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みんなの職員室 実践者インタビュー #2

 「みんなで創る みんなの職員室」を経て職員室での対話の場を実践している先生方へのインタビュー2回目は、東京都公立小学校の染谷先生、福田先生、久田先生の3名です。

染谷先生
東京都公立小学校主任教諭。教員歴は17年。環境の変化を求め、2015年から3年間、チェコ共和国、プラハ日本人学校に赴任し、3年間勤める。日本人学校の教員仲間とは、いつも「こんなことをしようと思っている」「これをしたら面白いのではないか」と語り合い、その土地ならではの教材で新しい授業を創る楽しさを知る。日本に帰国してTIに参加し、対話を通して自分の価値観をぶつけ合い、みんなで一つのワークショップを創っていく経験する。日本人学校やTIの経験を生かして、現任校でも対話が生まれる風土づくりや自分自身が学び続けていく仲間を増やしたいと思いながら働いている。
福田先生
デザイン系の大学を卒業。その後、デザインの会社に就職し、B2B向け広告制作、Webデザインに従事。10年間続けていた演劇を辞めることがキッカケとなり転職を決意。演劇で対話の楽しさを知り、もっと深く人と関わる仕事をやりたいとの想いで教員を志して、働きながら通信教育で教員免許を取得。教員1年目は産休代替で2年生を担任。その後、染谷先生が現在いる学校に移り、3年間特別支援教室を担当。今年から現在の学校に異動。自分の想いと、誰かの想いが合わさって何か面白いことが出来たらという想いで対話を積極的に推進している。
久田先生
染谷さんと同じ学校で4年生を担任。大学を中退して二十歳過ぎまで途上国を巡る。教育への想いが生まれ、塾で6年間受験産業に関わる。その後、大学に復学して教員免許を取得。昨年から現在の学校に入り、今年で担任2年目。

TIでの学びから対話の面白さを知った

小林:今の学校で行われている対話の会について教えてください。

染谷:私が今の学校に異動してきた3年前に、夕方の休憩時間の時にテーマを設けて来たい人が来て話をするみたいな、対話の会をスタートしました。少し見返してみたんですが、そんなに数は多く出来ていないんですけど、最初に大きなテーマ、普段考えないようなテーマを皆で話し合いたいなと思っていました。学校ってどんなところなんだろう、とか、いい授業って何なんだろう、とか。あと、年の初めの時には、今年やりたい事って何なんだろうね、って話してみたり。コロナの時は、何が出来そうかな、何したい、とか話し合ったりしました。私がずっと進めるのも良くないので、福田さんにファシリテーターをやってもらって、特別支援の視点からの切り口で皆で話をしてみたり、ということをやってきました。とにかく、問いを設けてみんなで話し合うような場ですね。

小林:3年前にどんな想いで始めたのですか?

染谷:異動した時期に「ティーチャーズ・イニシアティブ(TI)」に参加しました。TIで対話の面白さ、話しながら新しいものが生み出されていく感覚がすごく大きかったです。職場のみんなと仲良くなりたいというのもあったし、日々の業務的な連絡しか出来ないのではなくて、みんなの価値観か、どんなことを大切にしているんだろう、というのを知りたいな、と思ってやり始めたって感じですかね。

ティーチャーズ・イニイシアティブ
一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブは、「先生こそが真に未来をつくることができる」という考えの元、先生たちと共に学び、日本の教育をよりよいものにしていくために設立されました。21世紀型の学びを探求する先生向けのプログラム、「21世紀ティーチャーズプログラム」を全国の先生に提供しています。
https://teachers-i.org/

染谷さん

小林:この時に福田さんもいたのですか? 染谷さんが来て対話の会をやることに対して、周囲はどんな反応でしたか?

福田:はい、いました。染谷さんよりも1年早くに入りました。そうですね、タイミングが良かったと思います。管理職が変わって雰囲気も変わったところに、対話の話が出てきて受け入れられた感じがありました。

小林:管理職が変わる前の職員室の雰囲気はどうでしたか?

福田:正直1年目はなんでもつらいとは思うんですが、居心地は2年目、3年目の方が良かったですね。

小林:染谷さんは始めるときにそういう事は感じましたか?

染谷:前の雰囲気というのは話には聞いていましたが、だからやろう、というわけでは無かったし、乗ってくれる人がいたらいいな、くらいの感じでしたね。時間も休憩時間とかだから、全員が出られないかもしれないし、どうしようかな、と考えながらやっていました。嬉しかったのは、参加出来なくても給食の調理員さんが差し入れしてくれて、応援してるよ、と支えてくれたことですね。職員皆で集まるとか、一緒にやろうよみたいなことを応援してくれるような雰囲気はすごく感じましたね。

小林:久田さんは昨年からですよね。その時には対話の会があって、最初から参加したんですか?

久田:私が参加したのは、コロナの期間に出来なかったので、トータル2回だったと思います。学校としてまだ一枚岩というわけではなくて、当時の学年主任の方は、休憩時間に学校としてみんなでやることに対しては否定的でした。お互いバチバチしているとか全く無かったのですが、その方はそういう価値観で、その時間があるんだったら学年の仕事を進めてという感じでした。学年の仕事が無ければ参加するという感じでした。

小林:どのくらいの人数が参加しているのですか?

染谷:一番最初は多かったよね。たぶん、何だろうという感じで20人くらい来たのかな。普通にやる時は10人近くは来るのかな。同じようなメンバーですが、通級の先生が多いですね。外に出てお仕事して、また帰ってきてすぐ来る、みたいな感じで、本当に頭が下がるなと思います。

対話は心のビタミン

小林:福田さんが演劇をやっていた時に対話の価値に気付いた、と言っていましたが、具体的にはどういう事なんですか?

福田:平田オリザさんという芸術家がいて、高校・大学の時に出会って、劇団のメンバー募集のオーディションを受けに行ったんです。落ちましたけど(笑)。対話って、本当に面白いなと思ったのは、自分も変わるし、相手も変わるというところ。自分がAで相手がBだったら新しいCが生まれるという、その面白さっていうのがすごくしっくり来て、そんな楽しい豊かなことはないって思っていました。それは演劇の中で、役者をやっているときにすごく感じることです。セリフは決まっているし、セリフをこう言おうというのは何となく決めてやるんだけど、それをそのままやるんだったら、それはモノローグ、ダイアローグじゃなくて独り言になっちゃうんですよね。そうではなくて、相手のセリフとか動作とか、全て受け取ったうえで適切にリアクションするというのが役者としてすごく大事なことで、そうでないと本当に嚙み合わない演技になっちゃうんですよね。それが本当に対話であると私は思っていて。自分がただAでやるのではなくてAダッシュとかに変わった状態で相手に届けて、そうしたら相手がBじゃなくてBダッシュになって返ってくるというやり取りが演劇の中であるんですけど、それが生ものですけどスゴク心地よいというか鳥肌立つような。対話はすごく好きでした。

福田さん

染谷:いつも福田さんが、終わった後にラインとかでリフレクションみたいに送ってくれて、そこでまた対話が始まるんだよね。それがまた楽しくて。そういう感じでやってたりして。いつも自分が心が折れそうになることがあって、どうしようかな、と思うんですけど、福田さんが「対話って心のビタミンですよね」と言ってくれて、確かにそうだな、と思ってすごく救われたことがあります。今は、久田さんがオンラインのみん職ワークショップにいっぱい若者を誘ってくれたりして、活動の幅が学校じゃなくて外に広がっているなと思っていて、それは久田さんの力がすごく大きいんですよね。それこそ若手の会を自分で進めたりして。

もう一つの対話の場 若手会

小林:若手の会というのはどういう会なんですか?

久田:うちの学校は若手が多くて10人くらいいるんですね。若手会で一番年齢が高かった福田先生が異動されて、求心力が無くなってきている状態だったので、年齢だけいってる僕が声を出して、ちょっと5分対話しませんか、ということで始まりました。時間としては校務後の4時40分とか4時45分から5分、10分話そうよ、という形で集まって、何かしら誰かがテーマを持ってきて、皆でコーヒーを飲みながらお話するというのを週2回出来たらいいなと思っています。

小林:若手会はどのくらいの人数が参加するんですか?

久田:8人から10人くらです。そこにいてすごく感じるのは、あまり上と仲が良いという若手がいなくて、若い先生は若い先生同士で話す場を求めているのかな、と感じています。

小林:若手会と対話の会は雰囲気も違うんですか?

久田:対話の会はプレゼン資料があったり、若手会はおしゃべりの延長で気軽にコーヒーだけ持って参加できるというイメージでやれたらな、自分の意見を言わなきゃという抵抗感を下げられないかな、と思っています。

染谷:対話の会が本質的な問いみたいな、業務から離れているところをメインでやろうとしていたので、そこに価値を置かない人もいるし、若手はどうやって答えたらいいかわからない、みたいなこともあるかもしれないですね。本当は塾的なことをやってみようかな、と話をしていたのですが、若手が走り始めているから、今、私がどうこうやらなくてもいいのかな、と様子を見ていることです。

目的を意識するようになった

小林:対話の会は「みんなの職員室」よりも前からあったと思いますが、「みんなの職員室」に参加したことで何か変化がありましたか?

福田:一番印象に残っているのは、学年経営の話が多かった時ですね。そういう話は新たな気付きだったし、他の学校の皆さんも話しているから、うちの学校でもやってみたいなと思いました。染谷さんの学年はそういう雰囲気でやっていたから、それも良い見本になっていて、やってみたいなと思いました。うちの学校の中だけじゃなくて、外の意見でそういう話が出たので、より信頼感があると感じました。

久田:僕はそこまで対話に重きを正直置いていなかったんですね。塾であればマンパワーで十分押し切れるところがあったので、個人でやればいい、という意見を今でもすごく強く持っていて、あまり対話したから何、というのがあったんです。ワークライフバランスとか、簡単に出来ることは取り組みベースだけど、子どもとの教育上の悩み事とかってなかなか答えが無いものが多いな、というのをちょっとずつ感じるなかで、そういう答えの出ない対話でいろいろな人の意見に触れて、ああそうか、と思うことも多くて、人と話すって大事だなと感じました。外の人と話をしてみて、学校でもお話してみたいな、ということで若手会みたいなことをちょっとずつやってみたり、結構外の人とお話をさせてもらう機会をいただいたことは、自分の中でいいキッカケだったな、と思っています。

染谷:私はやっぱり、大空小の話から始まって、理念というか目的が大事だよね、みたいな話になるじゃないですか。対話と目的がいつもキーワードに上がってきて、その目的意識みたいなところは常に意識し始めるというか、これって何のためにやるんだろうと考えています。例えば、去年のコロナの影響で運動会が出来なくなった時に、新しくスポーツフェスティバルをすることになったんです。最初、運動会をなぞったような提案が出てきたんですね。ちょっと形を変えたような。でも、これって何のためにやるんだろう、というのを体育主任に投げて話をして、結局、運動会は親に見せるものが強いんだけど、そうではなくて、子どもたちのスポーツフェスティバルだから楽しめる時間にしたいね、という話になり、そういう行事になったと思うんですね。そういう目的意識みたいなところを強く意識できるようになった感覚はありますね。自分の中で。結構そういう人も増えてきているような気がして、そこから考える、という人がうちの学校の中にもいるなと感じますね。

いろいろな人たちとの対話が大切

小林:今後、この対話の会や若手会の活動をどうしていきたいのかを聞かせてください。

福田:僕は今の学校ではすぐには作れないですね。今は異邦人というか、ストレンジャーという扱いで、求心力も何も持てない状態。そういう場があれば、2番目に手を挙げるのは絶対僕なんですけど、1番目に誰か挙げてくれないと、と思っているのですが、それが挙がる感じはありません。この前の水曜日に研究授業をやって、学年で2回くらい指導案の検討をした時に、やっと本音で色々と言い合えたかな、という感じがありました。うちの学校はすごく特殊で、全員が研究授業をやるんです。そこまで事前の指導案検討が重視されているわけではなくて、校長が言ってたんですけど、そのあとにどうだったかを振り返ることで学びがある。研究授業では授業者がやりたいことを自分の主義や主張をしてやってみる。見た人は客観的にいろいろ意見を言うという学びの研究授業のスタイルがあって、それはすごくいいなと思っています。学年は3人いるから、年3回は対話の機会があるのかな、とちょっと嬉しくはあります。

久田:今後の展開は、こうしたいというのは結構思う所があります。成果と課題ははっきりしているな、と思ってます。成果としては、僕がわあわあ言うので、みんなもっと研究していこうぜ、とか、ガンガンもっと授業を良くしていこう、子どものためにいいことしていこうという熱とか機運は高まってきているんじゃないかな、と思っています。課題としては、少し取り残される人がいるかなと思っています。主任級が力があるので、若手が自分の想いとか考えとかをドンとぶつける環境にあまりないと思ってます。もっと若手会とかで、校務すら分担して、仕事が忙しそうな人はどんどん居やすくしてあげて、みんなに気持ちの余裕も作って、どんどん価値観を共有していく中で、これいいね、と伝えてあげたり、学年でもどんどん発信していく。そんな若手からボトムアップするための自信作りを若手会で出来たら、学校はもっと良くなるんじゃないかな、と思います。主任たちにどんどん当たっていく若手会にしていく、を目標にして対話を続けていこうと思います。

久田さん2

染谷:今の話を聞いていたら、対話の会が今は出来ていないのですが、若手との分断でもないんだけど、包括していろいろな人達がいる中での対話というのが大事なのかな、って思ったから、場は用意した方がいいのかな、と思ってます。対話の会で若手にファシリテーターをお願いしたいと最初は言ってたんだけど、ちょっとハードルが高いというか、ドキドキしちゃうと思うんですよね。もっとフランクな形の会にしないといけないのかな、と思いましたね。私の役割としては、場を設けるのもそうなんですけど、いろいろな外部のこういう会があるよ、とか、こういう本を読んだよ、とか、そういう刺激を与え続けて、みんなでちょっとこうしてみようよ、みたいな雰囲気を作って行くのかな。前向きな職場であれば、形がどうであれ、ただ愚痴が出て子どものせいにするようなのではなくて、あれやってみたいよね、みたいな、そういう雰囲気にはしたいなとすごく強く思っているから、その姿をまず見せていくのかな、と思っています。具体的にこれをやる、というのは浮かんでいないけど、雰囲気というか気概というか、そういう人たちを増やしていくのかな。

小林:階層的に若手会と対話の会があるのはいいな、と思いました。それでは、最後に一言ずつお願いします。

染谷:今こうやって対話をしていて、なんか、みん職気分になったんですけど、みん職はやっぱりいろいろな人たちとの話の中で、自分はこういう風にしてみたいな、というのが生まれる場だな、と思っています。定期的に全部は出られなくても、いろいろな人とこうやって話をしていく、ということが自分にとっての気付きになるから、みん職の存在価値はすごく大きいなと、今、感じたところです。ただ、これをやらなくちゃいけないとか、やれなかったら自分がダメだ、みたいに思っちゃうのは辛いので、気付きをみんなで共有したりしながらも、形にならなかったとしても、話せる仲間を増やしていくだけでもすごく大事なことだな、そんなことを感じていました。

福田:みん職の良さって、大きく二つあって、一つは染谷先生の話と同じで、いろんな人と話して、いろいろなアイディアが自分の中に生まれることです。弊害としては、この対話に参加していない人から見たら、なんでそんなことやろうと思うの、という感じで、中々すんなり受けてもらえない事です。異質なものとして扱われてしまうことがあって、そこは僕が対話をして、こういう意図でやりたいんです、と伝えていく必要があるなと思っています。そういう意味で、本当にやってみたいな、というアイディアが生まれる場所ですね。もう一つは、さっき染谷先生が、こころのビタミンって言ってくださいましたけど、本当にそうだと思っています。こういう場所で僕はすごく勇気付けられていて、話すことで自分と他者との違いも見えてくるんだけど、なんか共通している部分みたいなのが、すごく安心、というか嬉しいというか。自分は基本的には自信が無いんですけど、こうやって話せたとか、聞いてもらえた、とか、わかってもらえた、みたいな場があると、次に進める、頑張ろうって思えます。漠然とした何かエネルギーをもらえる感じがすごくあって、本当にこういう場に誘ってもらえてありがたかったな、またやっていきたいな、と思ってます。

久田:対話を通していって、この一年以内に今の学校が理想郷のような素晴らしい職場になるのか、と思ったら、まあそうはならないだろうな、と思います。でも、みん職だったり、外部の勉強会に参加させてもらって思うのが、10年後に染谷先生が管理職になって、20年,30年後に僕とか福田先生が管理職になるとして、こうやって若いうちに参加させてもらったことが残っているのかな、もしかしたら50年後という目で見ると、そういう種蒔きをしてもらったものが花開くことがあるのかな、と考えると、絶対に残るな、と思っています。やらなきゃいけないこと、やりたいことがあまりにも多すぎる職場なので、自分たちが大切にしたいもの、みたいなものがこういう対話を通して、なんとなく自分の中に残っていくような感じがしています。ちょっとずつ、ちょっとずつ勉強しながら、実力も付けながらですね。

【インタビューを終えて】

今回は「みんなで創る みんなの職員室」ワークショップを一緒に作り上げてきた染谷先生にインタビューをお願いしました。染谷さんは対話の会を自ら作り、職員室の中でもたくさんの仲間と共に子どもたち目線の素晴らしい環境を作ってきているのですが、いつもこれでいいのかな?とモヤモヤした気持ちを持たれています。モヤモヤがより良い環境を作る原動力なのではないかとインタビューを通じて感じることが出来ました。

福田先生と久田先生は共にユニークな経歴をお持ちであり、教員以外の経験を含めて得られた価値観が素晴らしいと感じました。それぞれの価値観を大切にしながら、学校現場をより良くしていこうと行動されていて、染谷先生にとっても力強い仲間なのですね。

若手からベテランまで、それぞれの立場で対話を作って行く中で葛藤も感じられました。実践しているからこそ課題が見つかり、それを解決していこうとする先生方のこれからの取り組みが楽しみです。

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