「手で書く」ことの意味

僕は講義だけでなく、企業のお手伝いをさせて頂くときも、「手で書く」ように指示することがあります。
講義中やその場で行う作業なら、手で書くことになりますが、宿題や時間のかかる作業となると、ついついパソコンなどに頼りがちに。
確かに手で書くという作業は疲れますし、時間がかかります。僕も人のことを言えませんが、読めるけど書けない漢字がかなり増えました。普段から、文字や文章を書き慣れていない人には、かなり苦痛な作業だと思います。

それでもなやり「手で書く」ことには意味があります。

そこで今日は、「手で書く」ことの意味について考えたいと思います。

・「書く」とは「筆っする」こと
「書くとは筆っすることであって、打つことではない」
博士課程に進学した頃、ある先生から言われた言葉てす。

今でも勉強中てはありますが、まだまだ論文と呼ぶには、かなりお粗末な文章しか書けなかった頃、とにかく手で書くように指導を受けました。

その先生は、お亡くなりになるまで、パソコンを使われず、いつも原稿用紙を持っておられた方でした。
ある日、別の先生方が研究室(博士課程から部屋をもらえます)に来られ、手書きでまとめているのを見て、「素直でよろしい」と、笑って仰いました。そこで、たずねてみると、こう教えてくれました。
90年代にはいり、卒論などもワープロが一般化しましたが、最初からワープロを使用したものは、あまり良くなかったそうです。
多くの人は、機械で文章を書くと、自然と手が打ちやすい言葉を選んてしまうそうてす。しかも当時のパソコンの主流はデスクトップ、ノートPCを持ち歩く時代ではありません。携帯電話にもまたメール機能がない頃です。毎日パソコンを使う時代ではありませんから、考えて「書く」作業と、「打つ」作業を、頭の中で同時に行うのはかなり難しい作業です。
そのため、最初から機械で文章を書くと、かなり中身のないものになるとのことでした。

実は、これは今でもあまり変わりません。職業として文章を書くような人でない限り、考えながらキーボードを打つということは困難ですから、どうしても‘薄い’文章になります。
また、手が打ちやすい言葉を選んてしまうので、同じ単語や表現が繰り返されて、幼稚に見える文章になりやすいです。

指導して下さった先生は、機械を使わないので、この違いが解らないものの、学生の文章の質が明らかに下がるため、そのように指導して下さったとのことでした。

このことは、自分が教壇に立って、すぐに感じることになりました。

これは僕の個人的な意見ですが、職業として常に文章を書いている人は、普段、話をするのと同じ感覚で文章を書けます。ただしこれにはかなりの訓練が必要だと思います。

そういう意味では、携帯電話ネイティブやスマホネイティブの世代は、機械で会話するように文章を書くことができるのかもしれません。しかし話し言葉と書き言葉は違います。ですからやはり、「手で書く」必要があるのです。

・文章の温度
これは上述の、「考える」と「書く」の関係にも起因することですが、薄い文章は、必然的に言葉や文章の温度が下がります。

人が何か書くとき、その人が気になっていることや、大切だと思うことから書きます。それらは往々にして、書かれた文字が大きかったり、丁寧だつたり、力強かったりします。逆に形式的に書いたことや、体裁を繕ったものは、小さく、雑で弱々しくかったりします。
書かれた内容以上に、文字はその人の気持ちを表します。

そういえば、学生さんの答案を見ていて、面白いことがありました。

大学の講義では、僕は、持ち込み自由、論述式の試験を行っていました。たまに優秀な学生さんが模範解答を作り、他の学生さんがそれをもらって、試験中に写すということがありました。

僕はあえて、見て見ぬ振りをしました。

ある程度理解している学生さんは、その模範解答を元に、自分で答案を書きます。そうでない学生さんは、一部を変えながら、ほぼ丸写しをします。
自分で考えて答案を書いた学生さんと、そうでない学生さんは、、、最初の3行から5行を読めば、どれくらい理解しているのか、だいたい判ります。またあるとき気づいたのですが、答案の丁寧さと、出席率は、そこそこ比例していました。

手書きの答案で、これほどの差がありますから、思慮が不十分な、機械で書いた文章が、とても薄いものになるのは、想像に難くないてしよう。

僕か広告に携わることがありますが、時々目にしてうんざりする言葉があります。それは。「信頼」とか「親切丁寧」「真面目」というものです。
おそらく広告主から何も言葉が出てこないのでしょうが、それでもその広告を作った会社も、、、。

広告のそうした言葉を見て、「よし、この会社に発注しよう」と思う人はいないでしょう。

「手で書く」ことには、とても大きな意味があります。

もし「手で書く」ように指示された方は、、、もしかしたら、「熱意や真意が見えない」と、言われているのかもしれませんね。

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