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散歩して話そう

夏真っ盛りでいよいよ虫たちの威勢が良い。
今日などは自転車を漕いでいると、しばらくハチと並走する場面があった。

大学生の時、大学構内を歩いていると対ハチ用殺虫剤を持った用務員さん3人組とすれ違い、これは! と踵を返してあとをつけたことがある。これから起こるであろう勝負を間近で見たかった。
そのあとどうなったかは記憶にない。たしか、用務員さんたちが職員しか入れないゾーンに向かって行ったから見られなかったのだっけ。

ハチとの並走を経て帰宅し、冷たい紅茶を飲んだ。
紅茶と烏龍茶はとても似ている。私の味覚のコンディションによっては区別できない日もあるのではないか。
お茶の中ではプーアル茶がとても苦手だ。初めて飲んだときその独特の風味に「おへその味がする!」と騒ぎ立てた。
まあ、私はおへその味なんて全く知らないのだけど、それでも何故かおへそ味という感想がパッと口をついたのだった。
ジャスミン茶は色がおいしそう。大学の友達がいつも飲んでいた印象がある。

そのジャスミン茶の友達と私ともう一人の友達の3人で散歩していたときに、ある住宅街で田中よし子(仮名)という市議会議員か何かのポスターが貼ってあるのを見かけた。
私が「あっ、よし子のポスターじゃん!」とあたかも知り合いかのような口ぶりをするという、ボケとも言えない、取るに足りない振る舞いをするとジャスミン茶は「あー、ほんとだ。よし子だ!」と調子を合わせてくれた。すると、そのポスターの隣で植木たちに水をやっていた女性がこちらをバッと振り返り、私たちは息を飲んだ。その女性はポスターにある写真と全く同じ顔をしていた。田中よし子、本人だったのだ。
それで、よく見ると私たちが今まさに通りかかっている建物は、どうやら事務所なのか自宅なのか、とにかく彼女の本丸らしかった。
全く想定していなかったご本人登場に、私たちは愛想笑いさえできなかった。ひたすら気まずかった。
よし子も私たちの声色と表情の変化から状況を察すると、少し俯きがちに水やりを再開していた。
スタスタと本丸から離れ、もう十分だという距離まで歩いたとき、やっと、どちらからともなく「あんなことあるんだね」と言った。「よし子にも悪いことしたね」と反省した。
私とジャスミン茶の愚行を隣で見ていたもう一人の友達には「いつか取り返しのつかないことが起こる前に、ああやって適当に喋るのをやめた方がいいよ」と怒られた。

このとき、たしか私たちは大学から少し離れたカラオケ店に行こうとしていた。電車で行けばすぐに着くのに、散歩がてら一時間弱の道のりを歩いていた。
大学の友達と歩くのは結構好きだった。

また別の日、この3人でお昼休みにお喋りしているうち、私たちで新しいことわざを作ろう! という話になったことがあった。
すると、その瞬間にジャスミン茶が「高台の小石」と、それはもうことわざっぽいフレーズを発した。
すごい! と場は一気に盛り上がったのだけど、本当にすごいのはここからで、ジャスミン茶は「高台という大きな物と、小石という小さな物を並べるだけでも対比構造ができて、ことわざっぽくなるな」と、今始まったばかりのこの遊びの楽しみ方を語り出したのだった。そのあとはその興奮に任せるままに、授業に行かず食堂で一時間以上新しいことわざを考え続けた。

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