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トルストイ『イワンのばか』読書会 (2022.1.21)

2022.1.21に行ったトルストイ『イワンのばか』読書会のもようです。

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青空文庫 トルストイ 『イワンのばか』


朗読しました。

『現代おバカ貨幣理論 金貨はおはじきである』


私は、最近『男はつらいよ』を第一作目から見ているのだが、初期の寅さんは、喜劇役者の森川信がおいちゃんを演じている。私は下條正巳の演じる新派っぽい辛気臭さのあるおいちゃんより、森川信の喜劇的な味わいのあるおいちゃんが好きだ。森川信のおいちゃんは、寅次郎の醜態を見て、「ばかだねえ、ほんとばかだねえ」としみじみつぶやく。その呼吸がなかなかよい。


初期の寅さんは、おいちゃんが嘆くように、狂気にあふれたバカをしでかす。例えば、第3話の「フーテンの寅」では馴染みの女中のためにとらやで結婚祝いの宴を開いて、ふたりの熱海への新婚旅行のハイヤー代まで、負担して、その請求をとらやに付け回していた。義理と人情のためであるとはいえ、やりすぎだ。寅さんは、俺たちはあの二人になんの義理もねえじゃねえか、と咎めたおいちゃん相手に、そんなのは非人情だと大げんかして、挙句には、庭先で、義理の弟博に殴られ、一本背負いで投げ飛ばされていた。家庭内893のバイオレンス・ムーヴィーである。

落語の中には、与太郎という人物が出てくる。おバカキャラである。笑点にも、林家木久扇師匠のように、役割としてのおバカキャラがいるが、落語における与太郎は、実は、親に早くに死に別れ、天涯孤独であり、仕事には真面目だが、知恵が足りなく、トラブルメーカーであり、それゆえに、周囲の善意と人情で生きているという濃密な設定があって存在している。寅さんも与太郎同様の出生に暗い秘密を抱えたおバカキャラなのである。

フィクションに欠かせない、おバカキャラの役割は、無知の知というべきか、バカが、無知ゆえに世間の常識に、真っ当な疑問符を投げかけることで、世間の常識に潜む欺瞞や矛盾をあぶり出し、世間に猛省を促すことにある。

イワンも、与太郎~寅さん系統のおバカキャラである。金貨を生み出す魔法で、どんどん金貨を作って配ってしまう。それによって、金貨の購買力平価が下がり、金貨は子供のおはじきとしての価値しか無くなる。

しかし、考えてみれば、金貨が増えると価値がなくなるというのは、通貨の本質を突いているのである。

目下、日米欧が、リーマンショック以降大規模な金融緩和を続けてきたため、インフレが加速している。コロナ禍の財政出動もあって、政府と日銀は、国債やお金を発行しすぎて、お金の価値がなくなり、物の値段が上がっているのである。イワンや悪魔によって、金貨がおはじきの価値しかなくなるのと本質的には同じことが起こっている。

通貨の発行は、信用創造なのである。通貨は、価値の生産に投資されれば、通貨としての信用を維持できるが、価値の生産に投資されなければ、その通貨は、不動産や仮想通貨など、投機目的に使用される。

投機で使用された通貨は、価値を生産しないので、本来価値のないものの値段がどんどん上がっていくことになる。


それがバブル景気である。バブルが弾ければ、急激な信用縮小が起こり、資産価値が下がって、含み損を抱えたまま、資産が売れずに塩漬けさせられるハメになる。投機目的で買った、1億円のマンションが、半額になれば、一般人は、真っ青である。マンションなら、最悪、自分が住めばいいが、仮想通貨ならお手上げである。

イワンは、手にマメをこさえて働かなければ価値を創造できないことを説いている。貨幣だけあっても、貨幣そのものは交換価値であり、その使用価値は、おはじき程度しかない。それは、水には交換価値はないが、飲んだり、体を洗ったりと使用価値があるのと好対照の現象である。

イワンは、使用価値や交換価値といった抽象的な問題を理解できないゆえに、信用創造の欺瞞を暴き出したのである。金貨をおはじきにするというのは、そういうことだ。こういうおバカの行為が、信用創造のシステムの虚を突くのだ。

渋沢栄一曰く『論語と算盤』、つまり、道徳的価値と経済的価値は一体である。このまま信用創造システムが機能不全に陥り、インフレが進むと、2024年に流通する渋沢の新一万円札は、今の一万円札の札の半分の価値になってるぞ! 


とりあえず、みんな~、『論語』を暗唱して、青天を衝け! 

セイ! セイ!

(おわり)

読書会のもようです。


お志有難うございます。