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4月26日(1995年) 積み重ねてきた努力とピッチが踏みにじられた日

 1995年4月26日(水)、浦和レッズはホーム大宮サッカー場に清水エスパルスを迎えてJリーグ1stステージ第11節を行い、2-3で敗れた。試合終了直後、レッズサポーター10数人がスタンドから飛び降りて、清水のGKシジマールを追いかけ回すという事件があった。

接戦を制したのは残念ながら清水

 1995年の話が、しかも僕が病気療養中で仕事を休んでいるときの話が続くが、この日も「浦和レッズの30年」から外せない。
 例によって試合は見ておきたいから、スタッフADで大宮サッカー場のメーンスタンド、端の方に僕はいた。
 この清水戦、内容は悪くなかった。
 先制されたレッズが、後半開始早々に追い付き、その後勝ち越されたが、福田正博のPKで再び追い付いた。しかし逆転のチャンスをモノにできないまま、85分にセットプレーから三たび勝ち越され、これが決勝点になってしまった。

調子が良くなってきたときだけに接戦をモノにできず残念だった(MDPから)

 試合終了のホイッスルが鳴った。
 そのときボールは清水のゴール付近にあった。ゴールキックが蹴られる前に笛が吹かれたのかもしれない。
 接戦を制した清水のGKシジマールが、このボールをゴールに向かって蹴った。ボールはネットを揺らしたが、もちろん突き破るようなことはない。

10数人が飛び降りシジマールを追った

 だが、後半の清水ゴールはレッズサポーター側。ゴールの真裏にいた人は、一瞬ボールが向かってくるような感覚に襲われたかもしれない。そうでなくても、シジマールのキックが自分たちへの挑発と受け取ったサポーターはいたようだ。
 10数人のレッズサポーターがフェンスを越えて飛び降り、シジマールに向かった。身の危険を感じたシジマールは反対方向に走って逃げた。それを追ってサポーターもピッチの上を構わず走った。10数人の中には、仲間を止めるために降りたサポーターもいたらしいが、その区別はつかなかった。
 メーンスタンドから詳細な経緯は見えなかったが、両クラブの運営や警備が間に入ったのだろう。最後はシジマールがレッズゴール裏の近くまで行き、ヒザをついてスタンドに頭を下げ、謝ることで一応の決着を見た。

クラブの悲痛な思いがMDPに掲載

5月3日のMDP巻末。クラブの悲痛な思いが綴られている

 クラブは事態を重く見た。
 それまで大宮サッカー場のホームゲームでは、ゴール裏のフェンスの下にサポーターが荷物を置くことを認めていた。またゴール裏などのフェンスにダンマクを取り付けたり外したりする際に、一時的にスタンドから降りることも認めていた。紙吹雪を拾ったり、荷物を取りに行ったりするときも同様だった。しかし、この後は、下に降りることが一切禁止された。
 またゴール裏スタンドの前2列をロープで仕切って立ち入り禁止とし、サポーターズクラブのリーダーに限って、万一の飛び降りを防止する義務を負うことを条件に、氏名などを事前登録して前列に入れるものとした。

 次のホームゲームは5月3日。その日のMDPには、今後のホームゲームではそういう措置を取るという告知と共に、相手の選手を追いかけ回すという行為がサッカー文化そのものを壊すことであると、切々と訴えるクラブの文章が載った。
 休職中だった僕は、その原稿を事前に見せられて、それを書いたクラブスタッフの悲痛な思いを感じた。

「甘い」のではなく「信頼」だったのだが

 おそらく他のクラブやJリーグから「浦和はサポーターに甘すぎる」と非難され続けても、レッズは紙吹雪の使用や、問題のない時間帯に用事のためにピッチに降りること等を容認してきた。それは甘いとか厳しいとかではなく、スタンドの主人公はサポーターであり、彼らが創意工夫あふれる応援をするために、制限は極力排除する、というスタンスの表われなのだ。その底流には、やってはいけない最低限のルールは守るはずというサポーターへの信頼があった。
 やってはいけない最低限のルールとは何ら特別なことではなく、人を傷つけることや物を壊すこと、人が密集する中で火を使うことなど、普通に考えればわかることだ。

あの日踏みにじられたものは

 そういうレッズのスタンスを曲げて、サポーターにいろいろな不自由を強いる文言を書かなければならず、Jリーグや他クラブから「それ見たことか」という目で見られたに違いないレッズのスタッフは、さぞ悔しかっただろう。
 
 あの日、飛び降りたサポーターは、ピッチの芝だけでなく、レッズが積み重ねてきた努力も踏みにじったのだと思う。
 
 さて、みなさんは1995年4月26日、何をして何を感じていましたか?

※この内容はYouTube「清尾淳のレッズ話」でも発信しています。映像はありませんが、“ながら聞き”には最適です。
【あの日のわたしたち~浦和レッズ30年~】は、レッズサポーターのみなさんから投稿を募っています。浦和レッズ30年の歴史をいっしょに残していきましょう。詳しくはマガジン「あの日のわたしたち~浦和レッズ30年~」のトップページをご覧ください。


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