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#尖端的こぼれ話

はじめまして、文筆家の平山亜佐子(ひらやま・あさこ)と申します。
この度、左右社より『戦前先端語辞典』という著書を2021年1月31日に発売しました。


おかげさまで、2/2にはまさかの重版が決定しました。

(わーパチパチパチパチ!)


そして、面白そう! 読みたい! 買った! などの声がちらほら聞こえてきたりして、うれしい限りです。
本当にありがとうございます。

ここで今いちど、どんな本かというざっくりとした(ねっとりしてたらごめんなさい)紹介と、見どころなどをお伝えしようと思い、筆を執りました。

まずは本書の内容から。

本

平山亜佐子(編著)山田参助(絵・漫画)
『戦前尖端語辞典』(左右社)1800円+税

大正半ばから昭和初期にかけて大量に出版された流行語事典のなかから、今見ても面白く、楽しく、考えさせられる言葉を集め、
語釈をそのまま採録し、解説をつけ、当時の文芸作品から用例を引いた辞典風読み物です。


この時期の日本は、ご存じの通り、戦争、震災、パンデミック、大恐慌、テロ……と激動の日々でした。


けれども、流行語から垣間見える当時の人々は、お調子者で、どこか能天気、自虐を交える余裕すらありました。


金田一秀穂先生が寄せてくださった推薦文に

「この豊かさを私たちはいつ失ったのだろう。ここに豊かな発想の源泉がある。忘れてはなるまいぞ」

とあります。
百年後の今、まさにパンデミックの渦中にるわたしたちが、あらためて過去の人々の生活や思想に「言葉」を通して触れて、
ほんの少し楽しく生きるヒントを見つけられたらと思っています。


令和の画聖、山田参助さんの絶妙な画や漫画、当時のカット、写真絵葉書、マッチラベルなどビジュアルも豊富でとても楽しい一冊!

となっております。
うん、面白そうだ。


というわけで今回は、本書に掲載された山田参助画聖のイラストの中で、平山がとくに気に入っている5点をご紹介します!


平山亜佐子 イチ押し参助さんイラスト★トップ5(順不同)

①「ざくばら」ブラザース(p.42)

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老若男女、誰を描かせても可愛いことで定評のある山田参助さんですが、とくに男子学生の可愛さは言葉では言い表せません。
この「ざくばら」ブラザースのほっぺの愛らしいことよ、突き出た唇の小憎らしいことよ。
ちなみに、「第七天国」(p.43)くんと「面皰連(にきびれん)」(p.163)ブラザースは同級生だと思うのですが、いかがでしょう。
本書をご購入くださった方は、ぜひご確認くださいませ。

②「ナオミズム」のおっさん(p.84)

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このカップルは本書カバー右下、タイトルの「戦前」の「前」の下といういい位置にいるためか、SNSなどでも話題になっていました。
とくにおっさんの方は、谷崎潤一郎のようでそうでないような、いい匙加減です。
注目ポイントは、おっさんの後ろ首の皺。
このディティールが参助さんなんだなあ。

③「浅草式」シスターズ(p.122)

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楽しそうなのに少し悲哀もあったりして、ペーソスを感じる一枚。
白粉を塗って同じお化粧をしていますが、個性も感じます。
きっと舞台を降りれば彼女たちにもそれぞれの生活があるのでしょう。
がんばれ、「浅草式」シスターズ!

④「馬」の旦那(p.181)

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どこかの大店のボンボンを思わせる、おっとりしているこの旦那。
遊廓でお金が足りなくなって家まで馬を連れてきているというのに、余裕綽々であります。
かえって馬の方が不安になってしまうのは、庶民の悲しい性。

⑤「隠語」の兄弟(p.179)

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「隠語」の扉にいる二人は、「アニキ」「兄弟」と呼ぶ仲。
血は繋がっていませんが、きっと契りは交わしているのでしょう。
悪事をたくらむときはいつも一緒、だけどあんまり大きな仕事は怖くてできません。
なんて妄想をしたくなる、憎めない二人組です。


以上、イチ押しイラスト5点をご紹介しましたが、これ以外にも楽しいイラストがたくさん入っています。
みなさんのお気に入りをぜひ見つけていただけたらと思います。

……最後に、ひとつお詫びがあります。

Amazonなどで本書の説明に

「ガッカリアイエンコ」が「デスペレート」 でその「エル」が 「羅漢様」で 「ゲシュペンシュテル」……この意味わかるかい?

とあります。
これは巻頭の山田参助さんの漫画のセリフから引用されているのですが、実は「デスぺレート」の収録が本文にありません。


たくさんの語を入れようとして頑張ったのですが、校正の段階でどうしても入りきらずに外してしまったのです……すみません!


というわけで、この場を借りて入るはずだった「デスぺレート」の語釈と解説、用例を入れておきます。

【デスペレート】[ですぺれーと]
(英 Desperate)無向う見ずの、自暴自棄な、絶望的な、という意。『彼女はひどくデスペレートな気持で家を出た』など。②

「デスパレートな妻たち」というアメリカのドラマがあったが、七十八年前の日本で「Desperate」が人口に膾炙していたとは驚く。期待するから絶望がある。下克上が可能になった近代ならではの期待と絶望……と考えればなかなか趣き深い。そしていまやデスペレートが通低音である。

《用例》
「そこへ行くと君はまだ、一高を受ける勇気があるだけでも偉い。」「俺か。俺のはーな勇気さ。」(久米正雄『受験生の手記』昭和二三年)


本書は、昔の小説で見かけた言葉、初耳の言葉、なんだか親近感が湧く言葉など、戦前の面白くてためになる流行語が詰まっています。
気が向いたら100年後の令和三年に使ってみて、もう一度流行らせていただけたら、とても嬉しく思います。

あなたも今日から、レッツ尖端語生活!

平山亜佐子(ひらやま・あさこ)
文筆家、デザイナー。『20世紀 破天荒セレブ ありえないほど楽しい女の人生カタログ』(国書刊行会)『明治大正昭和 不良少女伝 莫連女と少女ギャング団』(河出書房新社)など。


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