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エフェクチュエーションとデザイン思考の意外な接点。

前回はThomas Both(スタンフォード大学d.schoolファカルティー)と我々がどんなアウトプットを期待してエフェクチュエーションとデザイン思考を繋げたのかご紹介しました。

今回は、エフェクチュエーションとデザイン思考を融合するにあたり、その「つなぎ目」についてどんな議論がThomasとの間にあったか、一部ご紹介したいと思います。

Thomasがデザイン思考の概念を説明する時によく「カメラ」の仕組みを比喩として持ち出します。「被写体にカメラを向け、レンズを通して、イメージを捕捉・表現する」(図1)というもの。

図1.カメラの仕組み

デザイン思考に置き換えてこれを理解すると、「世の中や他者にカメラを向け、それを自分というレンズを通し、捉えたものを新結合したり・組み変えたり・組みなおしながらイメージやアウトプットを表現する」(図2)という概念を表現するために使う比喩だそうです。

図2.Thomasが例示するデザイン思考における考え方

アカデミックな論争などを聞いているとエフェクチュエーションとデザイン思考はよくシーズ(手段)起点かニーズ起点で対立する概念と捉えられがちです。マーケット・インとプロダクト・アウトで基本思想が異なり相容れないといった議論を何度か聞いたことがあります。しかし、そういう二項対立的な話なのでしょうか。

確かにデザイン思考では「他者の観察を通して共感しながら解くべき課題を特定しソリューションを考える」というステップが基本動作としてあります。しかし、現実的にはその手前には「何をなぜ観察・捕捉しにいくのか」というフェーズがあって然るべきです。そして、その点はあまり触れられていないようにも思います(少なくとも個人的にはあまり聞いたことがない)。

また、デザイン思考には「リフレーミング」や「WHY-HOW LADDERING」など捉える視点をずらし、ユニークな機会を探索するテクニックがいくつかありますが、自分というレンズを深く理解するようなプロセスはありません。

「観察に行くにあたって何を拠り所とするのか」「観察したものをユニークなアウトプットにするために捉えなおすレンズ(=自分)とは何か」そういった観点で考えると一見強引に思われたエフェクチュエーションとデザイン思考の「つなぎ目」が浮かび上がり、融合というアプローチがごく自然に感じられ、エフェクチュエーションとデザイン思考が繋がるという仮説は3人の中で確信へと変わっていきました。

「自身が成し遂げたいことは何か?」
      ↓
「それは他人にも共通し、他人の成し遂げたいことを助けることにも繋がるのではないか?」

「つなぎ目」から上記のような議論に発展していき、その結果、自身のAspirationをProblem/Objectiveに転換するというアプローチをDAY1には取り入れています。DAY2以降も同様にエフェクチュエーションとデザイン思考の相互補完関係を意識しながら設計しており、最初に挙げた図を用いて表現すると以下のようなイメージです。

図3.今回取り入れたエフェクチュエーションとデザイン思考を繋ぐ概念


Go Proの創業ストーリーを彷彿させる!?

こういう話をしていくと僕らがリーン・スタートアップを教える時に「小さく始めて大きく育てる」という説明でよく用いる「Go Pro」の創業ストーリーを思い出したりなんかします。

「Go Pro」を創業したニック・ウッドマンは自らのAspirationから始め、自分と同じAspirationを持つ多くの人のニーズを満たすプロダクトを世に出しました。僕らはリーン・スタートアップの文脈ではこれを「起業家自らがアーリー・アダプター」と表現しますが、これはまさに上で述べた考え方の実例としても当てはまりそうです。

ご存知の方も多いとは思いますが、サーフィンしている姿を動画に撮るためにプロサーファー仲間でお金を出し合い、プロカメラマンを雇うことを「Go Pro」と呼んでいました。プロであっても裕福な人は少なく、生計もサーフィン一本で立てることが難しいという人が多い中、自分と同じようにプロを雇わずとも「Go Pro」したいと思うプロサーファーはいるはずだとニック・ウッドマンは仮説を立て、アイデアを思いつき実現しました。

プロサーファー向けのアクションカメラは一見ニッチで、世の中のメガトレンドなどを追っていてもなかなか着想してやろうと思えるアイデアではないでしょう。実際に、ニック・ウッドマンも黎明期には多くの家電メーカーなどにアイデアを持ち込んだようですが相手にされなかったと語られています。

しかし、本人には強いAspirationがあり、それを欲しがる人が他にもいるということに気づき、それを拠り所にしつつ、プロトタイピングやユーザーテストなどを行い形にしていきました。結果的にはプロサーファーだけでなく、同じ動機の構造を持つような横乗りスポーツや、過酷環境における撮影の市場などにも展開し、今や宇宙でも使われているそうです。

最初は一個人のAspirationからはじまり、同じような動機を持つ他人のAspirationを達成することに目的を切り替え、自分がコントロールできる範囲でプロトタイプを作り、スケールさせていった。僕らが今回取ったアプローチととてもリンクがある事例だと感じています。

断片的な紹介となりましたが、このような議論を重ねていった結果できたのがEffectuate for Designです。

青空広がるスタンフォード大学でThomasと融合を考え中の図

エフェクチュエーションのコンセプトでAspirationと同じくらい大事なもので「Bird in hand:自分の手札を用いる」という観点があります。この点もデザイン思考と組み合わせてみたら大変相性が良かったので、その辺りの気づきをまた次回シェアしていきたいと思います。

つづく。


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