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【読書】『本音』小倉智昭/古市憲寿

今日ご紹介する本は、『本音』小倉智昭古市憲寿)(新潮新書、2024年2月20日発行)。

小倉智昭氏が、古市憲寿氏のインタビューに答える形式でまとめられた一冊。小倉氏は、フジテレビ系列の情報番組であった「とくダネ!」の司会を務めたタレント。古市氏は、社会学者、作家であり、メディアでの露出も多い。おふたりとも有名な方々なので、これ以上の説明は不要だろう。

本書の出版は、古市氏の発案によるものだったそうだ。「とくダネ!」出演者の食事会で、小倉氏が、癌を患って臨死体験を経て人生観が変わったという話をした。そこでそれを聞いた古市氏が、小倉氏の人生を残しておきたいと書籍化を思い立った。その結果、「小倉節全開」のこの本が生まれた。

以下、特に印象に残ったくだりについて引用してみる。

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老後の楽しみ、についてのくだり。

 老後の楽しみなんて本当に思い描いているほど楽しかないよ、って言いたいよ。お金を子どものために使うとか、老後のために、二人のために使うとかっていって残すのもいいのかもしれませんけど、それよりも若いうちにやれることがあったら、やったほうがいい。
 だって、海外なんて体が言うことを聞くうちに行かないと、今、僕に海外行けったって行けないもん。歩くのもきついしさ。ワインのおいしいとこ行ったって、自由に飲めないわけじゃない。

p53

自分に自信のない人へのアドバイス。

 それは自信のないところばかりを見てしまうからなんじゃないの、自分で。必ずいいところって、あるじゃないですか。何も秀でたものがないとしたら、どうやってそれを自分が身につけていくかは考えないといけないでしょうね。武器として何を持てるかという。後から持とうと思ったら持てるものってあるでしょ。
 資格を取ることも武器になるんだろうし、人よりもこういうことは強いとかって何か探せばあるはずだよね。
 人よりも劣っているところを気にするよりも、強みのほうをなるべく見るように考えたほうがいいんじゃないかと思う。

p131

雑談力や、間を持たせることについて。

 雑談をうまくしようなんて思わないほうがいいんじゃないかな。雑談は雑談でいいんだから、自分の思っていることをその場限りかもわからないけど、言葉として発していくうちに、回っていくんじゃないですか。
 ただ、何気ない雑談なんかでも、知識が多い人にはかなわないよね。引き出しが多い人は何話しても面白いもん。

p149

テレビでバランスを取るコメントをしていたことに関して。

 それはありますね。バランスを取ろうと自分なりに考えて物を言ったと思う。
 バランスを取れる人があんまりいなくなりましたよね。世の中に迎合しちゃったほうが得だっていう考えの人が増えているから。
 結局、長いものには巻かれちゃうっていう、迎合しちゃうところが多いじゃない。
 (中略)
 嫌ですね。民主主義とは違うからね、迎合というのは。もちろん徒党を組んだほうがいいこともあるけどね。そのほうが力になったりすることもある。
 ただ、自分の判断基準が曖昧なのに、ふわっと大多数について行っちゃうっていう人が多くなると、その人たちの声ばかりが大きく強くなっちゃう時代になるんじゃないか。

p166

 不祥事やスキャンダルがあれば一発アウト、という風潮についてのくだり。

(・・・)僕は不祥事やスキャンダルがあった人に対して、一貫してわりあい救う方向のコメントをする立場だったと思います。
 (中略)
(・・・)事柄にもよるでしょうが、何かあったら一発アウトで永久追放というような風潮はどうなんだろうと思いますよね。あまりにも、ちょっとやり方が厳しすぎないかと思う。

p172-173

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とても読みやすかった。古市氏のインタビューがお上手で、テンポ良く会話が進む。目の前にふたりが座っていて雑談をしている様子が想像でき、あっという間に読み終わった。

トピックは多岐にわたる。前半は、ご自身の闘病や身辺整理の話、マスコミの世界に入るまでのパーソナルなストーリーが中心となる。闘病の苦しみや老後への不安は、セレブも一般人も同じ。悩んだり迷ったり、感動したり、社会の風潮に疑問を持ったりする、ひとりの生身の人間だった。

後半では、マスコミの内情などを赤裸々に語る。司会を行っていた「とくダネ!」での出来事。ジャニーズ問題についての見解や、接点のあった有名人とのエピソードなどが、どんどん展開していく。

本書を読む前の私の小倉氏に対しての印象は、ストレートに忖度せず物を言う人、というものだったが、本書を読んで、その印象はますます強まった。しかし、そのためにたくさんのクレームや嫌がらせを受けたそうで、そのエピソードにはゾッとさせられるものもあった。他方で、同氏が擁護した相手からもらった感謝の手紙の内容には、大いに心打たれた。

曲がったことが嫌いで、過激な発言もいとわない。まっすぐな性格で、物言いが痛快で、お茶目。そして、思いやりがあって優しく、謙虚な面もある。ご自分に学がないと言ったり、勉強しなかったことを悔やんだりくだりもあるが、社会を見る目は鋭く、本質を突いていると思う。同氏のことはあまり知らなかったし、正直言ってあまり興味もなかったが、本書を読んで同氏を身近に感じ、好感が持てた。ぜひ、これからもお元気でお過ごしになってほしい。

小倉氏や古市氏のファンの方にはもとより、マスコミの「中の人」のリアルな気持ちに触れてみたい方にお薦めだ。

ご参考になれば幸いです!

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