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講演会要旨②「頑張れ助産院 自然なお産をとり戻せ」(2023.02.18開催)

SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、メルマガ84号(2023.02.28)の配信内容です。

さて今回は、2/18の講演内容の要旨の第2回目です。
前回第1回目はこちら↓

講演会「頑張れ助産院 自然のお産をとり戻せ」

日時:2023年2月18日(土) 14:00~17:30
会場:名古屋駅前 安保ホールで開催(オンライン配信あり)


第二部 自然なお産を応援するワケ

「自然分娩を残さないといけない理由」について医学的見地から、また「海外特にヨーロッパやWHOがこの点にどう言及しているか」など幅広い見地からアプローチして頂きたいと考えました。

演者は北島博之さん(新生児科医)、森臨太郎さん(小児科医)、松岡悦子さん(文化人類学者)、他に斎藤真紀子さん・信友浩一さん・中村薫さんからの指定発言、最後に会場参加者との質疑応答を行いました。

2-1「オキシトシンの出るお産 ー赤ちゃんから見てみると」
北島 博之(新生児科医)

北島博之さん講演「オキシトシンの出るお産 ー赤ちゃんから見てみると」

第二部のトップは元大阪府立母子医療センターの新生児科主任部長であった北島博之さん、赤ちゃん目線での「オキシトシンの出るお産」と題して講演されました。

まず先生は、故 吉村正医師の
自分が関与しない、よく知った助産師さんにサポートされたお産が、最も母子ともに元気でしかも楽しそうだった」
という言葉に感銘を受けたと述べました。

生後1.5ヶ月時の心理検査時に泣かない乳児(心理が安定している)はカンガルーケアを受けた子や助産所分娩に多かったそうで、つまりお母さんが気持ちの良いお産をすると、赤ちゃんの情緒が安定し泣かない子になるとのことでした。フィンランドの18年間の追跡調査ではさらに、幸せな母親の子どもは社会的能力が高いということがわかっているそうです。

北島先生の講演はオキシトシンに関するものをお願いしたこともあって、主な講演内容は下記の3つでした。

  1. お産をするお母さんとオキシトシン

  2. お産をする赤ちゃんとオキシトシン

  3. お産と赤ちゃんの心について

オキシトシンは分娩に必要でそれにはリラックスが必須であるということ。
リラックスすると自分の脳下垂体から内因性のオキシトシンが出て、このホルモンは脳内でエンドルフィンを介して痛みを和らげ恍惚感を生む、と同時に脳から外に出て子宮を収縮させ分娩を進める。
一方不安があって自分のオキシトシンを出せないお母さんは、微弱陣痛となるので点滴で合成オキシトシンを投与されることになる。しかし、点滴のオキシトシンは脳内には入らないので、子宮は収縮させるけれど痛くて辛く苦しいお産となる。

この辺りはSBSK制作の動画「自然なお産の再発見」にも詳しく述べられています。

内因性オキシトシンを十分に分泌させるには、褒めること、支えること、摩ることなどを継続的に行うことで、継続支援がオキシトシンを増やすのは動物ではよく調べられていること。なぜかヒトでは調べられてもいないそうです。

次に、赤ちゃんからのオキシトシンがお母さんの陣痛を始めさせることを、臍帯動・静脈の濃度差から説明しました。
これは分娩機序解明に大きな一石を投じたお話だと思います。また胎児のオキシトシンは同時に、エンドルフィンを介して胎児自身の分娩中の苦痛を和らげることにも大いに貢献しているだろうとのことで、さすがに新生児科医ならではの視点です。

尚、作成中の次回の教育動画ではこの辺りの詳しい機序が聞けるものと思います。

また、胎児からのオキシトシン分泌量は羊水中のオキシトシン濃度を測ることで分かるので、これによってお産の質が定量できるだろうとも述べました。さらに胎児の肺成熟シグナルである肺サーファクタント(SP-A)は、これが羊水中に増えると陣痛が始まり、その抗体を入れると分娩が遅くなることが動物実験で証明されているそうです。だから超早産児の羊水中にもSP-Aが増えている可能性がありこれが確認できれば、ある種の早産は予防できるであろうという、夢のあるお話でした。

その他、誕生を記憶する赤ちゃんは確かにいるので、子ども側から見たお産のありかたを評価することができるし必要だと言いました。

さらに、オキシトシンの出ないお産では母乳育児率が下がることが指摘されているけれど、先生は過去の米国、日本、韓国での病院出産率と母乳育児率・虐待の発生率を比較検討し、文化によらず病院分娩の増加が母乳率の低下と虐待率の増加を招いていると、産前産後ケアの前の重要性についても言及しました。

非常に斬新で興味深い内容を短時間で話して頂きましたので、何回か聞き直したい内容です。ご興味がある方は講演会DVDでじっくりご確認下さい。

赤ちゃんから見た自然なお産の重要性は、ミシェル・オダンの言うプライマル期の中でも、最も重要なものだと言えます。
このことを皆で共有しましょう。


2-2「グローバルな視点からの出産の話」
講師:森臨太郎(小児科医)

森臨太郎さん講演「グローバルな視点からの出産の話」

森臨太郎先生は日英の小児科学会専門医で、現在国連人口基金の東アジアの地域アドバイザーとして活躍しておられ、バンコクからWebにて講演して頂きました。テーマは「グローバルな視点からの出産の話」でした。

森先生は、まずイギリスでの「出産のガイドライン」をリーダーとしてまとめた経験を述べました。
日本と同じくイギリスでも、自然分娩への想いを持った人と、その反対の立場の人達がいて、特にイングランドとウェールズで自然分娩に対する考え方の対立があったそうです。自然分娩の正常時間を決めるだけでも議論が噴出したといいます。正常時間という制限を設定すると介入が増える。しかし、かといって放置すると安全に問題が生じる。会陰切開やフリースタイルに対する反対意見はほぼ克服されていたけれど、ある程度時間的限界は決めた方が良いと言う意見が多かった。幸い自然分娩の安全性に関して質の高い研究がたくさんあったので、議論が収斂できた、と話されました。それがないと合意形成ができないことを認識したとも述べました。コクランレビューなど質の高いものを確認しあってオープンに合意形成することができたそうです。

次に森先生は、「WHOの出産に関するガイドライン」を作ることになったそうです。
目的は不要な帝王切開を減らすことでした。バングラデシュで調査したところ、適応ではない不要な帝王切開が多く、一方で必要な人になされていないことが分かりました。中国、ベトナム、タイ、いや全世界の途上国でのとんでもない実態がわかり、これをWHOのWGは帝王切開のEpidemicと呼んでいるそうです。よく観察してベストのタイミングで介入することが大切だと述べました。また日本では帝王切開率はよく抑えられているが、不要な検査が多いことを指摘されました。

最後に森先生は産後ケアについて述べられました。

日本の妊産婦死亡の統計の見直しが必要だそうです。妊産婦死亡は死亡届けから見ているので漏れがある。特に産後の自殺が妊産婦死亡統計から漏れており、実際には妊産婦死亡数にさらに1/3が追加(130%)されるべきだと述べました。
産後ケアには社会的、精神的問題を見抜くことが必要で産婦人科医にも積極的に関わってほしい、そうです。

最後にフロアからの質問に、
「日本の医師の臨床研究は治験が多いが、公衆衛生や母子保健でも質の高い研究ができることを知って頑張ってほしい」
また、
「産後ケアでは産科の医師に積極的に介入してもらって、妊娠糖尿病などのフォローアップもしてほしい」
と述べました。

会場からの質問の様子

長くなりましたので今回はこのあたりで筆をおきます。
次回「講演会要旨③」は松岡先生の講演内容から最後までをお伝えします。お楽しみに。


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