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#11 【コラム5】ツバメ−季節になれば田のうえをカネが舞う

左右社

リングにあがった人類学者、樫永真佐夫さんの連載です。「はじまり」と「つながり」をキーワードに、ベトナム〜ラオス回想紀行!(隔週の火曜日19時更新予定)今回はある焼鳥の話です。

ワナの木が並ぶ刈田を眺めていると、手仕事をしながら歩いてきたザオの女性
(2005年 ベトナム、イエンバイ省)

 ツバメがザルにてんこ盛り

 ギアロ付近では黒タイ、ムオン、ザオなどの人たちがツバメをとらえて食べている。時期は7月から10月くらいだろうか、市場に行くと、ツバメがてんこ盛りのザルを並べて売る女性たちの姿も見かける。2015年で1羽15円程度だった。
 毛をむしり、下処理に内臓を取り出す。それを火であぶって焼き鳥にしたり、俎のうえで骨ごと細かく切って砕いてから野菜と炒めたりして食べる。伏見稲荷の参道の名物、スズメの丸焼きをおいしく召し上がれる人ならツバメも大丈夫だ。
 新幹線なみの素早さで田のうえを飛び翔るこの小鳥たちを捕獲するのに、熟練もカミワザも必要ない。「おともだち」に任せておけばいい。それがオトリ猟だ。

ツバメの羽をむしる市場の黒タイ女性たち(2004年 ベトナム、イエンバイ省ギアロ)

ツバメのオトリ猟

 仕掛けにはいくつかタイプがある。次のようなのが古いタイプだ。
 1メートル50センチくらいの高さの支柱をつくる。支柱のてっぺんから、放射状に大枝が8本ぐらい弧を描いて横に延びている。それぞれの大枝には、10センチあまりの間隔で30センチほどの長さの小枝が斜め上にのびている。小枝にはニカワが塗ってある。ついでに、これが重要なのだが、「おともだち」が大枝1本につきだいたい1羽ずつとまっている。その「おともだち」は実は死体で、オトリなのだ。
 こんなワナの木を、田の畦に何本も立てる。疲れたツバメが、「おともだち」の近くで休もうと小枝にとまると、ニカワにくっついて逃れられなくなってしまうのだ。

「おともだち」を枝にスタンバイさせるザオの少年(2005年 ベトナム、イエンバイ省)
「おともだち」がとまったワナの木(2005年 ベトナム、イエンバイ省)

 このワナがじきに電気仕掛けに発展した。こちらの場合、支柱は高く3メートルもある。支柱の先にT字型に枝がある。枝のうえに何羽も「おともだち」がならんでいる。
 このワナの木を何本も畦に沿って一直線にたてる。さらに、このワナの木の列に沿って、枝のない高い柱をもう一列ならべ、端から端まで、てっぺんからてっぺんへと伝う鉄線を一本張りわたす。鉄線の高さは、T字の枝のほんのちょっと上くらいだ。この鉄線に電気を流し、ツバメが鉄線にとまると感電する仕組みをつくる。こちらの方がニカワを小枝に塗ったり、それを大枝にセットしたり、ニカワからツバメをはずしたり、という手間がいらない。

T字型の枝の上に並んでいる「おともだち」。ちょっとやつれた「おともだち」もいる
(2015年 ベトナム、イエンバイ省ギアロ)

ツバメはボロいぜ!

 2004年にはすでにこんなツバメ猟を現地で見ていたから、ギアロ付近のどの民族かの習慣だろうと勝手に思いこんでいた。しかしよくよく考えてみると、2000年以前にこんなワナの木など見たことがない。また、ツバメがギアロの特産だなんて話をどの古老からも聞いたことがない。ちょっと不審に思い、ネットで調べて見た。
 驚いたことにというべきか、やっぱりというべきか、カスミ網を使ってでもツバメを大量捕獲して売りさばき、「ツバメはボロいぜ」とうそぶいている人がベトナム各地にけっこういるのだった。だとすると、ギアロ付近のツバメ食がはじまったのもけっこう最近かもしれない。このままではツバメがとり尽くされるのでは、と心配になる。実際、地域によっては、ツバメのみならず野鳥の乱獲を行政が取り締まりはじめている。金儲けにさとい人がいくらでもいて、カネになるとなれば資源が枯渇するまで乱獲する。なにしろベトナムなのだ。

電線を使ったツバメとりの仕掛け(2015年 ベトナム、イエンバイ省ギアロ)


関連リンク▼
「麻薬」
「ゾックン峠の野火−ベトナム、タイ族の囲炉裏収集のこぼれ話」『みんぱくe-news』2016年6月1日刊行
「山の薬草」
「(異文化を学ぶ欄)バブリーなアジア(3)-火の鳥を求めて」『毎日新聞』(夕刊)毎日新聞大阪本社、2008(平成20)年6月18日(水)

樫永真佐夫(かしなが・まさお)/文化人類学者
1971年生まれ、兵庫県出身。
1995年よりベトナムで現地調査を始め、黒タイという少数民族の村落生活に密着した視点から、『黒タイ歌謡<ソン・チュー・ソン・サオ>−村のくらしと恋』(雄山閣)、『黒タイ年代記<タイ・プー・サック>』(雄山閣)、『ベトナム黒タイの祖先祭祀−家霊簿と系譜認識をめぐる民族誌』(風響社)、『東南アジア年代記の世界−黒タイの「クアム・トー・ムオン」』(風響社)などの著した。また近年、自らのボクサーとしての経験を下敷きに、拳で殴る暴力をめぐる人類史的視点から殴り合うことについて
論じた『殴り合いの文化史』(左右社、2019年)も話題になった。

▼著書『殴り合いの文化史』も是非。リングにあがった人類学者が描き出す暴力が孕むすべてのもの。


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2005年設立の、人文書・文芸書を中心に刊行する出版社です。左右社という社名は書家の石川九楊先生に付けていただきました。亀のかめ吉を飼っています。