見出し画像

OCDを診る上で必要な知識⑤神経、血管

神経
 C5~8およびTh1神経根から形成される腕神経叢から分岐した神経のうち、肘において重要な神経としては筋皮神経、尺骨神経、正中神経、橈骨神経が挙げられる。
筋皮神経

画像1

 C5~8神経根から起こる外側神経束から分岐する。通常烏口腕筋を貫き、肘の主な屈筋である上腕二頭筋と上腕筋を支配している。上腕二頭筋と上腕筋への運動枝は、烏口突起から約15および20㎝遠位で各々侵入する。その後で上腕二頭筋腱の外側へ向かい、上腕筋膜を通って表層に出て、最終枝である外側前腕皮神経となり、前腕橈側皮膚に分布する。
正中神経

画像2

 C5~Th1神経髄節で構成される腕神経叢の外側神経束と内側神経束の分枝である。外側神経束からは主に感覚神経が、内側神経叢からは主に運動神経が進入する。この神経は上腕では枝を出さない。上腕動脈の前外側に沿って遠位へ向かい上腕中央付近で動脈の前方を横切り、内側に沿って上腕筋と内側筋間中隔の間を遠位へ進む。その後上腕二頭筋腱膜(lacertus fibrosus)の下を通り、肘窩へ到達する。上腕部で上腕二頭筋の尺側、上腕筋の表層を走行し、肘jt前面で上腕二頭筋腱の内側、上腕二頭筋前腕筋膜の深層、円回内筋上腕頭やFDSの深層、手根管を通り手部に至る。

画像3

手指伸展、手jt背屈、前腕回外、肘jt伸展、肩jt外転により伸張する。また、正中神経は手jt背屈により、遠位に偏位し、肩jt外転により近位に偏位、肘jt伸展により上腕部では遠位に前腕部では近位に偏位する。正中神経の絞扼部位とされる手根管の容積は手jtの肢位によって変化し、手根管近位部と遠位部では手jt背屈位、中央部では掌屈位で最少となる。手根管における正中神経の断面積は手jt中間位で最大となり、背屈位と掌屈位では減少する。
正中神経の絞扼部位とされる手根管の容積は手jtの肢位によって変化し、手根管近位部と遠位部では手jt背屈位、中央部では掌屈位で最小となる。手根管における正中神経の断面積は手jt中間位で最大となり、背屈位と掌屈位では減少する。
 肘から前腕にかけて正中神経には様々な絞扼性神経障害を起こすとが報告されている。上腕骨内側にsuprachondylar processのある人では上腕骨内上顆との間にStruthers‘ ligamentを形成しこの下を正中神経および上腕動脈が通過することで圧迫が起こる。

画像4

上腕二頭筋腱膜の副腱での前骨間神経麻痺や上腕筋腱の弾発で正中神経知覚枝の麻痺も報告がある。円回内筋の2頭間にある線維性バンドも圧迫の原因となり、円回内筋症候群として知られる。

画像5

ほかに浅指屈筋の線維性アーチ、長母指屈筋の副筋頭(Gantzer筋)、palmaris profundus、短橈側手根屈筋などの破格筋による圧迫も報告がある。またParsonageとTurnerによって報告された神経痛性筋萎縮症は前骨間神経に稀に起こり、前角細胞との関与やウイルス疾患による発症も疑われているが、近年この症状を発症した神経に砂時計様のくびれが認められるという報告も多い。

画像6

橈骨神経

画像7

 C5~Th1神経髄節で構成される腕神経叢の後神経束の分枝である。腋窩動脈と上腕動脈の後方を通り、この分枝である上腕深動脈と共に上腕三頭筋長頭の前を通ってその深部を後外側へ向かい、上腕三頭筋外側頭の深部、内側頭の浅層を通って螺旋溝の知覚を走行する。その間に上腕三頭筋への筋枝と後前腕皮神経を出した後、外上顆の約10㎝近位で外側筋間中隔を貫き上腕前方コンパートメントへ入る。ここでは上腕筋と腕橈骨筋の間を走行しこれらの筋に筋枝を与える。さらに遠位で長橈側手根伸筋に筋枝を出した後に肘jt橈側前方に至り、橈骨神経は橈骨神経管内で浅枝と深枝(後骨間神経)に分枝する。橈骨神経浅枝は腕橈骨筋や橈側手根伸筋の深層を通り、長母指外転筋や短母指伸筋、伸筋支帯の表層を通り手部に至る。

画像8

後骨間神経は回外筋前縁のFrohse’s arcade、回外筋深層を通り遠位に走行する。

画像9

橈骨神経は肩jt軽度外転、伸展、内旋、肘jt伸展、前腕回内、手jt尺屈、掌屈、手指屈曲で伸張する。橈骨神経は手関節近位部において手指屈曲、手jt掌屈、尺屈により遠位に偏位し、肩jt外転、前腕回内により遠位に偏位する。一方、肘jt近位部では手指屈曲、手jt掌屈、尺屈、前腕回内により遠位に偏位し、肩jt外転により近位に偏位する。
 橈骨神経においても上腕から前腕にかけて様々な部位での絞扼性神経障害が知られている。上腕骨後方での就寝時における圧迫障害はSaturday night plasyとして有名であるが、重労働やスポーツもよる筋負荷により上腕三頭筋外側頭による橈骨神経の圧迫が起こり、麻痺に至った報告もある。また上腕外側筋間中隔の線維性の線維性アーチによる麻痺も起こりうる。前述したarcade of Frohseによる絞扼、同部でのガングリオン、外傷などは回外筋症候群として知られ、後骨間神経麻痺を起こす。また前骨間神経同様に後骨間神経でも神経痛性筋萎縮症および砂時計様くびれの報告が散見される。
ほかに難治性外上顆炎との鑑別上重要視されているされているものとしてRolesらによって提唱された橈骨神経管症候群がある。

画像10
画像11

橈骨神経管は腕橈関節前方で約5㎝の長さにわたり、外側は腕橈骨筋、長・短橈側手根伸筋、内側は上腕二頭筋腱と上腕筋、後方は腕橈関節包で形成される。前方は腕橈骨筋、長・短橈側手根伸筋が外側から前方へと横切ることで屋根を作る。佐藤は短橈側手根伸筋腱性起始部の橈骨神経への被覆程度と形態および回外筋入口部の線維性バンドの細分類を示し、絞扼との関係を詳細に検討している。

画像12

橈骨神経管症候群は臨床症状としては外上顆炎と似て、肘外側部痛を起こし、Thomsen’sテスト、中指伸展テストとも陽性であるが、通常運動麻痺を伴わず、知覚鈍麻は軽度もしくは認めない。鑑別診断としては最大圧痛点が外上顆より遠位にあり、橈骨神経管上の圧痛もみられ、腕橈骨筋と短橈側手根伸筋との間で後骨間神経を圧迫し両前腕を比較することが重要である。また抵抗かに前腕回外することや駆血による症状の誘発、海外近位局所麻酔注射(後骨間神経ブロック)することで症状の軽快が得られることも鑑別の上で重要とされる。
尺骨神経

画像13

 尺骨神経はC7~Th1神経髄節で構成される腕神経叢の内側神経束の最終枝である。尺骨神経は上腕近位部で、腋窩動脈、上腕動脈の内側で遠位へ向かって走行する。上腕のほぼ中央で上腕動脈と上尺側腹側動脈(SUC)が分岐するとこれと共に背側に向かい内側筋間中隔を貫き、この後方で上腕三頭筋内側頭の前方を走行する。ついで肘頭内側、内上顆後方を通り、肘部管に入る。この直前で肘jtへの関節枝を出し、さらに肘部管内で尺側手根屈筋に筋枝を与える。尺側手根屈筋の2頭間を通り抜けた後、深指屈筋の尺掌側に出て手jtへ向かう。この部位で深指屈筋尺側部への筋枝を出す。上腕前方コンパートメントを走行し、上腕中央部で内側筋間中隔を貫通し、後方コンパートメントに入る。その後、Struthers’arcade、肘部管、FCUとFDSの深層、Guyon管を通過し手部に至る。

画像14

尺骨神経は手指伸展、手jt背屈、手jt撓屈、肘jt屈曲、肘jt外反、肩関節外転により伸展する。特にStruthers‘arcadeのような絞扼部位での伸張が大きい。また、Guyon管より近位では、手指伸展、手jt背屈、手jt撓屈、前腕回内により尺骨神経は遠位に偏位し、肘jt屈曲、肩jt外転により近位に偏位する。一方、肘部管より近位では、手指伸展、手jt背屈、手jt撓屈、前腕回内、肘jt屈曲により尺骨神経は遠位に偏位し、肩jt外転により近位に偏位する。尺骨神経の絞扼部位である肘部管の断面積は肘jt90°屈曲位で最大となり、肘jt屈曲角度の増加に伴い減少する。このとき、尺骨神経は扁平化しながら内側上顆に接近し、内側上顆に乗り上げたり、内側上顆を超えたりすることがある。

画像15

 尺骨神経における上腕から前腕にかけての絞扼性神経障害は他の神経よりも頻度が高い。Struthers‘ arcadeでの絞扼や肘部管症候群がよく知られている。
 Struthers‘ arcade(腱弓)じゃStruthersによって報告された靱帯と同じレベルで尺骨神経麻痺を起こす膜様物を1973年にKaneが”arcade”と記載して以来用いられている言葉であり、Struthers自身による記載はない。上腕骨内上顆より約8㎝近位に存在し上腕遠位部の深層筋膜が肥厚したものと、上腕三頭筋内側頭の浅層筋線維、内側上腕筋間中隔および内側上腕靱帯の付着部とにより構成されている。狭義ではtypical Struthers’ arcadeとも言われる三頭筋から内側筋間中隔に至る筋膜の肥厚部を示すが、尺骨神経の表層や深部に多数の靱帯様組織があるタイプや三頭筋内側頭に尺骨神経が埋もれる型などが存在する。上肢の外転・外反と上腕三頭筋の収縮を反復するようなスポーツ動作により神経が繰り返し圧迫を受けることが要因として考えられている。尺骨神経神経溝における遅発性尺骨神経麻痺に対する前方移行術の際、この腱弓が存在する場合にはこの部位での新たな絞扼障害が起こる可能性がある。
 肘部管症候群は肘部管での絞扼性神経障害であり、上肢の絞扼性神経障害では手根管症候群に次いで頻度が高い。Osborneが1959年に内上顆から肘頭へ、さらにFCUの2頭間の三角形を覆う線維を発表し、後にOsborne bandやOsborne ligamentと呼称されているが、この線維には様々な呼称があり、統一性が取れていない。内上顆から肘頭への固い線維のみを滑車上靱帯や肘部管支帯Osborne自身はこの2つを含めて絞扼の原因と記載している。
 O‘Driscollらは内上顆から肘頭への固い線維のみをcutibal tunnel retinaculum(CTR)、尺側手根屈筋2頭間の線維は腱膜として4つに分類している。
 Type0はCTR欠損群で27肢中1肢に、Type1aはCTRが緩く、肘最大屈曲で緊張するもので27肢中17肢に、Type1bはCTRが飛行士て固く肘屈曲90°から120°で緊張するもので27肢中6肢に、Type2はCTRの上に滑車上肘筋が存在するもので27肢中3肢に存在すると報告した。このうちType0では肘の屈伸に伴い尺骨神経脱臼が観察されており、屈伸を伴うスポーツ動作で尺骨神経障害の原因となりうる。

画像16

 また尺側手根屈筋の深層での腱膜もしくは筋膜構造も尺骨神経を圧迫する可能性がある。これは1986年Amadioらによって屈曲回内筋群深部腱膜(deep flexor pronator aponeurosis)として報告されているが、2007年Siemionowらにより、さらに詳細に検討され、2つのタイプに分けられるとしている。Type1は内上顆から平均5.6㎝遠位まで筋膜がみられ、3ヵ所でバンド状に肥厚した部位がある。Type2は内上顆から平均7.7㎝遠位まで筋膜がみられ、4カ所でバンド状に肥厚した部位がある。これらの筋膜は尺骨神経の絞扼性神経障害を起こす素因であるとともに切離不十分であると肘部管症候群の単純除圧後に症状が残る場合や、尺骨神経前方移行の際にこの部位での新たな絞扼障害が起こる可能性が起こる可能性があるので注意が必要である。

画像17

血管
 肘周辺では上腕動脈から多くの分枝と吻合が起こり、側副血行路を作成している。Yamaguchiらの報告に詳細に記載されているごとく、この血行路には内側、外側、後方の3つのアーケードがあり、肘周辺の骨外および骨内血行を理解する上で重要である。

画像18
画像19

分枝
 上肢を栄養する腋窩動脈は大胸筋窩円で上腕動脈と名を変え、内側筋間中隔前方を走り上腕筋と上腕二頭筋の内側に接して下行する。最終枝である橈骨動脈と尺骨動脈に分岐するまで内側に正中神経が伴走する。
 前後の上腕回旋動脈を分岐後に上腕近位1/3で上腕深動脈を出し、その後肘近位外側で頭側側副動脈(RC)、中側副動脈(MC)に分かれる。上腕深動脈は14%では欠損し、この場合は上腕動脈からRC、MCの2つに分岐する。
 上腕動脈はさらに上腕遠位2/3で上尺側側副動脈(SUC)を分岐しさらに遠位で下尺側側副動脈(IUC)を分岐する。その後、肘窩の遠位で橈骨および尺骨動脈を分岐する。橈骨動脈の外側からは頭側反回動脈(RR)が尺骨動脈の内側からは前尺側反回動脈(AUR)ついで後尺側反回動脈(PUR)が分かれ、そのあと後方に向けて総骨間動脈が分岐し骨間膜の近位縁で前後の骨間動脈になる。後骨間動脈からさらに骨間反回動脈(IR)が分かれる。
吻合とアーケード
 上腕深動脈から分岐した後にRCは外側筋間中隔を貫き、橈骨神経と伴走、肘前方のスペースへ回り外上顆レベルでRRと吻合する。MCは上腕三頭筋内側頭を栄養しながら肘後方を下行しIRと吻合する。この4つで外側アーケードを形成する。上腕遠位2/3で上腕動脈より分岐したSUCは尺骨神経と伴走し肘後方を下行、後にIUC、PURと吻合して内側アーケードを形成する。また、RC、MC、SUCとIRは肘頭窩で吻合し後方アーケードを形成する。
骨外、骨内血行
 上腕骨骨幹部で骨皮質を貫く1本の血管が骨内動脈として遠位へ走行するが顆上部から入る穿通枝よりも近位すなわち肘頭窩の近位3~4㎝で終わる。この栄養動脈と遠位の局所循環の間には境界があり、骨内で吻合を形成しない。上腕骨外上顆へは前面からRCの枝が入り、後面では外側へ向かい上腕骨小頭から滑車の外側までを栄養しているが、滑車内側との間にはやはり境界がある上腕骨内上顆は前面ではIUC、後面では内側アーケードから栄養を受ける。滑車の側面ではIUCからの大きな枝が内側前方を下行し後方へ向かって取り巻くようにIUC自身やSUC、PURと吻合して環状の血管を形成しており、この環状血管から栄養される。これは滑車内側を栄養するが、中心溝までで終わり、先ほど記載したように外側との間に境界が存在する。
 橈骨では橈骨遠位骨幹部からの骨内栄養血管は近位へ走行し上腕二頭筋結節部で終了している。RRから多数の血管が回外筋を貫き、関節外で環状血管を形成し橈骨頚部を栄養している。この骨外血管は関節包のすぐ遠位から橈骨頚部を貫いている。頚部から入り骨内血管となると橈骨頭の辺縁まで近位へ走行する。橈骨頭はほとんどの場合、別の単一血管で栄養されており、橈骨粗面から後外側に平均120°の部位で尺骨と関節を成さない面から骨内へ侵入し、関節直下の横断面で血管叢を形成する。
 尺骨でも骨幹部からの骨内血行は近位へ向かい橈骨頭窩のすぐ遠位で終了する。尺骨近位への血行は後内側からはPURからの枝が、後外側からはIRからの枝が入っている。さらに肘頭窩で形成された後方アーケードが肘頭先端に血行を与えている。この3つの間で多数の骨内吻合があり、半数で上腕三頭筋腱付着部のすぐ近位の肘頭先端に血管叢を形成している。後内側のPURからの血管供給が優位である。鈎状突起先端には最小限の血管分布しかみられない。
引用・参考文献
坂田 淳編):肘関節理学療法マネジメント、MEDICAL VIEW、2020
菅谷啓之編):肩と肘のスポーツ障害診断と治療のテクニック、中外医学社、2012

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?