には、停止位置に戻す操作をお客様に実施してもらった。
 一方、速度が高すぎることにより、RFID読み込みをロストし、列車の衝突となることを避けるため、実力の30%程度が最大速度となるようにリミットをかけた(表示上は80と出る)。なおZeusでの操作は100%での走行が可能となっている。

スロットル画面
運転評価画面

6.11.プレや周辺器具について

 プレ運転会については11月の前週に実施した。会期はそれまで1日であったが、2日間確保し、十分なデバックを行うことが出来た。
 本番では備え付けの机に加えてレンタルを利用することとした。これにより、今後の運転会開催の場所や机不足の制限を緩和できる可能性がひろがった。

6.12.アンケートの実施

 RFCが定例でおこなっている運転会では標準的にアンケートを行うというマーケティングを実施している。山手線ゲームでも運転を終了するとアンケートに誘導される仕組みとしている。また、スマホをしまう前に、QRコードを読み込んで頂く形でアンケートに参加いただくような声かけを行った。

7.次のステップへ

 会員の本業より?大きな熱量があってこそ成し得ることが出来たプロジェクトであり、ラジコン化した列車を地上システムと連動させながら、体験いただくというシステムはいまのところ類を見ない。
 また、山手線ゲーム3rdでは2ndの頃に考えていたシステムとしては完成の域に達した。さらに来場したお客様、体験した様々な方、関係者の方々から多くの驚きとお褒めの言葉をいただくことが出来た。
 総合技術本部を統括しながら、新たな技術の創出として取り組んできたが、自分自身はビジョンを提示するだけで、必要と思われるあらゆるものを個々が考え、提案、作成、ローンチしてくれる環境はすばらしく、最高である。改めて感謝したい。
 幹が育ったプロジェクトの枝葉を展開していくべく、楽しいことのために、やりたいことをやるという至極単純ではあるが明快な方針と、アジャイル的に進められるような環境をこれからも確保しながら、次の展開へ繋げたいと考えている。
 今回は山手線ゲームプロジェクトの本流といえる部分にフォーカスして執筆したが、枝葉の部分であるプラレールボディタイプの開発記やHO車両の安価な量産の検討についてもいずれどこかで触れたいと思う。

山手線ゲームin鉄博(てっぱくホールにて)

<付録>JAM2023での展示ポスター

山手線ゲーム紹介ポスター
山手線ゲーム紹介ポスター
山手線ゲーム紹介ポスター
画像の制御・監視01
画像の制御・監視02
車載デコーダ内製01
車載デコーダ内製02
在線検知回路01
在線検知回路02
通信インフラ整備01
通信インフラ整備02

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