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映画『ホモ・サピエンスの涙』レビュー

「これは映像詩だ」「映画というより、美術鑑賞に似ている」「空を飛ぶ男女はシャガールの絵のオマージュだ」という声が目に留まって、気になっていて、先日観に行って来ました。

私は、普段、絵画を見ることが好きで、美術館には良く足を運ぶのですが、映画にはあまり行く機会がないです。(いつか映画好きの人と友達になれたら、その世界も堪能したい)まともな映画レビューにはならなそうですが、美術好きの視点からのレビューになります。よかったらどうぞ。

以下にオフィシャルのイントロダクションを貼っておきます。詳しくは、ホームページまで。

前作『さよなら、人類』でヴェネチア国際映画祭の金獅子賞(グランプリ)に輝き、さらに5年ぶりに発表した本作でも同映画祭で最優秀監督賞受賞という快挙を果たしたスウェーデンの巨匠ロイ・アンダーソン。CG全盛の時代にCGはほぼ使わず、野外撮影ではなく巨大なスタジオにセットを組み、模型や手描きのマットペイント(背景画)を多用するというアナログにこだわった手法で驚きの傑作を生みだしてきた。絵画のような映像美と、独特のユーモアが散りばめられた哲学的な世界観が絶賛され、これまで『散歩する惑星』(00)、『愛おしき隣人』(07)、『さよなら、人類』(14)と世界中の映画祭で受賞を重ねてきた。『ミッドサマー』アリ・アスター、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』アレハンドロ・G・イニャリトゥ、『ブラック・スワン』ダーレン・アロノフスキーなど、名だたる映画監督たちも敬愛する監督にロイの名を挙げ、映画ファンのみならず名匠たちをも熱狂させている。
“映像の魔術師”ロイ・アンダーソン監督が本作で描くのは、時代も年齢も異なる人々が織りなす悲喜劇。構図・色彩・美術と細部まで計算し尽くし、全33シーンすべてをワンシーンワンカットで撮影した。実在の名画の数々からインスパイアされた美術品のような贅沢な映像にのせて「千夜一夜物語」(アラビアンナイト)の語り手を彷彿とさせるナレーションが物語へと誘う。さらに、ビリー・ホリデイ、ザ・デルタ・リズム・ボーイズなど時代を超えて愛される歌声も登場。映画に彩りを与え、ロマンティックな雰囲気を纏わせる。
この世に絶望し、信じるものを失った牧師。戦禍に見舞われた街を上空から眺めるカップル…悲しみは永遠のように感じられるが、長くは続かない。これから愛に出会う青年。陽気な音楽にあわせて踊るティーンエイジャー…幸せはほんの一瞬でも、永遠に心に残り続ける―。人類には愛がある、希望がある。だから、悲劇に負けずに生きていける。悲しみと喜びを繰り返してきた不器用で愛おしい人類の姿を万華鏡のように映したアンダーソン監督渾身の傑作が、遂に日本に上陸する!

少し、ネタバレなしで感想です。

「本当に絵画を見ているようだ」と思う側面と、「インスタレーションか、コンテンポラリーアートと思った方が見やすい」と思う側面がありました。
映画を見る前、映画を観る時間そのもの、そして、映画を観終わった後の目に映る人や街までを、一つの作品だとしたら、すごく、素敵な作品だと思いました。総評として、とっても良かったので(人は選ぶと思いますが)おすすめしたい映画でした。ただ、映画単体を作品とすると、いつも私が美術館に行って、ドーンと感動したり、心身が平穏になったり、癒される感覚とは少し違う感覚を受けました。絵の前に立つと、すーっと画家の思いや、人となりや、時代の空気間などに引き込まれて、楽しめるのですが、この映画は前に立つだけだと、いまいち、入り込めません。この訳わからなさと、掴み所の無さは、コンテンポラリーアートや、インスタレーションを見るときのものと、似ているように思いました。後味がふんわり漂う体感が。

とても語りたい気分です。映画を観た後って語りたくなるんですね。それとも、この作品独特の読後感?のようなものでしょうか。いない…語れる人が…誰かと一緒に行けばよかった。いや、その誰かが思いあたらない…ということで、以下ネタバレ気味の一方的感想です。これから観に行くかたは、ここまでで。ふっと思い立った時、気楽に観に行くといいんじゃないかな、と思います。画面はずっとお洒落だし、ストーリーも心にキュッと引っかかるものが、何かあると思います。

以下一方的感想。

淡々と構図が美しく、色のトーンも、薄日が差した灰色がかったカラーで、たまらない可愛さ。アナログにこだわったという、漂うハンドメイドの温かみも相まって、抱きしめたくなる質感でした。ぎゅーっと愛おしさ、おかしさ、やるせなさ、可愛さ、情けなさが詰まった純粋な質感。あの光の強さはハマスホイの絵画にも似たものを感じます。北欧独特の強度なのでしょうか。

帰って、記事を読んでいたら、ロイ・アンダーソン監督が(映画紹介にあるシャガール、ククルイニクスイ、イリヤ・レーピン以外に)画家のエドワード・ホッパーや、バルテュスからの影響も語っているそうで、


あの構図は、あの漂う孤独は、そうだったのか~~!とすごく納得が行きました。


エドワード・ホッパー私、好きです。実物は見たことないですが。(エドワード・ホッパー展が1990年に東京都庭園美術館であったなんて。あの場所であの絵…想像するだけで素敵です。2000年にも、ひろしま美術館他であったそうで。)うっかり、エドワードホッパーのレビューになりそうなので、そちらは別の機会に。バルテュスは、少し苦手で詳しくないのですが、あの忍び寄る視点も、空気感も、映画に漂っていましたね。納得です。

全人類(ホモ・サピエンス)の感情の粒のようなものを、ひとつひとつ、大切に並べて、薄日を当てたような、映画でしたね。私は、大きな共鳴こそありませんでしたが、心に注いだこの映像や、ささやかな感情表現は、溜まりになって、どこかで、支えになるんだろうと思いました。

孤独の隣の感情を描くような、「生きたい」「生きています」「生きます」という声に溢れていたような。愛おしい。ままならなくても愛おしい、市井の人々でしたね。私は、ワインサーブのお爺ちゃんと、ヒールのお姉さん、かしまし三人娘、恋する青年、歯医者、精神科、無視する同級生、最後の車の話が、楽しめました。正直、途中退屈なところもあったので…76分でちょうどよかったです。

孤独にフォーカスが当たっていたせいか、帰り道に目に入るものが温かく見えたのは、作品のうちだったりしますかね。考えすぎかな。でもそうだとしたら、すごくアンダーソン監督を好きになりそう。他のアンダーソン監督作品も、見てみようと思います。アマプラにあるみたい!

と、いったところで、感想を終わりにしたいと思います。

以上、映画初心者の映画レビュー。美術好きのsazaでした。

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