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名探偵再び

僕は老人ホームで働いている。

うちの形態は
介護付きと呼ばれる老人ホームで。

要支援・要介護認定を受けている方なら
誰でも入居することができる。


本当に結構どういう状態の方でも入居でき、

胃ろうと呼ばれる方法で栄養を取られる方、
全盲の方、
ガンで看取りの方、
自殺念慮がある方などなど。様々な方がおられる。

もちろん無条件ではなく、
入居前に審査があり、
約束事を書面で交わしてからだけど。


認知症状がある方もいる。

今日はそんな認知症状のあるおじいさんの話。



ご入居のきっかけは熱中症での入院。

独居だったけど、様子を見にきたご家族が
動けなくなっているその方(Tさんとする)を
発見した。

搬送された病院で点滴を受けほぼ改善したが、
もともと独居に不安を感じていたご家族が
そのまま入居を決められた。



本人の意思が確認されないのは
残念ながらよくあってしまうこと。

入居面談の時、
僕はヘルパーさんを入れての在宅生活の
再検討を必ず促す。

確かに不安は絶対ある。
でもそんなこと言い出したら、
今在宅生活をしている高齢者で
不安が全くない方なんていないと思う。

可能性を考えてもらいたくて、
一声はかける。
だいたいがめんどくさがられるけど。

いやわかるけどね。
安心ですもんね、老人ホームで生活するとなれば。



そういう流れで入居が決まった
認知症状のある方は確実に混乱する。


Tさんもそうだった。

入居してしばらくは
帰ると言ったり、
富士山に登りに行くと言ったり。

外に出れば確実に迷う。
でもお引き止めしても、
止められる理由がTさんには、ない。

若いときは何度も山登りに行き、
足は達者。今でも杖も何もなく、スタスタ歩ける。



『ちょっと歩いて帰ってくるだけや。
何かあかんねん!』

「お身体を預かってる責任があるので、
お身内の方にも1人で外に行くことを
ご理解いただくまでは行っていただくわけには
行かないんです。」

『子どもちゃうねんから
なんでちょっと外出んのに許可がいるねん!
ワシが出たい言うとんじゃああああ!』

なーんにも間違えてない。
でも出てもらえない。
ごめんなさい。


その点での救いは
ご家族が電話にすぐ出てくれて、
外出は自分が行った時にしてくれと
毎回本人に伝えてくれたこと。




1ヶ月ぐらいだろうか。
Tさんは、外に出ようとしなくなった。

日々をテレビを見て過ごす時間が増えた。

僕らとしては、
都度必死で引き留めなくてよくなったので、
手間としては軽減した。


これでいいのかな。
そう思いながら、時間が経った。




つい先日、
半年ぶりぐらいだろうか、
お一人で外に出ようとされた。


『ちょっと外の空気吸うから、
出してくれるか?』


言ってることが何もおかしくないから、
やっぱり止められない。

一緒に出ようとすると煙たがられたので、
もう1人で行ってもらって、
後をつけることにした。

お一人で外に出て、
ちゃんと戻ってこれることが証明できれば、
お一人での外出も、
受け入れてもらえるかもしれない。
#名探偵ねずみ






一つ目の角を曲がったら、
そこまでしゃしゃしゃっと行って、
角を曲がるごとについていこう。
#アンパンと牛乳が必要

曲がった…いまだ!
#しゃしゃしゃ




TさんまさかのUターンしてて鉢合わせ。
#迷探偵ねずみ


しかしこんなこともあろうかと、
上から派手目のパーカーをきて、
メガネをして変装していたのだ。
#どんなこともあろうかと

そのまま何食わぬ顔で通り過ぎて、
物陰で身を潜めた。
#あっぶね

気付かれてないようだ。


そのまま遠くから見ていると、
しばらく歩いて自身でホームに戻っていかれた。


これは…交渉のチャンス!


娘様に、
また外出希望が出てくるようになったが、
本日見守って(?)いると
ご自身で戻ってきてくださったこと。

もう少し回数を重ねるが、
近隣はお一人で外出できるようにするのはどうか

提案を行った。




もちろん初回で結果は出なかったけど。
責任が取れるかといえば
取れないかもしれないけど。
ダメなものはダメ、
かもしれないけど。


ただでさえ不本意な入居で
不自由な思いをしてるんだから、

ちょっとぐらいいいじゃないか。
#よー言わんけど


GPS持ってもらったり、
近所の人にお願いして回ったり、
行政に見守りネットワークに入れてもらったり、
ご家族に理解してもらったり。


やることをやって、
ちょっとでも自由にできるように。






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