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ある日の井の頭公園とアンティークとフェミニスト

その日、私はずっと行ってみたかった吉祥寺の商店街にあるカレルチャペック紅茶店本店に行った。

混んでる吉祥寺駅は避けて、2つ手前の井の頭公園駅を使う。ホームが地上にあって、周りに木々がたくさんあるから森の中のような雰囲気がある。写真を撮りに行ったこともあるくらい好きだ。夜になると人がほとんどいないあの駅のホームにただ座って、緑の匂いと夜の匂いを味わっている。

電車賃がかかるから頻繁には行けないけど、井の頭公園は私にとってのパワースポットだ。誰もが他人を気にせずそれぞれの時間を過ごしていて、どこかゆったりした時間が流れているところが素敵だ。駅前のセブンで100円のジャスミン茶を買って、その時の気分でベンチを見つけて読書する。(池の水だけは、びっくりするほど緑で汚い。調べてみると井の頭公園では数年に一度「かいぼり」という池の水を抜いて水草を食べてしまう外来種を駆除したり、池底を乾かして水質を改善するための活動が行われているらしい。いつかボランティア参加するのが夢)

さて、今日の目的は、公園の読書ではなく憧れのカレルチャペック本店だ!

紅茶党の私は東京に来て初めてカレルチャペックの存在を知ったときテンションが爆上がりした。ほっとする愛らしいドストライクに好みなイラスト!日本では取り扱いが珍しいカフェインレスの紅茶も売っていて、ハーブティの種類も豊富、出版されている紅茶関連の本も本当にすてきだ。

インスタで一目惚れした紅茶マグの実物はやはり惚れ惚れするほどかわいかった。3種類絵柄があって、私はアリスの柄があしらってあるものが気に入った。紅茶って本当は口のつけるところが薄い陶器で飲むのが美味しいと本で読んだのだけど、私は分厚いマグしか持っていないし、そんないつ割ってしまうかも分からない繊細なティーセットは贅沢品だ。でもこれはは口をつける部分が薄く作られている。それでいて丈夫で、茶葉を蒸らすための専用の蓋までついている。これ以上に完璧なものがあるだろうか!絶対に欲しい!でも値段をみれば、それは私の3日分の食費だった。これではだめだ!

なんだか諦めきれないけど、せっかく来たから思い出にカレルチャペック名物のタピオカミルクティーを飲んで帰ることにした。普通のミルクティーより10倍も濃いのが売りだそうだ。ミルクティーの上に載せたアイスクリームは濃厚なミルクと濃厚な茶葉を組み合わせた最強の味がしてすごくおいしかった。しかし私はカフェインアレルギーみたいなものがあって、お腹を壊してしまった。

帰り道、お腹をさすりながら歩いていたらアンティークを集めたギャラリーみたいなお店を見つけた。その時はたまたま星の王子さまの複製原画展をやっていて、大好きなので入ってみることにした。ショーケースには薄いブルーのホログラムみたいにキラキラした加工がされた陶器のティーセットが飾られていた。わざわざ紅茶マグを見に来るほど陶器は好きだからとても惹かれた。色使いもデザインも本当に好みのものだった。しばらく見とれていたら、一人だけいた店員のお姉さんが、私の見ていたものはオールドノリタケといって戦前にノリタケが輸出用に作っていたものだということを教えてくれた。値段は7万円代から値下がりして5万5千円。となりにディスプレイしてあった同じ時期に作られたセットの置物は30万円。値段を知っても私はそのショーケースの前からしばらく離れることができなかった。

そして店内の壁に展示してあった星の王子さまの複製原画たち。近くに行くと印刷ではよくわからなかった筆使いがよく見えて、本物ってこんな感じなんだな、と満たされた気持ちになった。特にバラの場面の絵がすごく好きだった。8万円。これを買えるお金があり、飾れる家があればいいなあと思った。

そのお店には星の王子さま以外のフランスの絵画作品もたくさん展示されていた。お姉さんが色々と教えてくれたけど、名前を言われてもなんにもわからなかった。でもなんか素敵だと思った。こういったものがお好きなんですね、と言ってお姉さんは何も買えないわたしに丁寧に説明してくれた。私はお礼を言って店を出た。

素敵なものを見たとき独特の高揚した気分で商店街を歩いていると、ある店先にティーセットやマグカップが雑然と置かれているのを見つけた。しゃがみこんでそれを手にとってよく見てみると、なんとそれは白くてツルツルした質のいいボーンチャイナのノリタケのティーセット!中古なので500円だった。信じられない。私は宝石を掘り当てた気分ですぐにそれを買った。カレルチャペックの紅茶マグは買えなかったけど、今の自分にはこれが合っている気がした。店主の好みなのか店内はカエルグッズだらけで、この店でボーンチャイナが売られていることが不思議だった。

ということで私はその日素晴らしく満たされた気分になり、家に帰った。

そして考えた。今日買ったものはたった500円のティーセットだけど、それでもお金を使って欲しいものを手に入れるということはやはり気持ちを上向きにしてくれるし、逆のことを言えば日々の生活にこういうことがないと気が沈んでしまう。お金のない生活を送っていて思うのは、精神を安定させてくれるのはやはりお金だということだ。少なくとも私にとっては。セレーナ・ゴメスが週5日インターンとして人身売買の撲滅に取り組む非営利団体で働いているという記事を今日読んだけれど、そういう慈悲に満ちたマインドはせめて最低限暮らしていけるだけのお金がないと出てこない。もちろん、自分がいくら貧しくとも他人に尽くせる素晴らしい人たちもたくさんいるだろう。けれど私は少なくとも美味しいものが食べたい、欲しいものは手に入れたい、そんな人間だった。

そして歴史上に名を残した偉大なフェミニストたちのことを調べていると、裕福な環境で育ったり、彼女たちの活動に理解のある人たちに囲まれていたり、恵まれた環境で育った人が大多数であるというのは何度もぶち当たる事実だった。彼女たちは自らの特権を多くの人たちを救うために使い、活動した偉大な活動家であることは間違いないだろう。

でも私は裕福どころか、中流家庭出身のバックグラウンドさえ持っていない。体力もない。やりたいことだけは山ほどあるが、先が全く見えなかった。ただ分かるのは、彼女たちが残してくれたものを照らし直し、この人生の突破口となる糧を見つけることだった。

ねぇジュディ、私にあしながおじさんはいないし、欲しいとは思ってない。でも常に生活に困ってて、毎日不安で押しつぶされそうになってる。それでも私には自分の足で行きたいと思う場所に行って、それを誰にも指図されない自由だけはある。この自由を手放さず、自分の力で欲しいもの全てを手に入れるのって、やっぱり難しいことなのかな?

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