#11 【コラム5】ツバメ−季節になれば田のうえをカネが舞う
ツバメがザルにてんこ盛り
ギアロ付近では黒タイ、ムオン、ザオなどの人たちがツバメをとらえて食べている。時期は7月から10月くらいだろうか、市場に行くと、ツバメがてんこ盛りのザルを並べて売る女性たちの姿も見かける。2015年で1羽15円程度だった。
毛をむしり、下処理に内臓を取り出す。それを火であぶって焼き鳥にしたり、俎のうえで骨ごと細かく切って砕いてから野菜と炒めたりして食べる。伏見稲荷の参道の名物、スズメの丸焼きをおいしく召し上がれる人ならツバメも大丈夫だ。
新幹線なみの素早さで田のうえを飛び翔るこの小鳥たちを捕獲するのに、熟練もカミワザも必要ない。「おともだち」に任せておけばいい。それがオトリ猟だ。
ツバメのオトリ猟
仕掛けにはいくつかタイプがある。次のようなのが古いタイプだ。
1メートル50センチくらいの高さの支柱をつくる。支柱のてっぺんから、放射状に大枝が8本ぐらい弧を描いて横に延びている。それぞれの大枝には、10センチあまりの間隔で30センチほどの長さの小枝が斜め上にのびている。小枝にはニカワが塗ってある。ついでに、これが重要なのだが、「おともだち」が大枝1本につきだいたい1羽ずつとまっている。その「おともだち」は実は死体で、オトリなのだ。
こんなワナの木を、田の畦に何本も立てる。疲れたツバメが、「おともだち」の近くで休もうと小枝にとまると、ニカワにくっついて逃れられなくなってしまうのだ。
このワナがじきに電気仕掛けに発展した。こちらの場合、支柱は高く3メートルもある。支柱の先にT字型に枝がある。枝のうえに何羽も「おともだち」がならんでいる。
このワナの木を何本も畦に沿って一直線にたてる。さらに、このワナの木の列に沿って、枝のない高い柱をもう一列ならべ、端から端まで、てっぺんからてっぺんへと伝う鉄線を一本張りわたす。鉄線の高さは、T字の枝のほんのちょっと上くらいだ。この鉄線に電気を流し、ツバメが鉄線にとまると感電する仕組みをつくる。こちらの方がニカワを小枝に塗ったり、それを大枝にセットしたり、ニカワからツバメをはずしたり、という手間がいらない。
ツバメはボロいぜ!
2004年にはすでにこんなツバメ猟を現地で見ていたから、ギアロ付近のどの民族かの習慣だろうと勝手に思いこんでいた。しかしよくよく考えてみると、2000年以前にこんなワナの木など見たことがない。また、ツバメがギアロの特産だなんて話をどの古老からも聞いたことがない。ちょっと不審に思い、ネットで調べて見た。
驚いたことにというべきか、やっぱりというべきか、カスミ網を使ってでもツバメを大量捕獲して売りさばき、「ツバメはボロいぜ」とうそぶいている人がベトナム各地にけっこういるのだった。だとすると、ギアロ付近のツバメ食がはじまったのもけっこう最近かもしれない。このままではツバメがとり尽くされるのでは、と心配になる。実際、地域によっては、ツバメのみならず野鳥の乱獲を行政が取り締まりはじめている。金儲けにさとい人がいくらでもいて、カネになるとなれば資源が枯渇するまで乱獲する。なにしろベトナムなのだ。
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