【紙の本で読むべき名作選#21】「太平記」で電子書籍を越えてゆけ!
この正月休みを利用して、お酒を飲みながら、『太平記』を通読しておりました。やはり、面白い!そして、休暇中に酔っ払いながら読むのがちょうどよいような、ニヒリズム思想の凄みを、この物語の背景には感じます。つくづくすげえ古典だなあ、本当に。
それにしても、どうして、みんな、太平記を無視するのか!
中世ファンとしては、イライラする。
教科書で好まれるのは、結局、『源氏物語』『枕草子』『奥の細道』、軍事物では、せいぜい『平家物語』ですよね。
そのせいで、日本中世ファンにとってはヨダレがダラダラ出るほどの奇書怪書の宝庫「室町時代」が不当に無視されている!特に、『太平記』が無視されているのは許せん。
いや、理由は、じつは、わかっています。
「わびさび」とか「幽玄」とかこそを「日本のココロ」と言いたい文科省にとって、『太平記』はあまりにもアバンギャルドだからでしょう。
歴史物、軍記物なくせに、平気で夢と現実が混交したり、死んだ人間が魔物になって再登場したり、自由すぎる表現が「文部科学省推薦」とするにはエグすぎるからでしょう。
ところが、本気で「中世の日本人が感じていた、怨霊とか呪力とかが、政治の動静にすら絡んでくるというリアリティ」を追憶したいというならば、『太平記』はだんぜん、オススメな古典となります。
とにかく女子供の死亡率の高さにドンビキしつつも、なんでもかんでもが「魔物」「鬼」「天狗」の責任になっていくコスモロジーには、サッパリとした割り切りの良さすら感じる。
このロックな感覚を理解せずに、日本の中世の歴史をうわっつらだけで理解し、「昔の人はかわいそうだ」というのも、なんだか違う気がしますね。
昔の日本は、悲惨だったが、その時代に適応した思想というものも、たしかに、生み出されていた。
無常とか、現世と異界の混交とか、定義づけはいろいろできますが、
戦乱、疫病、貧困、そういったものに追い詰められていた人々が、ニヒリズムを突き抜けた精神の強さといったものを見せてくれているようで、室町の文学は、無視できないのです。
なにはともあれ、
現代日本人が忘れているような、精神の強靭さとか、物狂いとか、深い意味での(対象を現実の女性でなく自然という抽象的なものにまで高めた意味での)エロティシズムとか、そういう中世的なテーマに憧れがあるなら、やはり、『太平記』はオススメです。
少なくとも、学校教育で叩き込まれた「きれいな日本古典」というのはあくまで表層的なものであって、その裏にはこのようなアバンギャルドでエログロナンセンスなエグい古典もいっぱい残っているのだ、ということに打たれることでしょう。
そして私としては、そのような「ショック」こそが古典教育としては正しいものと思いますが、ここについてはいろんな意見があり、深い議論が必要なところでは、あります。
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