「厨二病のプライド」

●これまでのあらすじ
時は現代。科学文明が発達した影では、科学では計れない魑魅魍魎が跋扈していた。
妖魔、と呼ばれる怪物達が、裏社会で暗躍し、人を食い物にしていたのだ。
そんな妖魔に対抗する者達がいた。
妖魔を討つべく、妖魔と同じく科学では計れぬチカラ――魔術を使うモノ達。
すなわち、魔術師(ウィザード)である。

●●●

「お前の恋を叶えてやろう!」

 深夜の路地裏。割れた電灯だけが照らす道路の上に、二つの人影があった。
 一つは羽根をもがれた天使。
 一つは学生服に拳銃を構えた少年。
 天使が道路に倒れ伏し、その頭に少年が銃を突き付けている状態である。
 天使は必死に言葉をまくし立てる。
 
「私は堕ちても天使! 元・キューピッドだ! 私の力を使えば、どんな男女であろうと恋仲に出来る! その力でお前の恋を叶えてやる! だから……!」
「見逃せ、と?」

 天使の必死な形相とは対照的に、冷え切った鉄面皮で応える少年。
 
「妖魔を討つのが俺達魔術師の使命。妖魔の戯言に耳を貸すはずがないだろう」

 第一、と少年が言葉を続ける。
 
「俺は恋などしていない」
「嘘だね」

 少年の断言を、しかし妖魔天使は一言で斬って捨てた。
 
「お前くらいの歳の子供は皆恋をしているのさ。恋をしていないなんて――人間じゃない。誰かを好きになることが出来ないなんて、とんだ欠陥人間だよ」
「……欠陥、ね。否定はしない。普通の人間とは違うのは自覚している。それを欠陥と呼ぶのなら、呼べばいい」

 少年が引き金に指をかける。
 
「俺は妖魔を討つ魔術師。普通を捨てた非日常の存在。裏社会で暗躍する黒子。それでいいと、俺は自分で決めたんだよ」
「待て、やめ――」

 ――バン。
 
 術的加護が付与された魔導弾が、この世ならざる存在である天使の頭蓋を粉砕する。
 頭を爆散させられた天使の身体は、そのまま流体(エーテル)へと溶けて消えた。
 後には何も残らない。残ったのは、学生服の少年だけだ。
 
「俺は魔術師。妖魔を討つ者。――日常を歩む者じゃあない」

 ただそれだけの言葉を残して。少年もまた路地裏から歩き去る。
 こうして何事も無かったかのように――世界は回る。非日常(魔術師)が非日常(妖魔)を駆逐し、日常は護られる。
 これは、そんな戦いの一ページ。
 
「厨二病のプライド」END

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?