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むち打ちを診る上で必要な知識③筋

頚部の運動に関わる筋肉
 頚椎には多くの筋群が存在し、各動作においてそれらが複雑に関与するため、各筋の働きを個々に理解するのは難しい。頚椎の前方には、浅層に後頚筋と胸鎖乳突筋が、深部に頚前筋群や斜角筋群が存在する。頚前筋群には前頭直筋、頭長筋、頚長筋、外側頭直筋が含まれる。一方の後頚部には、最浅層に僧帽筋と胸鎖乳突筋が存在する。1層下には板状筋群が、さらに1層下には頭半棘筋や頚半棘筋や脊柱起立筋が、そして最深層には棘間筋や回旋筋、多裂筋が存在する。板状筋群には頭板状筋や頚板状筋が、脊柱起立筋には頭最長筋や頚最長筋、頚腸肋筋がそれぞれ含まれる。軸椎より頭側の最深層には、大後頭直筋、小後頭直筋、下頭斜筋、上頭斜筋からなる後頭下筋群が存在する。頚椎の前屈には、主に胸鎖乳突筋と頚前筋群が、ほかに舌骨筋群や斜角筋群なども関与する。頚部の後屈には、主に板状筋群、後頭下筋群、脊柱起立筋、頭半棘筋、頚半棘筋が関与する。頚椎の側屈には、頚前筋群、胸鎖乳突筋、斜角筋群、後頭下筋群、脊柱起立筋が作用する。頚椎の回旋では、回旋と同側で板状筋群、脊柱起立筋が、反対側で胸鎖乳突筋が作用する。後頭下筋群や頭半棘筋、頚半棘筋、回旋筋、多裂筋の後頚部の深層部も回旋に関与している。
頚肩腕部の筋

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 体幹から起こり上肢帯に至る筋のうち、背側に位置する僧帽筋、肩甲挙筋、大・小菱形筋は肩甲骨の運動

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に作用し、外来診療におけるいわゆる肩こりの治療の際に重要な筋群である。
上肢帯背側の筋群(僧帽筋、肩甲挙筋、大・小菱形筋)
僧帽筋
肩甲挙筋
大・小菱形筋

僧帽筋、肩甲挙筋、大・小菱形筋については肩関節周囲炎、腱板断裂を診る上で必要な知識③筋、腱板断裂をご参照ください。

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胸鎖乳突筋

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 胸鎖乳突筋の胸骨頭は胸骨柄上縁、鎖骨頭は鎖骨の内側1/3から起こり、乳様突起から後頭骨上項線外側部に停止する。
作用:頚部の同側への側屈と反対側への回旋、頚部の屈曲、呼吸の補助
支配神経:副神経、C2・C3
頚部固有背筋
頭・頚板状筋

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 頭板状筋は、C4~Th3棘突起から起こり、後頭骨上項線の外側部および乳様突起に停止し、頚板状筋はTh3~Th6胸椎棘突起から起こり、上位頚椎横突起に停止する。
作用:頭頚部の伸展、頭頚部の同側への側屈と回旋
支配神経:C1~C6の後枝
頭・頚半棘筋、多裂筋、回旋筋

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 半棘筋・多裂筋・回旋筋はいずれも横突起から起こって斜めに上行し、棘突起に付き横突棘筋と言われる。長いものから順に、半棘筋、多裂筋、回旋筋である。
 頭半棘筋は、C4~C6の横突起から起こり、後頭骨上項線と下項線の間に停止する。頚半棘筋は、Th1-Th6の横突起から起こり、C2-C6棘突起に付着する。多裂筋は半棘筋より横突起から起こり2~3個頭側の棘突起に付き、回旋筋は多裂筋のさらに深側にあり短く、横突起から起こり1~2個頭側の棘突起基部に付く。
作用:半棘筋は頭部・頚椎の伸展、頭部・頚椎の同側への側屈と対側への回旋。多裂筋は伸展とわずかの回旋。回旋筋は脊柱の伸展と回旋
支配神経:脊髄神経後枝
脊柱起立筋(頚腸肋筋、頭・頚最長筋、頚棘筋)

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 脊柱起立筋は外側から腸肋筋、最長筋、棘筋からなる。
 頚腸肋筋は、第3~第6肋骨上縁から起こり、C4-C6横突起に停止する。頚最長筋は、Th1-Th5横突起から起こりC2-C6横突起(後結節)に付き、頭最長筋はC3-C7とTh1-Th3横突起から起こり、側頭骨乳様突起後縁に付着する。
作用:3筋は共同して働き、頭部や脊柱を伸展して脊柱を起立させる。同側に頭頚部を側屈と回旋させる。
支配神経:脊髄神経後枝
後頚筋(斜角筋、椎前筋)
 後頚筋は頚椎前面の椎前筋群と側面にある斜角筋群がある。
前・中・後斜角筋

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 斜角筋は、頚椎横突起から起こり、上位の肋骨に停止する。それぞれの起始・停止は、前斜角筋がC3-C6横突起前結節から第1肋骨、中斜角筋がC2-C7横突起後結節から第1肋骨、後斜角筋はC4-C6横突起後結節から第2肋骨である。
作用:頚部前屈や側屈、呼吸の補助
支配神経:C3-C7の前枝
頭・頚長筋

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 頭長筋は、C3-C6横突起から起こり、後頭骨底部下面に停止する。頚長筋は3部に分かれ、その起始は上斜部においてC3-C5の横突起、垂直部においてC5-C7とTh1-Th3の椎体、下斜部においてTh1-Th3の椎体である。頚長筋の停止は、上斜部において環椎前結節、垂直部においてC2-C4の椎体、下斜部においてC6-C7横突起である。
作用:頭長筋は頭部の前屈、頚長筋は頚部の前屈、同側への側屈と反対側の回旋
 支配神経:頭長筋(C1-C3の前枝)、頚長筋(C2-C6の前枝)
後頭下筋群(大・小後頭直筋、上・下頭斜筋)
 後頭下筋は、C1(環椎)、C2(軸椎)から起こり、後頭骨に至り大・小後頭直筋、上下頭斜筋の4筋からなる。  
 大後頭直筋は、軸椎の棘突起から起こり、後頭骨下項線中央に停止し、小後頭直筋は軸椎の後弓から起こり、後頭骨下項線の内側1/3に付く。上頭斜筋は、環椎の横突起から起こり、後頭骨上項線と下項線の間に付着し、下頭斜筋は、軸椎の棘突起から起こり、環椎の横突起に付着する。下頭斜筋には伸展受容器が多く分布していることが知られており、筋紡錘の密度が、中位頚椎の起立筋に比して50倍程度に高く、明らかに張力センサーとしての意味が大きいことを物語っている。精密な運動調節制御における知覚機能の重要性が推測されるところである。軸椎に付着する大後頭直筋、下頭斜筋、頚半棘筋の走行や位置関係の理解は、上位頚椎手術の際に必要となる。

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作用:頭の後屈(伸展)、頭の側屈・回旋
支配神経:後頭下神経(C1)の後枝
引用・参考文献
長本行隆:頚椎のバイオメカニクス、Jpn J Rehabil Med Vol.53 No.10 2016、P746-749
岩﨑 博執)、山田 宏監):脊椎エコーのすべて 頚肩腕部・腰殿部痛治療のために、日本医事新報社、2021年、5月
Joseph E. Muscolino著:頚部の手技療法 写真で学ぶ治療法とセルフケア、総書房、2016年、1月
金彪他:脊椎手術における姿勢と運動機能維持―筋層構築的技法の有効性―、脊髄外科、Vol.29 No.1 2015年、4月



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