たった一音だけの音楽
「“シ”の音だけでも、一つの音楽が奏でられます」
小ぶりな体育館のステージで子供達がリコーダーを吹く。
一音の強弱だけで小学三年生が音楽を奏でる。
「あ、ほんとうだ」
授業参観に参加していた僕は思わず感心して声が出ていた。
1音で音楽を奏でるなんて、そんなこと考えたこともなかった。
元気な感じや、少ししっとりした感じ、いろんな色を感じる。
パチパチと拍手。息子と目が合う。全開の笑顔。
多分僕も同じ笑顔だったのだろう。
家で適当にピーヒョロやってるかと思いきや、本番はちゃんとしてる。
娘も音楽の授業。鍵盤ハーモニカを一生懸命ひいていた。
僕に気付いて嬉しそうな笑顔。いつもお母さんだから、お父さんがいくのは珍しい。授業が終わったら誰のパパ??といろんな子に聞かれた。
小学一年生の娘の授業終わりに子供達が一緒に帰ろうと誘ってくれて、仕事が色々やばいんだけど、まぁいいか〜と子供達の下校を校舎で待つ。
ウサギを撫で、誰もいない廊下で教室から漏れ聞こえる笑い声を聴きながら、作文や習字を眺める。
色々仕事で焦っていたことが急に落ち着く。実際は何も落ち着いてないんだけど、急いでも意味はないと思った。グラウンドに落ちる太陽の光や、枯れかけた植物の花壇、誰もいなくなった体育館に、遠くから聞こえるリコーダーの音。
ちょっと前まで淡々と流れる時間が怖いと思っていた。
でも、それは誰も止めることができないし、恐れるだけ無駄である。
流されるしかない。その流れを楽しめばいい。
たった一音であれだけの音楽になるのだから、僕という一音もそれなりの音色を奏でることができるだろう。どうにも止めようのない時間に流されて。
はてさて、どんな音楽か。
いただいたお金は子どもに本でも買おうかと思ってます。