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龍の単位

小学一年生の夏だった。
算数のテキストの中に「自分で問題文を作り、自分で解いてみましょう」という設問があった。

問.りんご1個を買い、みかんを3個買いました。あわせて何個でしょう?

式.1+3=4

こたえ.4個

みたいな。

算数の文章問題でいつもリンゴやミカンのような退屈なものばかり登場することにうんざりしていた私は、これをチャンスとみて問題文に龍を登場させることにした。

問.龍が5匹いました。そこから4匹いなくなると、残りはなん匹でしょう?

式.5-4=1

こたえ.1匹

かっこいい。
当時、龍をモチーフにした仮面ライダーが放送されており、私はそれを毎週楽しみにしていたのだった。
このオリジナル問題を勇んで書き上げた直後、しかし、どうしても気にかかる部分があっていったん全部消した。
龍の数え方は匹でいいのか? ということである。

〜匹にしてはデカすぎないだろうか。
また、龍が水の神様的なものとして祀られているのはなんとなく知っていたし、東洋風の龍は謎の球をグワシと掴んでいることも多く、あれがどういう物なのかよく分からないにしても、自前の道具を所持しているというのは龍に知性がある証に思えた。
そんな龍の数え方が果たして〜匹とか、〜頭で合っているのか。
一見、〜匹という数え方が似合うウサギだって、〜羽とカウントしたりする。龍についても或いは、と思ったのだった。

そこから色々考えを巡らせた私は最終的に、〜体という数え方に至った。
そして、書き込む前に一応正解があるなら確認しておこうと居間に行った。その日は休日で両親が揃っていた。
さっそく「鉛筆は1本、ヘビは1匹、じゃあ龍は?」と訊いた。「単位」という言葉をまだ知らない私が龍の数え方を知るための最善の質問であったと、今から考えても胸を張って言える。
対して両親は全くピンと来ておらず「え、どういうこと?」というリアクションで、私は必死で龍の単位を知りたいのだということを単位という言葉を使わずに伝えようとした。結局、何度同じ問答を繰り返しても伝わることはなく「鉛筆は本! ヘビは匹! 龍は?!」と私の語気が荒くなるばかりで、「え? なぞなぞ?」みたいな返事が出始めたところで私は怒って自室に切り上げた。
あいつらは終わっている。マジでお話にならない、と思った。龍の数え方は何が適切なのか? という事を私の両親は本当に考えたことがないのだ。だから伝わらない。一番近くにいる大人がこうなのだからもう他の誰にも伝わらないだろという絶望を感じた出来事である。ショックだったからよく覚えている。

結局、龍の単位を知ることが出来なかった私は代わりにカメレオンで問題を作った。カメレオンをモチーフにした仮面ライダーもいたのだ。

もし、今の私が当時の私のもとに駆けつけてあげられるなら、背中を押してあげたい。「〜体って良いよ。龍の格別感とバケモノ感、どっちも表現できてる。だからそれで問題文書いて提出しなよ」と言ってあげたい。

いま私の友達の顔を思い浮かべると、みんな龍の単位について一緒に考えてくれそうな人ばかりである。
これは、友達だから一緒に考えてくれるということなのか。
それとも本当は順序が逆で、私が幼少期の絶望を埋めるべく、龍の単位について考えてくれそうな人に魅力を感じて接近し友達になっただけなのかもしれない。

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