自閉症の正しい理解②
SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、2024.05.23配信のメルマガ内容(前半)です。
前回に引き続き、「自閉症の子どもたちと”恐怖の世界”」(白石勧著 花伝社)より。
※白石さんの書籍を割愛し結論を中心にお伝えしています。詳しく知りたい人、文献も見たい人は原著書をご覧ください。Amazonでも購入できます。
5-1. 自閉症スペクトラム障害という連続性
自閉症には、しばらく会話をしても自閉症だとわからないような軽度の子どもから、見ただけで自閉症だとわかるような重度の子どもまで大きな幅がある。ダウン症にはこのような大きな幅はない。
刷り込みの程度で自閉症スペクトラム障害という連続性が生まれる。
刷り込みの障害が軽度だと軽度の自閉症の子どもになる。そして、刷り込みの障害が重度だと重度の自閉症の子どもになる。
ただし、重度の自閉症の子どもでも、テンプルのように大学教授になる人がいる。
自閉症の子どもは刷り込みに障害があるが、生まれつきの障害はない。
適切な支援があれば自閉症は恐れるような障害ではない。
アスペルガー(症候群)は言葉の発達に遅れがない自閉症である。人の顔(視覚)の刷り込みには障害があるが、人の声(聴覚)の刷り込みはできていたと考えられる。
アスペルガーの夫婦が書いた『モーツァルトとクジラ』という本で、看護師が赤ちゃんを母親に渡そうとしたら、赤ちゃんは母親を押しやった。そして、この赤ちゃんはアスペルガーになった。
したがって、アスペルガーというのは、マスクをした看護師の顔と声を刷り込んだ赤ちゃんが、マスクをした看護師に生れた信頼を母親に広げることができなかったケースとして説明できる。
5-2. 社会性の障害
自閉症の人は母親の刷り込みに障害があるので、「人という種」の刷り込みにも障害がある。それで、社会に適応するのに苦労する。
■ 母子関係の障害
刷り込みの代表的な機能が、頼るべき母親を特定するという機能である。しかし、自閉症の子どもは刷り込みに障害があるので母親への信頼が生まれていない。
母親がいくら優しく育てても、自閉症の子どもに母親への信頼を育てることができない。
生まれていないものは、育てることができない。
普通の子どもは、母親に生まれた信頼がすぐに父親や兄弟といった家族にも広がる。少し大きくなると、近所の人や友達にも信頼が広がる。しかし、自閉症の子どもは母親への信頼が生まれていないので、ほかの人にも信頼が広がっていかない。
ただし、小学校に入る前ぐらいには、ほとんどの自閉症の子どもに母親への愛着が生まれる。
■ 友だち関係の障害
刷り込みには刷り込んだ種を仲間として特定するという機能がある。自閉症の子どもは刷り込みに障害があるので、ほかの子どもを仲間として認識しない。
普通の子どもは3歳ぐらいになると、友だちと遊ぶようになる。
しかし、自閉症の子どもは保育園や幼稚園でほかの子どもと遊ばない。
グニラ・ガーランド(2000)は、幼稚園に行った初めの日、ほかの子どもが自分とおなじ人間だということに気がつかなかった。
しかし、小学生ぐらいになると、自閉症の子どもも自分に優しくしてくれた子どもを好きになることがある。
ただし、普通の子どもは友だちがいないと孤独を感じて不幸だと感じるが、自閉症の子どもはもともと孤独なので友だちがいなくても不幸だとは感じない。
■ 異星人
刷り込みは母親を特定するだけではなく、自分の属する種を特定するという機能がある。
自閉症の人は刷り込みに障害があるので、「人という種」が自分の属する種になっていない。
それで、自閉症の人のなかには自分のことを異星人と言う人がいる。
泉流星が最初に書いた自伝のタイトルは『地球生まれの異星人』(2003)である。
泉は大学を卒業して、スパーマーケットに幹部候補生として採用されたが、職場でミスばかりして、アスペルガーと診断された。
この本の前書きで、「私は少し変わった脳を持ち、そのために普通の人とは違った異星人マインドを持っている。-(略)-一種の異文化圏の人と思って接していただければありがたい」と書いている。
神経科医のオリヴァー・サックスは自分が担当した患者などに関する本を数多く書いている。
サックスは自閉症の当事者として有名なテンプル・グランディンの取材に行った。
テンプルは、若いころに見た『ロミオとジュリエット』や『ハムレット』の劇はわけがわからなかったと、サックスに話した。そういうとき、地球に住んでいる人類という生物を研究している火星の人類学者のような気がしたそうである。
自閉症の人が自分は異星人だと書くのは「人という種」の刷り込みに障害があるのが原因である。
■ テリトリー感覚
オスネコはおしっこをかけて自分のテリトリーを示す。ウグイスの鳴き声も、メスを誘う意味とテリトリー宣言の意味がある。こうしたテリトリー宣言を感じとるのは同じ種に限られる。
住宅街では、それぞれの家族がテリトリーを張っている。人はお互いの家族のテリトリーを尊重し、ほかの家族のテリトリーには無断で侵入しない。
しかし、人はオスネコのテリトリーを感知しない。ネコも人のテリトリーを感知しない。
自閉症の子どもも人のテリトリーを感知しない。それで、よその家に勝手に入って大騒ぎになることがある。
普通の子どもは診察室に入ると、その部屋で椅子に座っている医師に注目する。診察室がほかの人のテリトリーだということを感知している。
しかし、自閉症の子どもは診察室に入っても、そこがほかの人のテリトリーという感覚がない。
自閉症の子どもは診察室に入ると、医師に注目しないで、自分が興味のある物に注目する。
自閉症の診断に慣れた医師は、その子が椅子に座る前に自閉症だとわかる。
自閉症の子どもは刷り込みに障害があるので母子関係や友人関係に障害がある。また、「人という種」の刷り込みにも障害があるので、人としてのテリトリー意識にも障害がある。
自閉症の子どもは人としてのテリトリー意識がないので、その場にふさわしい行動ができない。
自閉症の子どもには、外国人に教えるように、その社会の「普通」や「常識」を教える必要がある。
白石氏の電子書籍の目次は以下のとおりです。
※なお、本記事は白石氏の了承のもと公開しております。
第一部 自閉症の原因と予防
第1章 自閉症の原因
第2章 刷り込み
第3章 新生児室
第4章 自閉症予防の5カ条
第二部 自閉症の正しい理解と支援
第5章 自閉症の正しい理解
第6章 後期発症型の自閉症
第7章 恐怖症の治療
第8章 恐怖症の治療と教育
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