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T氏との待ち合わせ

T氏が買ってきたお土産を

受け取りに出向いた。



彼が指定した場所は、彼の自宅から数分の最寄り駅だった。


私の自宅では無く、T氏の自宅の最寄り駅。


お土産を受け取りに片道40分かけて

私は受け取りに行くのである。




「どうしてもやらなければならない事があって

家から離れることができないんだ」


お詫びの言葉と共に、待ち合わせの希望日時が書いてあったT氏からのメール。


何の事情かは分からないが、

私はあえて何も聞かなかった。



聞いたところで、
それが事実なのか嘘なのか?

疑う事が自分にとって無意味なことだと
思えてきたから。


T氏からのお土産。

最初に会った時の私の言葉。



「どちらを気にいるか分からなかったから、
2つ選んだよ」


一つの紙袋の中に小さな箱が2つ。


私の何気ない言葉を覚えていてくれたことが

何より嬉しかった。



ありがとうとお礼を言い、
旅の話を聞こうとした時、


「ごめん、もう行かないと…」


旅の話をする余裕はなかった。


何が彼をそんなに急かすのか?
今思えば、家に誰かいたのかもしれない。


そんな疑いの気持ちはその時の私には皆無で、

T氏が私の言葉を覚えていてくれた事への嬉しさと

「私は大事にされている」

そんな気持ちで満たされていた。


随分と単純な思考回路だなと思う。


次に会う約束をする言葉もないまま、

私は駅の出口で急足のT氏を見送った。




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