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腰痛を診る上で必要な知識② 椎間関節性腰痛、椎間板性腰痛、腰椎椎間板ヘルニア、仙腸関節性腰痛


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椎間関節性腰痛
 椎間関節性腰痛とは、椎間関節の構造および機能変化を起因とする痛みと定義され、腰痛全体に占める頻度は、約15~20%と推定されている。一般的には、片側または両側の腰痛で、神経学的脱落症状がなく、脊柱の伸展による疼痛増強や可動域制限、椎間関節部の圧痛、および椎間関節部周囲の筋緊張などが認められた場合に、椎間関節性腰痛と診断されることが多い。
椎間関節性腰痛の病態としては、
①椎間関節の構成体における損傷や炎症に由来する侵害受容性疼痛、
②同一高位の棘間筋、多裂筋の筋攣縮および筋伸張制限・滑走性低下による筋・筋膜性疼痛の合併、
③椎間関節における滑膜炎が隣接する神経根へ波及する神経障害性疼痛、などさまざまな経路が想定されている。
棘突起・椎弓
 腰椎は椎体とその背側にある椎弓から構成される。左右の椎弓(解剖学的には椎弓板)が合わさる正中部から背尾側(後下方)へのびる突起を棘突起と呼び、棘上・棘間靱帯や多裂筋などの筋肉が付着する。棘突起は腰背部の正中溝で触知可能で、体型などよりわかりにくい場合には前屈位をとってもらうとよい。左右の腸骨稜後部を結ぶJacoby線はL4棘突起の指標となる。
診断ピットフォール
椎間関節性腰痛の診断のピットフォールとしては、腰椎の伸展や回旋によって片側の腰殿部痛が誘発され、一見、椎間関節性腰痛に類似した症状、身体所見を呈する病態が挙げられる。その多くは、画像検査(特にMRI-STIR)により鑑別が可能である。以下に提示する。
1.腰椎分離症(疲労骨折)
2.筋・筋膜性腰痛の合併例
3.仙骨疲労骨折
4.神経根性腰痛
5.Bertolotti症候群
6.棘突起インピンジメント障害
7.仙腸関節障害
8.腫瘍性病変
詳細は、成書を参考頂きたい。

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椎間関節性腰痛を疑うべき身体所見

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椎間板性腰痛

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 椎間板性腰痛とは、椎間板を構成する線維輪、髄核、あるいは椎体終板の神経終末が刺激されて生ずる腰痛と定義される。椎間板は、洞脊椎神経と交感神経管の両者に支配を受けており、線維輪の外側1/3、前縦靱帯、および後縦靭帯に、神経線維と感覚受容器が分布している。正常では、髄核に神経線維は存在しないが、変性の過程で感覚神経の自由神経終末が、変性髄核に侵入する。変性椎間板内では、さまざまなサイトカインが産生されており、これらが自由神経終末を刺激することにより疼痛が惹起される。また、骨には疼痛伝達ペプチド含有の感覚神経の存在が報告されており、この神経が刺激されることにより疼痛が増強する。
 椎間板は、青年期からすでに断裂、変性という病理変化が始まっており、腰痛と椎間板変性には関連がないとする報告がある一方、急性腰痛と椎間板損傷の関連を示唆する報告も存在する。急性腰痛と診断された腰痛のなかには、一定の割合で椎間板性腰痛が存在すると考えられている。急性腰痛発症後、亜急性から慢性の経過をたどり、画像上に椎間板変性が認められた場合、臨床現場では「椎間板性腰痛」として扱うことが多い。
●身体所見 
 一般的に腰椎の屈曲時と座位時に腰痛が発現・増強すると理解されている。これは、腰椎屈曲位や座位で椎間板内圧が上昇するという生体力学研究が根拠になっている。しかしながら、腰椎伸展時痛や立位時での腰痛が主訴の場合もある。腰椎屈曲時に腰痛が誘発さる場合、筋・筋膜性腰痛との鑑別が重要である。鑑別には、棘突起圧迫による腰痛の誘発や、筋伸張時痛や筋付着部の圧痛、筋・筋膜への徒手介入による疼痛軽減などが指標となるが、診断制度について明確に述べたエビデンスは乏しい。

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 椎間板には、髄核、線維輪、終板という3つの主要な構成要素がある。髄核はゲル状の性質を有しており、水分と様々なムコ多糖類を主成分としてその中にコラーゲン線維が懸濁しており、生体外で揺すると粘性とある程度の弾性反応の両方が出現する。健康な髄核を説明するのに最も適切な表現は、見た目にも感覚的にも濃い痰のような感じである。生体外の試験を行った際、圧縮を加えたら中身が噴出した頃があり、実際に壁に張りついた。髄核と線維輪の間には明確な境界はないが、線維輪の層はよりはっきりしており、中心から外側に放射状に広がっている。各層のコラーゲン線維は斜めに配列している(この傾斜は同心円状の各層でそれぞれ逆方向を向いている)。コラーゲン線維の端は最外層の部分でSharpey線維によって椎体に固着しており、内側の線維は終盤に付着する。椎間板の切断面は、胸椎部では丸みを帯びた三角形、腰椎部では楕円形であり、ねじりや髷に関する異方性が示唆される。

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椎間板性腰痛に多い所見
・骨盤後傾位での腰痛の誘発.
・立位前屈時の腰痛誘発と前屈可動域制限.
・障害椎間上下の棘突起に限局する圧痛(L4/5椎間板障害の場合にはL4とL5棘突起の圧痛を認め、椎間関節部に圧痛を認めない).

椎間板ヘルニア
 腰椎椎間板ヘルニアとは、椎間板を構成している髄核または線維輪内層が、周囲を取り囲んでいる線維輪を穿破して、本来の位置から周囲へ向かって突出した状態をいう。広義の椎間板ヘルニアには前方突出や椎体内突出も含まれる。臨床的に問題となるのは神経組織と接している後方への突出である。MixterとBarrが椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛の概念を確立した。本疾患の発生は、男性に多く(男女比は約2~3:1)、好発年代は男女ともに20~40歳代である。高位別では、L4/5椎間、次いでL5/S1椎間が多い。若年者ではL5/S1椎間が多く、40歳以上ではL4/5tuikanngaooi 。L4から頭側レベルは年齢とともに増加する傾向にある。
腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会提唱の診断基準

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●身体所見
 一般に、腰椎前屈で症状が増強する。加えて、神経根刺激症状が特徴的である。まず、仰臥位で片側下肢のSLRを行うSLR testが陽性の場合は、L4/5あるいはL5/S1椎間板ヘルニアが疑われる。ただし、高齢者では神経根の圧迫が存在してもSLR testの陽性率は低い。多くは同側の下肢をSLRさせると放散痛を訴えるが、反対側の下肢を挙上させた場合にも患側下肢に放散痛を訴える場合には、contralateral sign陽性とし、神経根症状としての感度は低いが特異度は高い、一方、腹臥位で下腿を上方に引き上げることにより股関節を伸展させる大腿神経伸張テスト(FNS test)が陽性の場合は、L3/4あるいはそれより上位の椎間板ヘルニアが疑われる。

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 また、椎間板ヘルニアにより障害を受けた神経の支配領域の知覚、運動、および深部反射に異常が生じる場合がある。詳細な下肢の神経学的検査により、障害されている神経根を推定することが可能となる、中心性で大きなヘルニアの場合には、まれに両下肢、会陰部の以上知覚や膀胱直腸障害などの馬尾障害を呈することがあり、早期手術の適応であるため、見逃してはならない。

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 仙腸関節性腰痛

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 仙腸関節は解剖学的にみても自ら動く構造ではないが、他動的可動性を認め、体幹と下肢の間で歩行や立位アライメント調整(体幹前後・左右の傾斜・骨盤の捻れないし歪みなど)を行う、いわば「建物の免震構造」に類似した重要な姿勢調整機能を有している組織である。
 仙腸関節はわずかな可動域で大きな負荷に対応しているため、不意の外力や繰り返しの衝撃で関節に不適合が生じて、関節の機能障害=仙腸関節障害を起こしやすい。仙腸関節には大きく分けて、①化膿性関節炎などの関節腔内の病変と、②関節の機能障害=仙腸関節障害の2種類があるが、大部分は仙腸関節障害である。仙腸関節障害は腰殿部痛患者の15%程度を占めるといわれ、決してまれな状態ではなく、画像検査所見に乏しいため、機能的な評価を行うことが必要となる。
 仙腸関節に微小な不適合を生じると、後方靱帯が過緊張となる。この靱帯内にある知覚神経終末や侵害受容器が刺激されて、関節の機能異常を痛みとして知らせているものと考えられる。この間S熱の不適合は、重量物の挙上や不意の動作で突然生じ、急性腰痛症として発症することがある。また、不適合が解除されないと慢性腰痛症の原因にもなる。
 仙腸関節裂隙の外縁部(PSIS付近)の殿部痛と鼠経部痛、また多くの例でデルマトームに一致しない下肢症状を伴う。仙腸関節障害の役50%で殿部痛に鼠経部痛を伴う特徴がある。椅子座位が困難な例が多く、重症例では座位時間は5~10分程度が限界で患側の坐骨を座面から浮かせるようにして座っているのが特徴的である。一方で正座は楽で長時間座れることが多い。仙腸関節障害ではPSIS、坐骨結節、鼠経部の痛みが増悪することが多く、座位時疼痛領域からも腰椎椎間板ヘルニアとの鑑別が可能である。

引用・参考文献
加藤欽志:椎間関節性腰痛、臨床スポーツ医学、医学書院、2020年、9月、P1008~1014
金岡恒治、成田崇矢:腰痛のプライマリ・ケア、文光堂、2019年、5月
成田崇矢:脊柱理学療法マネジメント、MEDICAL VIEW、2019年、2月
小山貴之他)監訳、Stuart McGill著:腰痛エビデンスに基づく予防とリハビリテーション原著第3版、NAP、2017年、5月
齋藤昭彦監訳:腰椎・骨盤領域の臨床解剖学原著第4版、エルゼビア・ジャパン、2011年、7月
片寄正樹編:腰痛のリハビリテーションとリコンディショニング、文光堂、2013年、1月
吉田眞一:部分別テクニック―腰・殿部診療におけるエコーの有用性―、整形・災害外科、金原出版、2020年、9月、P1345~P1351
岩﨑 博執)、山田 宏監):脊椎エコーのすべて 頚肩腕部・腰殿部痛治療のために、日本医事新報社、2021年、5月

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