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第2章 微生物叢と妊娠合併症2

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今回は、メルマガ51号(2022.06.02)の配信内容です。

SECTION⒈  Pregnancy and fetal life
Chapter 2.   The microbiome and pregnancy complications

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3. 妊娠期に起こる合併症

複雑な生理学的変化を考慮すると、妊娠の成功は驚くべき生物学的偉業である。実際に受胎期、妊娠期、周産期には多くの合併症が発生する可能性があるが、特に母体の合併症と胎児/胎盤の合併症が顕著である。

胎児リスク

健康な妊娠に対する最初の障害は、受精卵の着床の失敗である。ただし着床がなければ妊娠ではないので、これを妊娠合併症とは見做さない。ACOG(アメリカ産婦人学会)は、早期妊娠喪失を「妊娠の最初の12 週6日以内に胎児の心臓活動のない胚/胎児を含む胎嚢、または胎児・胎芽のない空の胎嚢(枯渇卵)でいずれも生存不可能な子宮内妊娠」と定義している。

定義は少し曖昧だが、一般的に流産(自然流産)は、妊娠の最初の20〜24週間の妊娠の喪失とされる。多くの流産は、女性が妊娠していることに気付く前に起こる。自然流産は妊娠の最大30%が着床後の数日以内に発生し、臨床的に認められた妊娠では最大15%が流産となる。したがって、流産は全妊娠の最大50%で起こる可能性があり、最も一般的な妊娠合併症の1つとなっている。

これらの自然流産の半分は、胎児の致死的な遺伝的異常に起因する可能性がある。自然流産の残りの原因は必ずしも明確ではない。大気汚染物質(一酸化炭素、粒子状物質、調理用煙)などの環境因子への曝露は、妊娠喪失の増加と関連しているが、正確なメカニズムは解明されていない。他の要因には、遺伝性子宮異常、母親の血栓症、母親の自己抗体、1型糖尿病、およびアルコール摂取が含まれる。さらに、炎症性サイトカインのシグナル伝達の変化が、流産女性の脱落膜において検出されており、特に妊娠初期の微生物叢が関与している可能性がある。

妊娠37週未満の早産は新生児死亡の主な原因であり、特に32週未満の児(全出生の1%〜2%)が深刻な病態と死亡に直面する。早産は、自然早産、破水によって誘発される早産(PROM)、およびアシスト分娩(母体を助けるための分娩か?)に分けることができる。早産は妊娠の約5%〜22%で起こるが、死亡率、特に新生児死亡率は高所得国と中低所得国の間で異なる。早産の原因は不明であるが、早産を引き起こすことが知られている因子には、感染、子宮外傷、子宮破裂、および子癇前症などの母親の状態(「母親のリスク」のセクションを参照)、胎児心拍数異状や子宮内発育遅延などの胎児の状態、および胎盤剥離の異常などが含まれる。

胎盤/胎児感染は早産の最も一般的な原因の1つであり、これについてはさらに議論する。

「妊娠28週(*日本では22週)以降に生命の兆候なしに生まれた赤ちゃん」として定義される死産は、妊娠の約1.8%で発生する。死産は早産または低出生体重と関連しており、感染症は高所得国の10〜25%に、低所得国では最大50%に死産をもたらす。

母体リスク

妊娠は、胎児の合併症に加えて、母体の合併症もある。人間の生殖は非常に非効率的であるが、その大部分は妊娠初期の失敗であるため、妊産婦の死亡はあまり一般的ではない。南アジアとサハラ以南のアフリカにおける妊産婦の死亡に関する最近の分析では、生涯出産における妊産婦の死亡率は0.34%であるという。産科出血、非産科合併症、高血圧性疾患、および妊娠関連感染症で、すべての死亡の80%以上を占める。ほとんどの妊娠合併症は生命を脅かすものではないが、にもかかわらず衰弱し、無視できない世界的な健康負担と経済的負担をもたらす。

前述のように、妊娠初期のhCGレベルの上昇は、妊婦の吐き気および嘔吐と関連している。約1%の症例で、これは重症妊娠悪阻と呼ばれる極端な病態をもたらすので、出生前入院の一般的な原因となっている。年間171,000回の分娩あたり520万米ドルの推定費用がかかる(イスラエルのデータに基づく)。重症悪阻の病因は不明なままであるが、この状態に関連する危険因子の1つは、ヘリコバクターピロリである。ピロリ菌は、胃潰瘍および萎縮性胃炎の発症に関与することで広く知られており、感染が消化不良を引き起こしている可能性がある。妊娠がこのらせん状細菌(ピロリ菌)の感染感受性を増加させることや、妊娠によって誘発される免疫学的寛容状態が潜在性ピロリ菌感染を再活性化することも考えられる。

妊娠中の入院のもう一つの原因は母親の高血圧であり、妊娠の最大10%に合併する。重症度の順に、妊娠高血圧症(GH)、子癇前症(PE)、および子癇を含むいくつかの高血圧障害が認められる。高血圧性疾患による妊産婦の死亡は約0.05%と推定されている。妊娠高血圧症は、≥140mmHgの収縮期血圧および/または高血圧のない女性において妊娠20週後に発症する≥90mmHgの拡張期血圧として定義される。子癇前症はGHに尿蛋白レベルの有意な上昇がある。子癇は高血圧症患者の子癇発作である。母体と胎児に深刻なリスクをもたらし、子癇に罹患している女性の2%は妊娠を生き延びられない。妊娠中の直接的なリスクに加えて、妊娠中の高血圧性障害は、人生の後半で心血管疾患を発症するリスクを高める可能性がある。特に子癇前症の正確な病因は知られていないが、異常な胎盤形成が根底にあるようだ。

胎盤栄養芽細胞の分化の障害は、胎盤螺旋動脈の形成に悪影響があり、子宮動脈抵抗性の増加および慢性胎盤虚血をもたらす。これは次に酸化ストレスとなる。そしてフリーラジカル、酸化脂質、サイトカイン、および血管内皮増殖因子を介して、母体システムに渡される。それによって誘発された母体系の炎症反応および血管内皮の変化は、肝臓および大脳の内皮細胞の障害となって病気を発症させる。

妊娠のもう一つの一般的な合併症は貧血である。妊娠は血漿量を増加させ、赤血球濃度の相対的な低下をもたらし、ヘモグロビン濃度も低下させる。さらに、胎児の鉄需要の増加は母親の鉄欠乏をもたらし、妊娠貧血の最も一般的な原因である鉄欠乏性貧血につながる。同様に、母親における胎児の成長および赤血球の需要は、DNAおよびアミノ酸合成を必要とし、これは葉酸に依存する。したがって、葉酸の取り込み不足は、巨赤芽球性貧血をもたらす(この名前は、赤血球の前駆体がこの状態でサイズが増加するという事実に由来する)。鉄欠乏性貧血および葉酸欠乏性貧血は、出生前ケアが不十分な国(すなわち、貧弱な食事と出生前の鉄および葉酸塩サプリメントがない国)で特によく見られ、症例の最大7%で妊産婦死亡率を引き起こす可能性がある。

母親のHbが低い(<11.0 g/L)場合も、低出生体重、死産、さらには新生児死亡などの有害なリスクがある(これは強調しない方が良い。単なる希釈によってHbレベルが低いだけの場合は胎児の成長は順調であることが多い)。興味深いことに、ピロリ菌感染は鉄貯蔵の減少と関連しており、ピロリ菌に感染した妊婦は鉄欠乏性貧血を発症するリスクが高い。鉄補給に対する反応は、ピロリ菌に感染している人よりも感染していない患者の方が優れている。これは、ピロリ菌が鉄貯蔵のために宿主と積極的に競合していること、特にこの菌が恒常的に鉄取り込み調節物質を出しているからだろう。またピロリ菌による胃粘膜の形態学的変化の結果として、鉄の取り込みを抑制するメカニズムもあるかも知れない。

注目すべき最後の妊娠合併症は、妊娠糖尿病(GDM)である。GDMの世界的な有病率は約10%であり、リスク因子には肥満、西洋食、および母親の年齢がある。

妊娠中に発症した高血糖は一般的に産後解消するが、一方で、母親には2型糖尿病(T2D)のリスクおよび心血管疾患のリスクが大幅に増加し、子供にも肥満およびT2Dを増加させる点で深刻な長期的結果をもたらす可能性がある。

正常な妊娠は、インスリン感受性のダイナミックな変化を伴う。 妊娠経過に伴うエネルギー需要に対応するため、インスリン感受性は早期の増加(後のエネルギー需要のための脂肪貯蔵を可能にする)に続いて、第3三半期では感受性の低下および内因性グルコース産生の増加が続く。
感受性が低下すると、膵β細胞によるインスリン産生が増加し、血中グルコースの恒常性は維持される。しかしGDM患者では、すでに受胎前にインスリン感受性は低下しており、妊娠中のインスリン刺激によるグルコースの取り込みは、対照妊娠と比較してさらに減少する。その上β細胞数の減少および機能不全は、正常な妊娠に見られるインスリン感受性の増加を妨げる。

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