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源氏物語「桐壺」、解説Part.2!光の一族、3代にわたる不遇の過去

この記事は、YouTube動画「砂崎良の平安チャンネル」の内容を、スクショとテキストでまとめたものです。動画で見たい方はYouTubeを、文章で読みたい方は当記事をどうぞ。

前置き:「桐壺」の巻、あらすじ

教科書でやるのは最初だけ…その後こそスリリング!

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  1. 天皇が、桐壺更衣という、身分低い妃を熱愛しました。

  2. 天皇と桐壺更衣の間には、本作の主人公・光が誕生しました。

  3. 他の妃らにいじめられた桐壺更衣は、病んで亡くなってしまいました。

  4. 数年後、桐壺更衣に似た女性・藤壺が妃になり、光と絆を育むように。

  5. 光は皇太子になれず皇族でもいられず、臣下に降りることとなりました。

この5項目のうち、古文の授業でやるのは、たいてい 1.  2. の部分です。なので、「お妃さまが一人、嫉妬されてめちゃめちゃイジメられた話」という印象を、持っておいでの方、多いんじゃないでしょうか。

実はコレ、ただの「ヤキモチのドロドロ」ではないのです! イジメる側もイジメられる側も後には引けない、一族の命運かかった宮廷バトルなのです。…という詳細が語られるの、【 3. 4. 5. の部分】なんですよねぇ。はい、教科書には載ってないのです(ページ数有限なので、仕方ないですが涙)。

でも、せっかく『源氏物語』ひもといたのに、ドキドキハラハラな部分、読まずに終わるのはモッタイナイですよね!という訳で、この記事を書きました。…たいそう長い前置きになってしまいましたが、「桐壺」巻の真の面白さ、ぜひ以下でお楽しみください!

本題:イジメの真相「次代の覇者は、どっち⁈」

息子のため一族のため、負けられない…!

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天皇に最も愛され、息子・光を授かった桐壺更衣。彼女を特にバッシングしたのは、弘徽殿(こきでん)という妃でした。

なぜ弘徽殿は、そんなに攻撃的なのか?

弘徽殿にも、息子(光の異母兄)がいたから

息子を皇太子にする戦い、母は負けられない!

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実は弘徽殿さんも、【母】だったんですねぇ。桐壺更衣が光(第二皇子)を産むより早く、第一皇子をもうけていたのです。

しかし我が息子をさしおいて、光の方が天皇に溺愛されている。

これは放っとくと、キケンな事態です。我が子に来るはずの皇太子の位、ひょっとしたら光に行ってしまうかもしれません

現代人が見過ごしがちな点:皇太子になるプロセス、その意味の重さ

皇太子の位は、すさまじい政治的駆け引きの産物

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現代人は、「皇太子になるのって、生まれた順でしょ?」と思ってしまいがちです。また、皇太子や天皇という地位は、現在は象徴的なものですので、その重要性もピンと来ないでしょう。

平安人の生きていた世界では、事情が違います。

まず、皇太子の決まり方ですが、
1. 生まれた順
2. 母の身分
3. 母の実家の権力
4. 運
5. 本人の資質(「帝王の相」があるか)
6. 父の愛情
などを材料に、主要貴族が(政治的思惑から)駆け引きを繰り広げ、大バトルの結果、決定されるものでした。

重視されるのは
2. 母の身分
3. 母の実家の権力
ですが、
4. 運
6. 父の愛情
も、なかなかに重いものでした。

光少年が、あまりにも父・天皇に可愛がられるので、弘徽殿さんが警戒するのも【当然】だったのです。

皇太子を出した一族、次世代を握る!

平安社会は「身内びいき!」

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現代の政治で、身内をロコツに取り立てたら、「縁故主義!」と批判されますよね? でも平安では、「縁故主義こそ当然」なものでした。

昇進の辞令にも、「天皇の祖父/おじだから○○の職を与える」と明記される時代だったのです。

現代のような、福祉や警察、裁判などのシステムがある時代ではありません。平安の人々にとっては、血族の団結こそ身を守るすべだったのです。そういう風潮ですから、「天皇さまだって、身内に補佐・護衛されるのが当然」と、誰もが考えていたのでしょう。

という訳で。皇太子位を得た一族、次世代の覇権を握る! 競争はむろん、熾烈になりました。

敗れた皇子は、未来を失う⁈

このように、成功の対価が莫大になると、失敗の代償も大きくなります。皇太子位争いにノミネートされ敗れた皇子たちは、なまじ「可能性があった」ばっかりに、その後は冷遇され村八分にされて、田舎で貧乏暮らし…なんて例もありました。まさに「勝てば官軍負ければ賊軍」です。

こういう訳で。光を産んだ桐壺更衣も、第一皇子を授かった弘徽殿さんも、お互い【もはや、譲れない】のです。

「桐壺」巻で展開された皇太子位バトル!

光と異母兄の、息づまる攻防…

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実は、『源氏物語』の原文を読むと、このあたりの攻防、とてもアッサリなのです。サラッと「異母兄さまが皇太子に決まりました」と書かれています。

こういう辺りが、現代人にとっては、「源氏って難しい!」と思う要因かもしれません。ただ平安人にとっては、文章のはしばしに権力争いが匂わされており、ハラハラドキドキが尽きない筆運びだったのです。

とはいえ、我らは現代人ですので、サラリ「異母兄さまの勝利!」では、理解できませんよね。なので端的に解説しますと、
異母兄:生まれた順、母の身分、母実家の権力、で盛大にリード!
光:資質、父の愛情でからくも張り合う!…運しだいでは行けるか⁈
という攻防だったのです。

しかし結局は、運も異母兄側に傾きました。光少年「あと一歩」のところで、皇太子位争い、負けたのです。

「あと一歩」で敗れたのは、光だけではない

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「桐壺」の巻では、重要な情報がぽろぽろと後出しされます。そのせいで、平安スタンスに慣れていない現代読者には、なかなか伝わりにくいのですが、要するに以下のような過去が述べられています

光の祖父は、「あと一歩」で大臣になれなかった

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光の祖父は、とても優秀な人でした。何しろ、平安貴族ヒエラルキーの頂点に近い、「大納言」という地位まで昇ったのですから。しかも、大納言たちの中でもトップ、筆頭の立場まで行ったのです。

あとは、時間の問題でした。大臣の誰かが引退するか亡くなるかして、ポストが空いたら光の祖父さん、晴れて大臣なハズだったのです(大納言もすばらしい地位ですが、でも大臣こそ頂点。両者の間には歴然たる差があったのです)。

ところが!光の祖父さん、運がありませんでした。自分の方が寿命保たず、亡くなってしまったのです。

「あと一歩」で大臣になれなかった。この弱みは娘、つまり光の母にのしかかります

光の母も、「あと一歩」で女御になれなかった

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父の早逝のため、光の母は、「大納言の娘」という身分で妃になることとなりました。実はコレ、致命的な弱みだったのです。

大臣の娘なら、晴れて「女御」という、高い身分の妃になれたハズでした。女御なら、天皇に熱愛されても、誰も文句いいません。生まれてきた光も、胸を張って皇太子位争いに臨めた、ハズでした。

しかし、すべては「たら、れば」のお話。現実は、
・祖父が「あと一歩」だったツケが、母の足を引っ張った。
・母が「あと一歩」だったツケが、光の弱みになった。
・結果として、光は皇太子になれなかった。
という、冷酷なものだったのです。そして、光が皇太子になれなかったことから、落胆した祖母は世を去りました

現代人から見たら(え、そこまで落ち込む⁈)と思うかもしれません。しかし、平安時代はガチガチの身分制度社会です。親が出世し損ねると、子や孫は大ダメージを食らいます。【敗者復活】はめちゃめちゃ難しく、一族全体が、ズルズル落ちぶれていく運命になりかねなかったのです。

ゆえに、光少年の敗退は、老いた祖母さんを打ちのめした訳ですね。

かくして光少年(数え年6歳)は、縁故主義の平安社会で母方の親族ゼロという、重~いハンデを負って生きていくこととなります。

光も負けた、でもまだ望みはある!

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さて、結論です。

要するに「桐壺」巻が語ろうとしているのは、
・惜敗を重ねてきた一族が、また敗退した。
・でも光少年は優秀で、しかも父・天皇って味方が一人残ってる!
・もしかしたら、光なら敗者復活できるかも⁈
というストーリーです。

なんとなく、「1話めでボコボコにされた主人公が、それでも立ちあがる」姿に、見えてきませんか?

『源氏物語』の滑り出しって、王道の少年マンガ的なストーリーなのです♪

まとめ

平安貴族、貴公子もレディも戦っていた

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天皇に熱愛されたお妃(桐壺更衣)が、他の妃たちにエゲツなくイジメられた…という部分が、目立ちがちな「桐壺」の巻。

実は桐壺更衣は、一族のため息子のため、踏みとどまって戦おうとした女性でした(力尽きて早逝しましたが…)。

他の妃、特に弘徽殿らも事情は同じ。平安宮廷、意外とサバンナだったのです。

そんな中に、
・母方親族のバックアップ、ゼロ!
・でも父は天皇、最強の見方!
という状態で放り出された光少年。たとえれば右手は徒手空拳、左手に伝家の宝刀というところでしょうか。弱みと強みを抱えた人生スタートです。

さて、光少年の将来や、いかに…。←実はこんなスリリングな話なんですよ「桐壺」巻って、というのが、本日のお話でした。


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